166 割とシリアスな問題(その3)
読者の皆様どうもこんばんわ。
今日は少し短めです。それでは今週の不憫をどぞ!
薄い雲の掛かった青っぽい曇り空。風は爽風然とした穏やかなもので、気候もちょうど良い感じと言えるだろう。
森はそれほど茂っておらず、普通の動物(リスやウサギ、シカ等)も適度にいるのでおそらく魔物の発生はないのかもしれない。あるいは、湧いていてもレベルが相応に低いか。
そして村を囲む草原も穏やかだ。きっと、もう少し晴れていたなら良いピクニック日和だと寝っ転がったことだろう。
そんな、一見平穏な感じの場所で種族の違いはあれ『人』と付く存在を同じ『人』が素材として解体していたとは、正直信じられない話だった。
同時に、この場所が呪われているということも。
だからこそ、長い昔語りが終わって一呼吸置いた魔王に向けて、疑問をぶつけてみた。
「なあ、この地が呪われているんなら、なんでそれが私や親父にわからなかった?」
そう、それが一番の疑問点。
私は今まで幽霊と契約してきた実績があり、また呪いも呪いも依頼等で行ってきた。そして、親父は元悪霊であり、呪いを発動した事のある実績ある幽霊(かどうか謎な存在)である。
この二人にかかって察知できない呪いなんて、それ本当に呪いなのかと問いたくなるわけだ。
「まぁ、親父殿とライの考える『呪い』とは別系統だろうからな。」
魔王は頭をひねりつつ、続けた。
「そんな理論に基づいたものではなく、これはむしろ感情で偶発的に起こるようなものだ。ま、一つの災害ではないだろうか。」
ほら、ライだってキレたら狭い場所だろうがカメムシ爆弾投下していただろ? あれと同列だって考えればいい。
冷静に続ける魔王。そう言われてしまえば納得せざるを得ない。理解できずとも。一方で、親父は納得も理解もできていない様子で魔王に対して詰め寄っていた。
「おいおい、それだけだとどうやって痕跡遺さず発動できるか説明になってないじゃないか。自分を生贄に発動する術式でさえちゃんと本人の痕跡と意識は最低でも残るのに、おかしいだろ?」
親父曰く、呪いの継続は呪い発動者の意識が残っているからこそ起こると。実際それは事実で、満足したり納得した・呪いコストが尽きて現世に居れなくなった等の場合、呪いは跡形もなく消える。
だから、呪い発動者の見えない場所でコストもなく働き続ける呪いは意味がわからない。それが親父の言い分だろう。
この問いに対して魔王は眉間のシワを深めた。
「ふむ、吾が答えらえる領域は決まっておるからな……ただ、死力を尽くして仇を討たんと散ったとしか言いようがあるまい。」
そう言いながら周りへ魔王は手をかざしながら呟いた。
「とはいえ、呪いが発動する対象者は『普人族―町民階級以上』に限定されておるからなんとでもなる。」
そなたらは確かに盗賊で、今は使い魔であろう? そして助けた奴隷は凡人族(普人族の蔑称の一つ)共でいうところの『奴隷』のままだったな?
そう呟きながらニヤニヤする魔王。一体何を起こす気だろう。
そして魔王の問いかけに対して、リーダーは気絶という態で答えた。キャパオーバーです、と。
「なんじゃ、ったく。軟弱な、これだから平凡族は。」
「私もその平凡族なんだがな。」
つま先で白目リーダーをツンツンしつつ、魔王は再びぼやいた。
「なら、こいつが再起動する前に面倒ごとは終わらせてやろう。」
ほら、家建てるんだろ?
目をキラキラさせながらたずねる魔王。一瞬魔王がトムソーヤ並みのいたずら小僧姿に見えてしまった。おかしい、いい年したおっさんのはずなのに。
さらに少年魔王に半袖半ズボンと虫かごと虫あみ、果てには麦わら帽子まで幻視したので、親父を脇チョップしてみた。
「ヒャァ!? な、なにするんだ!」
変な声をあげて仰け反る親父。そしてびっくりするじゃないかと抗議する親父。やっぱり夢ではなかった。
目をこすってもう一度見ると、まだやらんのかと抗議する少年魔王。やはり夢ではなかったか。
「……とりあえず、今回は見学な。」
そう言いながら事前に用意しておいた術式『“村”作成』を展開。範囲は廃れた掘建小屋や畑の跡地がある場所。一応事前にある程度家具等が撤去されているは確認しているので、本人に断りなくやっているが大丈夫か。
ま、解体する手間が省けたと思って欲しい。
Landscape seeker; level them(均せ)
文字通り、目の前の光景を『均す』魔術式。大規模だが、指令が少ない分コストも低い。ただ、何もない空間が勝手に半壊の家や雑草畑を潰して均一な土色の地面にする光景は、なんとも気味が悪いく本能的に恐怖を感じた。
尚、魔王はこの様子を黙って見つめている。かなり真剣モードである、姿以外は。
Constructer; construct the base on appropriate place.
(適切な場所へ基礎を建てろ)
今度は少しだけ複雑な指令。とはいえ、基礎自体は別に作ってあるものを移転させるだけの簡単作業。ただ、空間把握能力に欠如していると、めり込んだり宙に浮かんだりと、バグった光景になる。
魔王は突如現れた家の土台へ目を輝かせる。
そして最後、というかメイン。
Constructer; build the main body(本体を建てろ)
術式はシンプルだが、その分イメージ補充。実際に建築した際行った樹木の計測作業やコンクリの乾かし作業、他にも断熱材や火災防止用の間充材を追加。
ついでにこの地域は寒暖の差が激しいので家の作りにも気を使う。窓から日差しは入りやすく、冬はこれで暖かいだろう。かといって、夏は暑いので通気性はよくしておく。
そして外装はモデルを英国の『カッスル・クーム風』にした。あっちでは『蜂蜜色』と称される石灰岩による素朴な色彩は、まさにロマンそのものであった。
これには魔王も感涙していた。
一瞬エディンバラと迷ったのだが、前世であそこには行ったことがなかったので諦めた。やっぱり実物みたことがなければ再現は難しい。
そして肝心の畑に関しては……
「召喚術式でアンドレイ」
地面が円形に白く光り、その中央から庭師姿の青年が生えてくる。手には剪定ばさみ、腰にはジョウロやスコップを引っ掛ける紐、グレーの作業服姿。
そして、顔はまさに不機嫌そのものだった。
「作業を中断させると一体なんのよ……」
絶句し、周囲を見渡すアンドレイ氏。徐々に頭へ地が上っていくのが見て取れた。
「誰だこんな手遅れになる前にちゃんとした庭師に整備させなかったやつは! こんな状態なら畑に作物が出来ないに決まっているだろうがこの馬鹿野郎!!」
ブチ切れた庭師アンドレイ氏。そして我々を視界に入れる間もなく作業に入った。
「というわけで、アンドレイへおまかせ。」
「それは単なる丸投げだろ、おい。」
そうとも言う。
尚、アンドレイ庭師本気モード(別名職人モード)に移行すると、邪魔されようものなら檄代わりにスコップ(凶器)や栄養剤(塩基性)が飛んできます。




