11 住居紹介(江戸の恨みは長崎で)(19/6/8改稿済み)
読者の皆様こんばんは、先週は投稿出来ずすいませんでした。
さて、それでは早速今週の不憫第一弾です!
帰宅後、ポーションや包帯で軽い治療を行ってから早速家事に入る。幽霊に任せられない仕事は案外多いのである。
親父配下の使用人さん達も確かに存在するのだが、実体化が上手くいっていない。そんな状態で改造しすぎた我が家をいじるのが怖いとのこと。それでも使用人として親父の役に立ちたいとのことで、叩きかけや床掃除を基本任せている。低身長の私では届かないところが多いので、実は非常に助かっている。
そして私の主な仕事は調理と洗濯等。ご飯は親父が作りたがるが、実態を知る人々は誰一人として許可しない現状がある(それでも諦めず、偶に調理室へ侵入して勝手に作る日もある)。
さて、魔王城帰りで疲弊しているがやるか。
幸い今日はまだ親父が晩ご飯を作っていなかったので、私が調理する。魔王が必死に止めてくれたとのこと。本当に良かった。そんな功労者魔王は食べ専。現在机をトントン叩きながら空腹アピール中。調理中の立場からすれば絶妙にうざかったりする。
尚、現在在住の家は断崖絶壁の中央斜め上に位置する場所である。岩を切り崩す? 溶かす? 固める? そんな魔術式で作った。
イメージ的にはグランドキャニオン周辺のインディアン住戸の遺跡に限りなく近いと思われる。彼らは魔術式を使わずにあれだけの建造物を作ったのだからさぞ優秀だったのだろう。地上絵の件と言い、技術力に関して方向性は違えど米現地人達はもっと高く評価されるべきであった。本当、惜しい人達を失ったものだ。
さてこの家屋だが、実用性は勿論趣味の一環として作成したためかなり細部へ凝った。外側から見ればきっと和洋折衷のいいとこ取りをした城に見えなくないだろう。早速インディアン風は行方不明である。
建物全貌としては、地下2階・左右の隠し倉庫・1-3階、別館の浴場とトイレである。外見より中身が拡大しているという異世界謎建設のお約束をちゃんと守った優良物件である。売らないけど。
まずは普段使い等の『表向きの場所』について説明して行く。
1階は主に玄関と応接室。
玄関にはクローゼットとシュークローク、簡易武器庫が取り付けてある。この部屋は他にも防具や武器の手入れが簡単にだが出来る様になっているため帰宅後に劣化防止のケアが出来る。武器召喚を使用する魔王の情熱的な要望から作られた施設の1つである。
続いて応接室だが、此方は元貴族である親父の拘りが出ている。親父の記憶を頼りに幾つかのグレードに分けて作成された。それぞれ『〇〇の間』と私が命名している。
私が手がけたのは主に和室。念のためと1つ作っておいた。現在の主な用途は親父の友人達を招く時等。全世界を旅する幽霊達から『異国風情緒があって素晴らしい』等と如何にもガイジンらしい賞賛を頂いた。畳もどきを頑張って作った甲斐はあった。
2階はキッチンとリビングとダイニング。
キッチンは殆ど私が1人で作成した。今あるキッチンは用途別に3つ。
キッチン①は、現代日本のIHを取り入れたシステムキッチン。当然電気ではなく魔術式(魔王自信作)で稼働しているが、ほぼ変わらない。多分一番使っている場所。
キッチン②は石窯オーブンと練金釜(亡霊錬金術師)、魔力コンロ(魔王製)が設置されてある。石窯オーブンは主に焼き菓子や焼き物(魚や肉のオーブン焼き)に使っているが、頻度は多くない。一方、練金釜は練習に結構使う。親父や亡霊の練金術師先生から少しずつ指南を受けている。
