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「ねぇ、やっぱり気のせいじゃないって……。」

昼食時、机を二つ繋げて三人が給食を食べていると、百合が切り出した。


「き、気のせいだよ……。」

視線をそらし言う姫菜。彼女もこの違和感に気づいていた。


ざわつく教室。皆同じ方を見ている。廊下の方だ。


「……お姫には申しわけないけど絶対気のせいじゃないよー。」

みさが、飲み干した牛乳瓶を望遠鏡のように覗き、廊下を見る。


その先にはこちらをジッと見つめる夢華の姿があった。


事の発端は、ある日突然起きた。三人が給食を食べていると、教室内がざわつき始めた。普段から騒がしい教室であったが、この時は、雰囲気がどことなく様子がおかしかった。


姫菜達が辺りを見渡すと、皆揃って廊下を見ていた。視線の先には入り口で、姫菜達をジッと見つめる夢華の姿があった。


「えっ、し、白河さん!?」


「な、なんで!?」


「か、薫ちゃんに知らせ……ると、面倒だなぁ。それにしてもなんでいるんだろう?」

ただ驚く姫菜とみさと、意外に冷静な百合。薫なら、こんな状況だと知れば、恐らく給食もそこそこに飛んでくるだろう。しかし、姫菜の件もあり、厄介なことになるであろうことは火を見るよりも明らかであった。


「……。」

真顔のまま直立不動。一切動く気配のない夢華。


「ね、ねぇお姫、ゆりりん……気のせいじゃなければ白河さん……。」

口元をヒクヒクと動かし、苦笑いでみさが言う。


「うん、多分お姫のこと見てる。」

同じく苦笑いの百合。


「いや、それはないって!」



そして、その数日後である冒頭に戻る。


「で、でもたまたま視線の先に私がいるだけかもしれないし……。」


「じゃあ、試してみよう。」

百合が提案する。


内容は極めて単純なものだった。姫菜が教室内をただ移動するもの。それだけだ。


「じゃ、じゃあ行くよ。」

姫菜は動き出す前に、念のため夢華の方をチラッと見ると、気のせいとは思えないほどしっかりと目があった。


「うぅ……。」

姫菜は、なるべく夢華の方を見ないように教室の中を右往左往した。



「どうだった?」

席に戻るや否や、二人に聞く姫菜。


「そりゃあ、もう……。」


「うん、ガン見。もちろん私らじゃなくってお姫の方ね。」


「うっ……やっぱそうなんだ。」

信じたくなかった二人の言葉の言葉に、姫菜は落ち込む。


「私何かしちゃったのかな……?」


「で、でもお姫には身に覚えがないんだよね?」

落ち込む姫菜を見て、百合が慌てて姫菜に尋ねる。


「うん……あっ、ある……かも……。」

姫菜は入学式の日のことを思い出した。


「……校内新聞関連以外で?」


「ぐっ、そ、それならごめん。」

みさの抉るような質問に、姫菜ではなく百合が反応する。もし、校内新聞関連のことなら、以前起きた校内新聞の一斉消失にも関わっているかもしれない。そう思うと、百合は罪悪感でいっぱいだった。


「もー、みさっちも過ぎたことをいつまでも言わないの。それにゆりりんのせいじゃないんだから。」

被害者のはずの姫菜が二人の仲裁に入る。


「へーい。」

やや不満げなみさであったが、それ以降は特に何か百合に対して棘のある物言いをするということはなかった。


「実は、一回白河さんと話した……と言って良いのか分からないけど一応話したことがあるんだよね。」


「へー、初耳かも。」


「うん、多分私も初耳。」

みさと百合が言う。


「入学式の日にね、下向いて歩いてたらぶつかっちゃったんだよね、その……白河さんに。」

頬をかき、あはは。と苦笑いする姫菜。


「まぁ、それは……。」


「関係ないんじゃないかなぁ?」

みさと百合の意見が一致する。


「だよねぇ……。私もそれしか接点ないから、それかなって思ったんだけどそんなことで怒るような人とは思えないんだよね。」

姫菜の意見も一致する。



「じゃんけん……。」

何気なく、本当にただ何気なくみさが呟いた。


「じゃんけん?」


「ん?じゃんけんがどうしたの、みさっち。」

みさの呟きに反応する姫菜と百合。


食事を済ませ、食器も片付けた後のゆったりした時間であったため、思ったことがつい口に出てしまっただけかもしれない。しかし、何の気なしにその呟きについて二人は尋ねてしまった。この間も夢華には動きはない。ただ姫菜達の方を凝視しているだけであった。


「いや、三人でじゃんけんしてさ、その……負けた人が聞きに行くってどう?」


「一応聞くけど何を?」

不穏な空気を察した百合が、みさに聞く。そんな百合は、すでに冷や汗が出ていた。また、心の中で、願わくば、自分の予想が外れますように、と強く念じていた。


「ゆりりんもわざとらしく言わないの……。決まってるでしょ、白河さんに何してるの、って。」

みさが意を決したように言う。内容は非常にくだらないものであったが、さながら物語の主人公が決め台詞を言う時のような緊張感があった。


「いやいやいやいや、無理無理無理無理っ!」

姫菜は、左右に髪を激しく振りながら断固拒否の姿勢を示す。まるでメタルバンドのライブでファンが見せるような見事なヘッドバンキングに少し感心する二人。



しかし、結局、変なテンションになっていたみさと、それに巻き込まれた百合に押し切られ、じゃんけんを承諾することとなった。


絶対に負けられない。ノリで決めたみさも、それに巻き込まれた百合も、両者に押し切られた姫菜も思っていた。


「い、行くよ……。」


「う、うん。」


「ば、ばっちこい。」


「い、良い?勝っても負けても恨みっこなし、一本勝負だよ?」

提案者のみさが、二人を見て言う。姫菜と百合は、それに無言で頷き思い思いの願掛けをする。



「じゃーんけん、ぽいっ!」


その間も夢華は彼女達を見ていた。

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