10 駄目押し(2019/5/4改稿)
読者の皆様どうもこんばんは。それでは早速今週の不憫をどぞ!
魔王城を彷徨い、何度目かの爆発に巻き込まれ、ようやく立派な扉の前に辿り着いた。
魔王の話にあった通り、扉は黒檀製と思しき木枠に巨大な大理石板を1枚埋め込んだ構造。手元のメモを見たが、間違いない。表面には薄っすら魔術式の痕跡があり、仮に起動していれば私のレベルだとまだ突破は難しかっただろうと感じた。
そう、現在は起動停止している。起動部分の術式が物理的に破損した結果。
恐らく精巧な彫刻があったであろう場所は雑に抉られ、おまけに所々ヒビが入っている。木枠の一部も何故か吹っ飛んだ後があり、その残骸がドア付近に転がっていた。
位置的にドアを蹴り開けたか。魔王がどんな暴れ方をした、結果を見るのが怖い。
現魔王が怒り狂っていたらどうしよう……無事に家帰れるかな。
一つ、深呼吸をする。
大丈夫だ落ち着け。最悪部屋に入ってすぐ逃げ帰れば良い。あれだ、ピンポンダッシュする小学生の気分でいけばなんとかなる。大体これは人生の延長戦なんだし気軽に行こう、気軽に。
恐る恐る扉を開く。
「し、失礼しま……」
玉座に座っているのは仏頂面のチビ。ぶかぶかな王冠を目深にかぶり、長すぎて不釣り合いなマントと羽織っていた。それ以外は包帯でほぼ覆われている。
まさかのアンデッド魔王……なわけないか。魔王城徘徊していたのは鬼族なので、鬼族であっているはず。
そしてその証に捻れた金色系の角が2本生。ただし、片方折れている。足も骨折中らしく松葉杖が椅子に掛けてあり、腕も吊っている。首も固定するためかコルセットと思しきものが嵌められていた。顔色も若干悪いので下手せずとも貧血の疑いが……て、かなりの大怪我である。
「グッ…良く来たな、ニンゲン!!」
唖然と見ていたら、顰めた顔で魔王らしい典型的な挨拶をしてくる。体を動かすのが相当辛いのか、あるいはその姿勢で固定しているのか、魔王らしいオーバーリアクション等は無い様子。期待していただけにちょっとがっかり(おい)
だけどそれを求めるのもかわいそうか……恐らく今絶対安静にしないといけない時期にわざわざ起き上がって挨拶しに来てくれたのだろうと予想。我が家の魔王の所業で。
「何と言うか……親父と我が家の魔王が済まんかった!」
魔王の間に着いて先ず私のやった事は本気の土下座だった。下手すると前世含めて恐らく5番目位には本気出したかも知れない。普人族の行いとしては間違っていたとしても、私の心情的にせずにはおれなかった。
真面目に我が家の魔王の暴挙を止められず、済まんかった!
やはりあのキチ魔王の鬼畜度は天元突破している。こんな幼ない子供へまで暴力振るうとは。しかも骨の脆そうな年齢の子供なのにこんな全身くまなく骨折させるほどの大怪我まで負わせて。
一緒にされたら困るから本格的に距離を置いた方が良い気がして来た。物凄く今更だが。弱い者苛め、ダメ、ゼッタイ。
そして今更ながら自分も子供だったことに気づく私。
暴力どころか修行と言う名目で毎度危険地帯に放り込まれる側だった。つまり私も被害者。探せばきっと45代魔王暴走の被害者は案外多い様な気がして来た。
下手すると『45代魔王被害者の会』とか開けるかもしれない。
成人後にバーとか貸し切って呑みながら魔王の悪口大会。魔王へ地味な復讐をする画策等(魔王の靴下が片方だけ穴が開くよう靴に仕掛けをするとか)
いやこれ駄目なやつだ。途中で激怒した魔王が乱入して暴れてる未来しか浮かばない。
起き上がり、チビ魔王を見る。
さて、目の前のおチビ魔王は敵対者の突然の謝罪に唖然としていた。そらそうだろう。敵前特攻と敵前逃亡は恐らく経験済みだろうけど敵前土下座は聞かない。というか、多分私が初めてかもしれない。
しばらくしてはっとすると、次第に憎悪に満ちた顔となった。
