15 食と湯…時々変態
読者の皆様どうもこんばんは。何とか投稿間に合いました。それでは今週の不憫をどぞ!
過去のトラウマを乗り越えて、取り敢えず惚けた状態の癒しを門の中へ入れた。もっとモフモフしたいのだが今は自重しておこうと思う。今日からの新しい家族だ、なるべく良好な関係を築きたい者である。
現在目指している場所は風呂場。
家へ上げるにしてもやっぱり多少は汚れているのでその辺はきちんとしないと。足跡とか付いたらそれはそれで可愛いが掃除する側が後で大変になる。ペット家で飼うなら有る程度清潔にするのは常識。特に***の元配下であっても基本放し飼いな野生だったそうだ。
近寄って見れば確かに汚れ半端ない状態だった。放置すればダニとかノミとかカツオブシムシ(衣服食べる虫)の発生源となるは間違いなし。
風呂はもう既に沸かせた状態にしてあったので我が家の魔王とか親父が入っている頃だろう。
作成した当初は文句ばかり言っていた2人は今や帰宅同時に風呂へと向かう。最近だと風呂の温度や掃除にまで文句を言う様になったので、当番制にした。
勿論反対してきたが、風呂使用制限すると言ったら大人しく掃除する様になった。
今や風呂無しでは生活が出来ない様で、それはその配下にまで及んだ。それが大体数ヶ月前であり、【風呂布教第一人者】という謎の称号をいつの間にか貰っていた。効果は不明。
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〈…あ、あ良い湯だな「バババン」〉
予想に漏れず、酒を片手に風呂を堪能していた2人。やはり年らしく、周囲の影響などお構いなしに前教えた風呂の歌を大声で熱唱。手ぬぐいを頭に乗せて温泉卵を常備している様は、もうどう頑張ってもオッサンであった。
ジト目で酒瓶を見ていると、目をそらす親父にガン飛ばす魔王。酒瓶には見覚えのある私の文字で『試作品10号』制の記しが光っていた。老眼が都合よく進んでいるオッサン2匹が見やすいようにちゃんと大きめに記したはずなのだが。
というか、皆大好き和食作る時に使う料理酒がいつの間にか無くる事件の犯人はお前らか。
「2人は保存食でも暫く食べてれいればいいと思う。」
ボソリと呟くと、途端顔色を悪くする2人。胃袋掴んだ方が強いっていうのはどの世界でも共通。特に食への追及を変態的なまでに極めた日本人はどこに行っても最強なのだろう。
前世の記憶によれば、食だけで世界制覇する話だってあった。特にバター醤油や焼き味噌は中毒性高く、万国で通用するだろう(※違う場合もあります)
そして調味料もそうなのだが、私の考える祖先達の偉業としては本来食べられないものを美味しく食べられる様改良してきたことだと思う。コンニャク開発とか寒天開発とか。
外国人から見たらどれをとっても変態に見える所業らしい(実話)曰く、コンニャクとか下手したら死ぬのに何で食べると言う発想に至ったのか。野蛮なのか文明的なのか、何かと謎が多いんだとか。
そんな事言いながらも今日では平然と肉じゃがの糸コンや羊羹頬張って表情を緩ませているのだから色々台無しである。でもだからこそ、世の中は面白い。
閑話休題。
慌てて土下座する2人を傍目に、急いで脱衣所で脱ぐ。今日は冷えるのでさっさと浴槽へ入りたい。
ライダーも隣で特攻服を脱いでいるのだが、首チョンパの断面が増々生々しい感じで露出している。ビジュアル的に大丈夫でないが、それよりいつも気になるのは風呂入って流血事件が起こらないこと。
大きな傷口、それも頸動脈や頸静脈が切れているのである。ああいった大きな血管に損傷のある場合は湯船が止めておくのが定石。体温が上がる分だけ血行が良くなるので、止血してある場所から一気に流血する恐れがある。注射を打った後に風呂へ長時間入らないようにするのもそれが理由だったりする。
