126 ライの洞窟探索タイプ
読者の皆様お待たせいたしました。
さて、今回はちょっと短めです。それでは今週の不憫をどぞ!
ダンジョンに洞窟ダンジョンがあるという珍事態をスルーしていたことをスルーしつつ、カーナビ魔王に従い安全に進む。ここは異世界なのに前世の洞窟ツアー客風。最早観光している気分である。
分かれ道や罠の場所も、探知機魔王が一緒ならば何も怖くない。
ゴツゴツした壁を眺めつつ進む洞窟。所々水晶と思しき氷柱が見えた他、魔鉱石(魔銀等を含有する鉱物)を発見した。しかし今は先を急ぐので見送る……わけもなし。物欲センサーは健在。全部はやらんが目につく範囲の5割程度は採っておく。
さてさて、どれくらいを幾らで闇商人へ売り付けるか。想像するだけで笑いがこみ上げてくる。
「グ、グヘヘヘヘ」
こらえきれず漏れ出る笑い声は、どうやら私だけではない様子。大人の腕有る太い水晶に自分以外のゲス顔が映った。
周囲を見回すと、冒険者達も臨時収入を各々掘り出していた。敵がポップしてこないのをいい事に採掘作業へ精を出している。それにしても一所懸命に掘っているものの亜空間バッグを持っていない彼ら。一体その量をどうやって運ぶのか。
「ユリウス坊ちゃん、これお願いしやす!」
「だから坊ちゃんはやめろと……仕方がないな。」
やれやれと鉱石を回収していくユリウスくん。そういえば数週間分の食材入れられる程度の亜空間バッグ持っていたんだった。これで持ち帰って後で均等に分けるって寸法か。
そら必死にもなるか。一攫千金にはならないにせよ、今回失った装備等の損失補填にはなることだろう。
魔物不在のダンジョンは我々にとっては採掘天国であった。ゴチになります。動かない魔物をそっと寄せつつ手を動かす。
尚、道中なるべく下を見ないようにしていた事は言うまでもない。
そうして少し時間等諸々取りつつゆったり進んだ先。そこには広い部屋があった。
「ボス部屋?」
入り口からして立派。
まず目に入ったのはパルテノン風の白亜の柱が左右3本。高く聳え立つ先は各々に左右均等な造りの白亜のアーチがある。その中央には旧時代の文字で『この先命惜しい者は引き返せ』という文字が厳かに彫られていた。
最後、恐る恐る床を見るとよく研磨された大理石の様に光を反射していた。素材は黒っぽいので玄武岩かと思われる。何より、継ぎ目がない事からおそらく一枚岩でできている。
「これは……」
「うむ……すごい光景だな。」
言葉を失うギルと感心した様に頷く魔王。
「……。」
茫然自失な冒険者達一行。
嗚呼、これぞ迷宮の醍醐味というものなのだろう……人工物の様でいて決して『人』では作り出せない古代遺物の如き建造物。
その全ては、神秘的で厳かな浪漫心をくすぐるダンジョンらしさ満載の建造物であった。
但し、ボスと思しき気絶した魔物の姿さえ転がっていなければ。
「……なにこれ。」
鼻先が完全にめり込んだ状態の魔物数体とその奥で壊れているゴーレムと思しき一体。
魔物の方は海限定キメラっぽい様相で、頭と尾が魚、腕が猫科の生物らしき姿だった。腕のもふもふはアザラシみたいな毛質だった。多分アザラシベースで陸の生物と魚を混ぜてみたのだろうが、色々と蛇足感有る泳ぎの遅そうな生物だった。
一方のゴーレムは完全球体となっており、興味深いことに前世見たことのある潜水艦みたいな構造になっていた。深海対応仕様を狙ったのか。
だが、多分平べったい構造にしたほうが無生物であるゴーレムは効率的なきがするのだが…別に中に人が入る訳でもないだろうし。
「なんでこう、このダンジョンて一事が万事残念なのか。」
どうやら口に出していたらしく、周囲の目線が痛い。その上お前が言うなという声が密かに上がっているのをキャッチ。解せぬ。私はいたって普通の感性を持っているだけなのに。
それにしても誰だあんな可哀想な倒し方したやつ←
「この先もずっとこんな感じて進んで行くのかぁ」
死んだ目でフラつくユリウスくんを支えるは、同じく目が腐ったカエサルくん。相も変わらず仲の良い主従コンビである。
「とりあえず採っておくか。」
「そうしておけ。」
疲れた顔で返事をする魔王を横目にピクリともしない気絶したままの魔物を1体選ぶ。素早く活き締めしてからポーチへ収納。ついでに起動停止したゴーレムの魔石を回収してから本体も確保。
こうしたダンジョン原産のゴーレムは運が良ければ再利用できる。できなくても魔石とゴーレムの素材が手に入るのでラッキーである。
いい土産ができた。
帰宅後早速親父に魔石の術式解析を頼んで所有者データの書き換えをしてもらおう。そしてうまくいけば、そのうち魔王製ガン○ムをゴレム化できる浪漫。夢が広がりング。
そう、最近ガンダ○だけでなくガン○ムまで再現したヲタ魔王。ちゃんとモザイク掛けの操縦席まで再現されている。微妙に映りこんだシルエットから、恐らくエリ○ベスが操縦席にいることがわかる。
そんな、細部にまで拘ったプラモデルと最早呼べないモビルスーツが武器庫を圧迫している罠。世界征服の前に宇宙侵略する予定でもあるのか。魔王の着地点は相変わらず迷子なのであった。
あれこれ考えているうちに、大勢の冒険者が通りやすいよう魔物を蹴って端へ寄せ終わった。一部加減を誤って顔面から地面にめり込んでいるが、起きる様子はない。あの臭いだと大体弱くて1週間くらい復活にかかるか。
「他のは取らないのか?」
「……逆に聞くけど、コレ欲しい?」
背後のオランジュ君に質問される。本人は欲しそう…ではなさそうだ。鼻を摘んで眉をひそめている。
「それが答えだ。」
白目剥いてピクついているキメラっぽい生物は兎に角気色悪い。特に、魚の顔なのに目だけ陸生の動物っぽい所とか本気で生理的に受け付けない。
なにより臭いが生臭く、カメムシ爆弾と別系統の臭さがあった。
「先、行くか。」
そっとボス部屋(推定)の惨状へ目をそらして先へと進む。何事も諦めが肝心だ。
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ボス部屋の末端まで進むと、そこには木製の扉があった。無骨な造りのそれへ、なんとなく安心感を覚える。木枠とドアノブは恐らく鉄製で、やはりここにも文字が描かれていた。
「今度は……あ〜はいはい。」
入り口と寸分違わぬ脅し文句がそこにあったのだが、さっきの光景を思い出してしまい気分がげんなりした。
ゆえに当然スルーして扉を開いた……わけでもなく、一応武器は構えて警戒態勢を取りつつ開く。錆び付いたドアノブを壊さないよう優しく回す。そしてゆっくり扉を押す。
背後からは唾をゴクリと飲み込む音が聞こえた。
「なるほど。」
洞窟を抜けた先には薔薇色の砂浜が広がっていた。
橙色の夕焼けがトルコ石の空いっぱいに広がり、カモメと思しき灰色の羽を持つ怪鳥が羽搏く。一定間隔に押し寄せる波の穏やかな音と、どこか哀愁を漂わせるナァ、ナァという鳴き声。
そしてそこには……
次回お楽しみに。