キッチン③は食品加工施設と巨大冷蔵施設等が完備されてある。狩り・収穫で得た食べ物の鮮度を保つほか、加工してさらに美味しくする場所である。後、ここには実体を保てる使用人達が偶に出入りしている。加工食品は物によって見極めが重要となるので、その監視を主に頼んでいる。
こんな感じて大まかに用途を分けて作ったが、非常に使い易く大満足である。何より、日本人として美食への探究心は絶対に譲れない。一生で約中型トラック2台分食事をすることを考えれば、美味しいものがなければ人生の半分は損。その為の助力を魔王から得られたのが結構大きかった。
リビングは共同で作った。その為少し文化が混在しているのだが、魔王の一声で前世知識が採用された。
色調は壁全般アイボリー、所々黒に近い茶色となっている。調度品は黒檀製。アンティーク調で親父が知り合いの行商霊に揃えさせた。殆ど曰く付きの物品だったのでモノが良いのに格安であった。呪いは親父と私がお祓いした。契約して部下にしたとも言う。暗殺業で活躍予定。
ダイニングは2つ別れている。
片方は普段使いのリビングにやや似た色調の部屋。変更点と言えば、調度品を橙色でポップな感じにしたことだろうか。もう片方は来客用であり、こっちは貴族仕様の長テーブルとなっている。前者の位置がキッチンとほぼ繋がっており、後者は少し離れている。
3階には寝室が在る。
それぞれ自分達の部屋を持つ事になったのでここは割愛。後で詳しく自分の分だけ説明しようと思う。
地下1階は親父とその関係者の棺が設置された。
親父曰く幽霊系統と不死系は生前の一部が土中に安置されていると力が出し易いらしい。故に、親父と親父の部下だった連中の墓を家の下に設置する事になった。
見た目的には日本の仏壇に近いので、それほど禍々しさは無いと思われる。仮に何か湧いても、心配無用との事。それもそのはず。普段から親父所属の屈強なリッチやデュラハンが護衛として居座っている上、実体化可能な幽霊複数も数分おきに巡回。そんな下手な貴族・商人屋敷よりセキュリティーレベル高な我が家。
一体何との籠城戦を想定しているのやら、恐ろしい限りである。
地下2階は魔王の武具開発施設。
此方は私ノータッチであり、中も見せてもらった事が無い。まだ私に早いとのこと。魔術式が空気吸うレベルで扱える様になるまでは侵入する事自体危ないそうだ。恐らくセキュリティー以前に開発物がやばいのだろうと考察する。
隠し倉庫2つは私の管轄。倉庫は全部で二箇所。
倉庫①では食量・素材の保存及び加工を行っている。
この部屋に関しては特殊であり、キッチンから移転出来る移転陣を張った。この陣に関しては魔王が物理学的な空間への概念が理解出来ないとの事なので、私が何とかした。完成した時には地球の知識がどれ程チートなのかと唖然とした。
倉庫②では現代武器の開発を行っている。
本来なら『異世界の沙汰は異世界人に』等と忌避しそうな案件だろう。地球という異世界の異物を持ち込むことへの影響は当然怖い。一方で、既に火薬が市場に出回っている以上いずれできる。遅いか早いかの違いならば、今の内に開発を進めておくに限る。
今現在ならば銃やミサイルの概念が無い。魔術式の発展で中世レベルへ留まっているのである。これは、生存上大きなアドバンテージになり得る。
目標は、聖光皇国等の術者へ時対抗出来る手段を得ること。特に司教レベル。連中は結界術師であり、魔術式を無効化出来る技術を持っているとは魔王談。異世界からの勇者召喚で得た技術であると考察していた。剣術や体術等の肉弾戦では圧倒的人数を誇る教会側に分がある。一騎当千は逃走用なのが現実。集団戦による継続力は怖い。