背中を流します兄貴と今日も追随するライダー。毎回流血しないが、どうやって防いでいるのか謎であった。
隣では、波津香が鼠形態に再びなって銀狐の隣で待機していた。
片方は偽物と言え、モフモフが2匹。そう、今回苦労したけど2匹もゲットした。これは中々の成果だと自惚れてもいいのでは。
尚、魔王弟は失血が多かったので、明日経過を見て風呂の許可を出そうと思う。判断は主治医2人に任せる。
この間に酒瓶抱えて慌てて出て行くオッサン2匹を脇チョップ(身長的に頭へ届かなかった)しつつ、扉を閉じて流し台の前へ座る。
ケ○ンは流石に無いが桶は全ての流し台へ揃える徹底ぶりと石鹸・シャンプー・リンスも全種類常備。地球レベルで言えば手ぬぐいセットがない分まだまだだが、異世界全体で見れば至れり尽くせりではなかろうか(自画自賛)
シャワーの蛇口へ魔力を流す。すると、自信作の魔法陣へスムーズに流れる魔力は直ぐにお湯へと変化。強さは少し強めで温度も高め。希望通りに調節して、早速自作の石鹸で各所を洗う。
これ全部作るの地味に大変だったが、作っておいて本当に良かった。そう思える瞬間である。
自分の分が終わったら、次は新たな住民達。
いつの間にか惚けが治った狐と波津香へぬるま湯に調整したシャワーを優しく掛ける。予想通りあっという間に土留色の湯となって流れていく。
見た目奇麗な毛だったがやはり相当汚れていた模様。毛をワシャワシャして、砂利や垢、虫等徹底的に落としていゆく。家で飼うならこの辺妥協できない。
ある程度落ちたら石鹸を手に取って少し絡ませてから根元を洗う。
大分油脂が溜まっていたが、落とし過ぎたら駄目だった筈。使っている石鹸は天然素材の制作方法も割と雑なものなので大丈夫か。だけど加減はしておく。
最後に軽くマッサージをして凝り固まった筋肉を解すと、気持ち良さそうにクゥーと上がる鳴き声。腰と背中が特に凝り固まっていたので解す。次第に重労働した後接骨院辺りでマッサージ受けるおっさんにしか見えなくなって来た。
身体の小さい波津香は一足先に洗い終わって桶の中でプカプカしていた。
浴槽は大きすぎたため取り敢えず桶に湯を張ってみたんだが、十分だったらしい。クロは魔王達と既に入っていたので今頃外で牛乳呑んでいるだろう。
走行取留めも無く考えている内に洗い終わったので、浴槽入るか。
少し冷えてしまった身体へ軽く湯を流す。
ム、ぬるま湯が少し熱く感じる。これは少し長く掛かり過ぎたか? 浴場内は湯気が充満していて温かいのだが長風呂するなら密閉状態は危険で有る為換気している。どうしても冬の空気は寒いから仕方が無い。
石垣状になっている浴槽の淵から右足を入れた。黒っぽい玄武岩と思しき岩石はやはりタイル張りより風情が有る。
腕にはマッサージで力が抜けたのかヌボーとなっている狐。
家に来た当初やや暗くなった銀色だったのが今では白金色。寧ろ白色に近い体色となった。渇かした後が楽しみだ。そして頭上に何故か波津香が乗っている。
チャポン
思わずアァと草臥れたおっさんみたいな溜め息が漏れるが、前日から今日に掛けての一日の運動量を考えれば致し方ないだろう。
早朝魔王に魔王城上空から投げ飛ばされ、魔術の追尾を躱し往なしつつ城を攻略。魔王の間で弟魔王連れて命懸けの空中散歩で洒落込むだけならまだよかったが、魔王が鬼役のリアル鬼と言う名の修行をしかけていた。
帰宅後は直ぐ武具とか簡単な片付けしたら風呂沸かして夕飯作って消耗品補充して魔王弟見舞いして馬鹿2人をしばいて。そして、予想外の出会いとか色々果たしてから素敵なモフモフとの出会い。