予想通りといえば予想通りだが残念だ。やっぱり差別主義者なのか。そこはかとなく違うような気もしないでは無いが、面倒くさそうな臭いがするので深追いしないことにした。
ただ何だろう……魔王の筈なのに青タンと縫い合わせた傷が有るせいか酷い絵図だ。魔王ではなく裏街でカツアゲされた後のコスプレイベント後のヲタクだと言われても違和感無い。台詞的にも厨二病患者のなりきりなら納得出来る。怪我さえ無ければそう言う類のイベント中な幕張メッセか秋葉に出現しても特に違和感無い。
居たら居たで危険な趣味のお姉さんやオネエさん達に囲まれ、持ち帰られるかも知れないが。
「舐めているのかニンゲン風情が!だがそういう事なら死んでもらお「だが断る。」……なんだと!?」
一気に距離を詰め、えいやと魔王の持つ松葉杖を取り上げた。唖然とした相手を無視して包帯で固定された足へチョンチョン人差し指で攻撃。それだけでもうウギャー痛いと涙目になる魔王。しかも痛みにプルプル震え、今にも倒れそうだ。というか倒れた。貧血か何かで。
最早覇気も威厳もあったものではない。だが全部我が家の魔王の仕業と思うと、申し訳なさでいっぱいになる。
けど、魔王城攻略しないといけないので同情しても妥協はしない。ライくんの外道スタイル。
逆らわない様予め用意しておいた攻撃封印術式のプログラム起動。攻撃して来たら相手の怪我、特に痛い所に自動で人差し指大の電気刺激を送る地味にエグイシステム。ビリビリ。案の定、拘束解いた瞬間間絶しているが。
「取り敢えず今回はお前の負けって事で。」
涙目で睨んで来るが、手は緩めない。明日の命がかかっているんだ。仮に甘い顔をせて負ければ帰宅後今度こそ魔王と親父に修行でコロコロされる。一瞬幾つかのトラウマが浮かぶが頭を振った。考えちゃ駄目だ、考えたら白目で倒れるから。
だから本当に済まない。だがお前の尊い犠牲、決して無駄にしないから。
そう思って油断していたら飛んできた、突然の攻撃。予想外な場所すぎて対応が遅れる。
半身でかわすと、慌てて私はマインゴーシュを抜いて刃を受け止めた。リーンと背筋も凍る金属同士の共鳴音が鳴り響く。そして手の抵抗が無くなった次の瞬間次々刃が前後から飛来した。
チビ魔王はヒィと悲鳴を挙げて真っ青になっている。ガタガタガタと体を震わせ、動けなくなった。トラウマか。トラウマなのか。目も潤み、今にも泣きそうな表情だ。
巻き込まれないよう壊れた王座の方向へ慌てて投げとばす。直後にチビ魔王のいた場所へ飛来するナイフ複数、悲鳴とドッコーン……無事着地した模様。重畳、重畳。砂埃や瓦礫が生産されたのはきっと全部魔王のせいだ。
それより今は、目の前の我が家の魔王からの追加プレゼントだ。どうしよう。種類も数も増えている。トマホークとかナイフとか要らない、デスサイズでさえ大変だったのに。
「……この状況で増えるとか、殺しにきてる?」
もう何と言うか、苦笑も出なかった。実際問題今現在も増殖が続いている。
何故か円盤型のブーメランらしき奴や苦無、他名前聞いたこと無い暗器盛りだくさん。あの魔王のことだから、こんなことする予感はしていた。いたんだが、想定が甘かったようだ。
そういえば魔王は暗器召喚と扱いが大得意。加えて隠れてこっそり殺ル暗殺スタイル。次回から㊙魔王とでもよんでやろ「スパッ」……もういやだ、おうちかえりたい(涙目)
不穏なこと一瞬考えていたからか、増殖速度が心なしか上がった。
不名誉な魔王の2つ名(笑)を思い出した瞬間、しかも凶悪な外見の暗記が増えた気がする。ギロチンとか、どう攻撃してくるのか。飛ぶのか。空飛ぶギロチンとか要らない。嗚呼、攻撃もやや過激になってき「ザクッ」あぶ、あぶあぶ……あぶなかった(涙)しぬがどおぼっだ(号泣)
なんとなんと背後からチェーンソーが迫り、危うく木っ端微塵になるかと思った。慌てて地面に転がり緊急退避。刃渡1mmの差でズタボロになっていた。
コレ完全に殺しに来てやいませんか?