現在火縄銃は開発済み。プラモで一度作ったので構造は完全に把握していた。今は雷管を開発中。そこから徐々に技術を詰めて行く予定。将来的には武闘派神父相手にRPG派手にブッパしたい。
別館の浴場とトイレは拘り過ぎて語るべき事が多すぎる。別の機会にとっておく事とする。他に色々仕込んだ内容もまだ未完成なので、また別の所で自画自賛したいと思う。
さて、魔王城単独攻略を何とかノルマの1日で終了させた。拾い者もあったが、結果は上々。尚、拾った奴は現在リビングには居ない。瀕死なので緊急治療中。
前日は魔王が攻め込み、今日は私に攻め込まれた ICU(集中治療室)入りのチビ魔王(弟)。本当、可哀想に。我が家の魔王襲撃事件だけでも手一杯だったろうに、今日1日でとんだ災難もあったものだ(←)
念のため記が、一体何が止めになったのかは不明。
投げ飛ばした事がトドメとなったのか、それとも帰宅道中魔王の攻撃を喰らった事が原因か。それともゲロゲロ吐瀉物回避で殴ったのが不味かったか。兎も角重傷だけど死んでは居なかったので現在3階の余った寝室の一部屋を使って治療中。スラムで拾った(と思しき)亡霊神官と幽霊医師が。
これでもまだ人選は的確な方だったりした。親父配下のリッチとか人造人間の肉体になった錬金術師(狂)等、下手に優秀なのは危ない。奴らに看病された日には、退院後に見事手足が数本増量等もあり得る。まして魔族・魔人族の王族。奴等なら嬉々として研究材料にするだろう。
故に、しつこいが人選ミスではないと主張しておく。
「お〜い、まだか?」
タンタンタンタンタンダンダンダ……
徐々に激しくなるタップ音。こんな調子では、机に穴が空く日も近いかもしれない。
「(おっきいお子様一名、と。)」
「なんか言ったか?」
不機嫌そうな声が聞こえる。察しが異常に良い感知器魔王。
「もう少しで出来るって言っただけ。でも箸と机、ちょっとでも壊したら飯抜き確定な。」
「?!」
慌てて止める魔王。こっそり修復術式かけていたので壊れかけていたか。今回だけは見逃してやるか、仕方が無い。
でもとりあえず、これでやっと調理に集中できる。
こんな調子で、最初にあった格好良い魔王のイメージが今や崩壊していた。
最初知った時は凄くゲンナリしたものだが、慣れてくるとこんなもんかと納得する。登場当時からコスプレする等(妙な)遊び心を発揮しており、親父の(どう見てもやばい)料理に挑戦していた。それ以外にも諸々エピソードはあるのだが今は割愛するとして、もう少し威厳無いのかと偶に心配になる。仮にも魔王だし。
知りたくなかった異世界の実情。ただ一方で、慣れてきた今では魔王のユーモアも大事な要素なのかと思えたりする。それでなくても力ある存在なので、威張られたらただ普通に怖いのも事実。そういった意味では是非この『愛すべき残念さ』は保って欲しいと思う。
「ほい、野菜から喰えよ。」
ここで、調理が終わった料理から持っていく。飢えたる民もとい魔王の前へボンとサラダを置くと、顰めっ面は途端キラキラした表情に変わった。魔王は今時(日本で)流行の草食男子を地で行っている。見た目的には血滴る分厚いステーキ似合うが実際はウェルダンの方が好みで、食べ物は野菜が1番だとのこと。長生きするのも納得である。
一方、親父は私の目を盗む様にピーマンと玉葱のピクルススライスを魔王側へ移そうとしていた。その様子を黙ってじっと見ていると、視線に堪え兼ねたのかピーマンを止めた。若干魔王が残念そうにしているのが視界の端に映った。
「あの、ライさん……俺になんか恨みでもあるの?」
恨み? さあ、心当たりあるなら有るんじゃない?