改めて見ると何と言うか、凄く濃密だな私の一日。
というより良くこんなスケジュールで生き残っているな私。下手すると前世よりキツい生活送っているかもしれん。
クゥー
気持ち良さそうに伸びると、犬掻きして熱い方へとかうモフモフ。その先で突如熱い飛沫が顔に当たったのか、細い目を見開いて此方に慌てて戻ってくる。その様子が何だか少しおばかで可愛い。
実は風呂の蛇口辺も少し拘って形状を滝にしてみた。
風呂全体の拘りは当然浴槽にも出ている。寧ろ浴槽は特に拘ったと言っていい。岩石で囲った淵。大きめの玄武岩や河原の石を磨いて敷き詰めた浴槽の床。そして所々からマッサージ用の噴射が出て来る仕様にしてある。
景観も一層目の天井をガラス張りにした為よく晴れた夜なら満点の星空が見える。今日は月夜、星は見えないが月光が美しい。露天風呂も有るがメインの風呂からこうして外が見えるのは物凄く贅沢だと思う。
なお、外側からは認識阻害の結界を張ったため見えない仕様となっている。更に日中は日の光の嫌いな住民も居るので二層目の屋根で遮断している。
これらの構造だが、設計段階で中々風情が有ると何気に元貴族の親父からお褒めの言葉が有った。親父は服装のセンスは皆無なのだが、建造物や骨董品の趣向が非常に良い…シックな色味で格好いいデザインを良く選ぶので、部屋の内装も少し手伝ってもらったりした。
親父も只マダオであるだけではないということだ。
さて、もうそろそろ身体も温まって来たし露天風呂へ行こうかな…彼方は私の許可無しには行けない仕様にした為マダオ2匹も入れていない。つまり一番風呂。
「まだのぼせてないよな?」
二匹はまだ大丈夫みたいだ。動物の割り熱に強い様で、重畳、重畳。此方が前座だとすると露天はメイン。
〈「あ、あの〜、付いて行っ「却下」……だよなぁ」〉
そのしょぼんとした顔へ今日は騙されない。少し甘い顔すればつけあがるのだから。子供か。
すると、駄々をこねる魔王と親父。子供だな。
だから魔王へ明日の朝から親父が私以外の食事を作るか笑顔で提案してみる。あっさり引き下がる魔王。いくら魔王でも親父の食事は嫌だとのことだ。親父の説得もしっかり行うと約束してくれたし、重畳と言えるだろう。
次いでにコーヒー牛乳が無いことへ文句を言われた。たぶんこっちが本題か。
それに関しては正直に花子先生に差し上げたと伝えたら。これにはガックリ項垂れる2人。男子トイレを握る花子先生には誰も逆らえまい。
流石に可哀想だったのでフルーツ牛乳なら素材があると伝えると、私達が上がるまで待つ事にしたらしい。
実に、欲望へ忠実なオッサン達であった。
ならゆっくり私は露天を満喫するか…特に冬の露天は外気の冷たさと相まって気持ちがよい。加えて外の雪景色は風情も有る。山間部の崖の一部であるここからは、崖の下に位置する森から遠くの山脈まで一望出来る。ライトアップこそないが無粋な送電線や鉄柱等が無く、夜目が利くので与謝野蕪村の墨汁画の如き風情の有る風景がそこにはあるのだった。
その光景を楽しみに、穏やかな気分で扉を開いた。おや、先客が居る様子……可笑しいな、私は一切許可を出していなかった筈なのに。
ん? あれは青い布? あのシルエット。まさか……
「や・ら・な・い」ぴしゃり
扉を閉じ、咄嗟に鍵を掛けた上で封印術式を何度もして脱衣所へ何とか逃走。そしてそんな私の様子をいぶかしげに見ていた魔王と親父は次の瞬間転移術式で逃げ出す。
直後、悪寒がしたので咄嗟に結界を張った。
まさかのあの人物の登場にどうなるのか……と言うか逃げろライ君、作者の為に!
(※タグにBーコンLタスは入れる予定今の所無いです)
それでは次回もよろしく御願い致します。