迎撃するも、召喚された暗器は有る一定の条件をクリアしなければ消えない。武器破壊の魔術や腐食の魔術使っても無駄…敢えて言うなら魔術に干渉して相手へ逆流させる方法もあるが、そんな余裕をこの数の暗器がくれる筈も無い。
現に今も私の通った後にザクザクザクと毒々しい色のナイフが次々刺さって来る。そして刺さった先の地面は何故かジュワッと音を立てて溶けている…まるで親父作の謎色スープをこっそり地面にこぼした時みたいだ。私も後一歩遅かったらああなっていたのか。
あの2人の無茶振りへ諦めの境地に入った私であったが、流石にコレは涙目になる…色んなイミで。私果たして生きて魔王城を出れるのだろうか。魔王は怖く無いけど身内の方が怖いです。殺しに掛かって来るので。
……だが何となく察した、何すればいいか。正確には今回の修行と言う名の拷問の目的。
「ヒィ、く、来るな!」
私を狙っていた筈の暗器の約1/12が魔王へと向かって飛んで行った。辛うじて避けているものの、時間の問題だ。特に魔王は大怪我して全身包帯グルグル巻きな上で松葉杖とコルセット首に付けている状態。無理させたら身体がポッキリして魔王もショックリする。つまり死ぬ。
魔王(過去)が魔王(現在)を殺すのは世界の摂理に反していた筈……何かしらの災害か天変地異が起こる。過去そう言う事例があったのだから確実だろう。何より現在契約中の魔王(従)が魔王になったら私が不味い。7歳から国際指名手配犯とか勘弁願いたい、割と切実に。
しかし要人警護とか1番向いてない気がするんだが。主に自分の命を護るので今まで精一杯だった筈。そう言う環境にポイされていたし。
だが仕方が無い。相手は魔王だから仕方が無いったら無い。力ないから従魔なのに逆らえない、何この矛盾。
それに将来弱いモフモフツルツルも飼うかもしれんしいい機会だ。ちょっと本気出して見ますかね。
グサグサと魔王を狙って宙から放たれるナイフと鎌を躱し、私は魔王を回収した……魔王は鼻水と涙で更に凄い顔になっていたが致し方有るまい。まだ小さい子供だし。
そして助けたと同時に驚いた顔をした。
「ヒグッ、グズッ……何で、ヒック、助けた?」
「適当。」
適当に答えつつも背後から迫って来る短刀を弾き活路を見出す為に魔術式を組み立て始める。風、いや、ここは空気を上手く使った法が効果的だろうか。
同時に何気なく1つ疑問に思った事を口にした。
「それにしても、お前って本当に魔王?」
そしたらなんか泣き方が激しくなった。気になったので一旦魔術式を中断して魔王を見ると、キッと此方を睨んでいた。そしてぐずりながら爆弾投下した。
「グズッ……オレは魔王なんかじゃない!ほんとはオレの兄貴が魔王だったんだ!!!」
? それって結構深刻な話しではないのか? それ時間掛かりそうか? 掛かるだろうな。
「ならすまんが魔王弟、取り敢えずこの空間から出ないと……なるべく振り落とされない様に頑張って捕まってて下さい。」
「え?」
返事を聞く前に私は組み立てた魔術式を起動させる。そして遠慮なくブッパした……ソニップブームを。その反動で魔王を抱えた私自身は反対側の壁を突き破り、部屋から見事脱出。私は打撲。後で親父ポーションで味覚破壊せねば。
そして、壁の外側は崖。これは少し予想外。
まだライくん空飛ぶ方法確立できていないのにどうしよう……ぶっつけ本番でやるしかない。
「おい、おちる!おちる!」
「大丈夫、問題無い。」
「いや、問題しかないだろう!!」
咄嗟に組んだ魔術式を足裏に貼付けて、お茶な水な博士作の鉄腕な原子君みたいな飛び方を実践。ムムム、以外とバランス取りにくい。時間ができたら他の方法考えるか。でも一先ずこれでいくしかない。
平衡感覚鍛えてなかったら多分酔って墜……
「オロロロロロロ」ギャー
「吐くならあっち向いて吐け!」
吐瀉物と折れた歯(複数)
↓
∵(ε(○=(゜д゜ )
咄嗟の判断で弟魔王をクリーンヒット。弟魔王、10のダメージで気絶。
しかし危なかった……二度目の危なかった。
後もう少しで虹色エフェクト被る事態となっていた。この世界にはシャンプーは勿論石鹸類が揃っていない。全部手作り。界面活性剤とか便利なものは存在せず、洗濯等汚れた衣類を洗うのも一苦労。人の吐瀉物とか、臭が消える保証も自信も無い。
最悪魔王(従)に何とかしてもらうが、後が怖い。
瞬間、殺気を感じて振り返る。
噂をすれば影。顔を顰め、腕を組んだまま浮かんだ我が家の魔王。よく見ると背中にパラシュートもどきをつけている。今度あれを試すか。
……というのは置いておくとして。
「で?これで良いんだよな、元魔王グルジオラス?」
何故か上空に待機していた件。通りでいつも以上に召還された刃物の動きが良かった様だ。もう少しいつもなら鈍かった筈なのに可笑しいと思っていたよ。複雑なフェイント入れるとか細かい指示リアルタイムで出さない限り不可能だしな。
殺しに掛かって来た件は正直要話し合い案件だと思うけど。契約違反だからお仕置き確定…今日の晩ご飯、羊肉にしてやろう。若いラム肉ではなくマトン確定。
そんな事を考えていたせいなのか、攻撃が飛んで来た。
「危ないな…急に攻撃する事は無いと思うんだが。」
そう言うと、至極真っ当…かどうか微妙な返答が返って来た。
「家に帰るまでが修行だろ?」
口答えしようものなら河原を超えちゃう出来事が待っているのだろう。逆らうのは無駄、逃げるが勝ちだ。
結局大怪我した弟魔王を抱えて現在住居としている土地まで手加減有り? の命懸けな空中鬼ごっこをするのだった。途中、弟魔王へ我が家の魔王の攻撃が当たってしまったような音がしたが、気にしないことにした。
帰宅後見ると案の定ボロ雑巾。いや、元から酷かったので、1つや2つあざや切り傷や骨折が増えたところで問題ない。そう思っておこう。
魔王(弟)よ、君の勇姿は忘れない(※生きてます)
それでは次回もどうぞ宜しく御願い致します。