親父の涙目をシカトして自分の分を盛る。頂きます、そして一口。
やはり美味い。
品種改良が進んでいない分日本程野菜自体は洗練されていない。土臭さや野菜独特の臭みだって当然ある。だけどそれも一種のスパイス。自然栽培だからかワイルドで正しく『生きている』風味がする。何より新鮮採れたてシャキシャキ。自家製梅酢ドレッシングともよく合う。
だけどやはり足りない。あともう一歩ってところか。確かこの間紫蘇らしきものを探索中見たな。親父は知らない植物だと話していた。よし、採取して試してみよう。きっと風味が更に良くなるに違い無い。
本日のスープはアスパラガスのポタージュ。親父はスープの色に何か言いたげな表情をしていたが黙って食べた。魔王はおかわりを要求した。
そして保温状態にしておいた肉をオーブンから取り出し皿へと乗せた。
本日のメインは、マトンの煮込み焼きヨーグルト仕立て。記憶上の『くいしんぼ』料理対決レシピから取った一品である。本音を言えば味噌を使いたい所だが、まだ入手に至っていないので仕方が無い。
「ム、臭が」
「まあそいう言わず食べてみてよ。」
魔王は渋い顔をしていたが、その横で親父は嬉しそうにしている。見事、さっきと真逆な構図。食べ物の嗜好を毎食全員に合わせるのは難しいものだ。
尚、完全に余談だが、親父の1番好きな料理はハンバーグステーキ、次が牡丹鍋、その次がラグーソースパスタ(要するにミートソース)と肉ならなんでもいいらしい。野菜は見るだけで拒否するある意味子供舌。幽霊なのにタンパク質どこいった。
考えられる要因は以外とシリアス。現役時代食卓に上がった野菜のポタージュへ毎回毒物が混入されていた事がトラウマになった説。一方で、サラダや鍋の“原型の有る”野菜は嫌がるのにポタージュなどの砕いた野菜は割と平気な謎。毒草混入されていても平然と食べていたとは親父の過去を知る使用人談。
結局ただの好き嫌いなのかもしれない。兎も角現在幽霊なのに食事摂取が必要とのことで調理している。当然食材が勿体無いので作るからには全部食べさせている。
最大の謎である『幽霊なのに三食食べる必要が有る』件は触れたら駄目な案件とのこと。一度尋ねたらやばい笑顔でやんわり注意された。二度目は無いと。有無を言わさぬあの表情には最早、戦略的撤退しか許されなかった。
閑話休題。
魔王は鼻を摘んで料理を口へ運んだが、直後がつがつとちゃんと食べた。偉い。そして、食べ終わって暫くすると、やっぱりクセぇと間絶していた。
多分消化中胃からの臭に耐えれなかったのだろう。人間と若干肉体の構造が異なるので、消化に若干時間がかかるのかも知れない。
当て付け半分とはいえ流石に可哀想だったので、デザートはヨーグルトにしてあげた。魔王の大好きな苺ミルク味。お代わり自由。
そんな魔王は正に、現代日本で休日ケーキバイキングを前にした女子のテンションであった。一体どこまでギャップを狙って来るのか。他にも甘いもの全般大好きな、スイーツ大好き系魔王。威厳(以下略)。
その頃親父は肉を食べ過ぎてリビングのソファーを占拠。ヨーグルトは無理とのこと。
ボヘーと声をあげ、だらしなくダレる親父。完全に駄目人間と化している。まるで駄目な親父、即ちマダオ状態。食後によくこうなるので毎度食べすぎるなと注意している。
私はこの後片付けたら魔王弟の様子を見る予定。医療かじっているし一応治癒の魔術式も使えるので助けにはなるだろうと思いたい。焼け石に水かもしれないが。
秘密基地制作って憧れますよね。私も幼少期、基地作って領土争いみたいな事していた記憶が有ります。20世紀○年ではないですが、少し思い出すと懐かしいです。
悪役放棄の連載も頑張ります…多分来週辺り更新出来ると思われます。それでは次回も宜しく御願い致します。