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「薫ちゃん!どういうことっ!?」

新聞部の部室に入るや否や、百合が大声をあげた。


「うわっ!?もー百合なんなの?」

百合の声に驚いた薫が椅子から転げ落ちる。他の部員は特に気にしている様子はない。


「とぼけないでよっ!お姫の記事無断で載せたでしょ!」


「お、お姫……?」

誰のことだとキョトンとする薫。


「そうだった……もうっ!黒木さんのこと!」

思わず出た姫菜のニックネーム。これは姫菜とみさしか知らないことだったと思い出し、すぐ訂正した。百合は、そんなことを忘れるくらい頭に血が上っていたのだった。


「あ、あはは……えっと黒木さん怒ってた?……私、もしかしてやっちゃった……かな?」

流石に冗談では済まされないと思った薫が百合に言う。


「もう謝ったよ……。去年もこんなことあったんでしょ?もう止めてよ。」



去年も似たようなことが起きた。当時二年生であり、同級生である雛子の記事を彼女の許可なしに、無断で掲載したのだ。その校内新聞が、雛子の目にも触れ、新聞部はこんな辺鄙な地に追いやられ、以後、雛子に関する記事の掲載は許可をしないし、取材にも一切応じないと言われた。


「で、でも、スクープは鮮度が命だし……。もしこれが生徒達の間で話題になれば、こんな肩身の狭い思いしなくても……。」


「お姫悲しんでたよ……もう止めてよ。同じ小学校出身だったから入って上げたけどもう付き合ってられないよ……。」

薫の言葉を遮る百合。


雛子とのいざこざが起きてから部員は一気に減り、廃部寸前にまで追い込まれていたのだ。今いる部員も、自分の好きなものについての記事が書ければ良い、我関せずと言った生徒のみが残っただけであったため、薫は野放しとなっていた。


どうにか以前のような賑わいのある部に出来ないか。薫は日々考えていた。そんな中、姫菜と夢華というスーパースターが入学して来たのだ。これを使わない手はない。そう思い、まず初めに夢華に取材を試みた。しかし、そんなものには一切興味のない夢華は当然断った。姫菜の記事はどうしても書きたい、いや、書かなければならない。妙な強迫観念、使命感から今回の強行を行ったのだ。


「……ごめん。」

少し冷静になれば分かることだ。薫が行ったことは個人のプライバシーを侵害する行為であることなど。しかし、自棄になっていた薫にはそこまでの配慮は頭が回らなかった。


「……謝るのは私じゃないでしょ。」


「うん、明日黒木さんに謝る。」



「……と言うわけでごめんなさい。」

翌日、姫菜が登校すると、下駄箱に薫と百合が待ち構えていた。そして、姫菜を見るや否や、薫が謝罪した。


「ごめんね、お姫。薫ちゃ、じゃなかった、緑山先輩も新聞部をもう一回盛り上げようとしただけなんだって。悪気があった訳じゃないんだ。」

続けて百合が口を開いた。


「もう良いってゆりりん。……緑山先輩ももう大丈夫です、校内新聞も撤去して下さったみたいですし。」


「そ、それなんだけど……。」


「あ、あのね、お姫、実は……。」



「えっ!?無くなってたの?」


「うん、実は……。」


百合と薫が言うには、昨日姫菜の事を記した校内新聞を撤去しようとした時にはすでになくなっていたとのことだった。画鋲が止めてある四隅の切れ端が少し残っていたため、画鋲を外さずに強引に、破るように剥がされたのではないかと考えられた。


「そ、それって私のこと嫌いな人が……?」

顔を真っ青にし、少し声が震える姫菜。薫は改めて事の重大さを思い知り、後悔した。


「でもね、それがおかしいのがあって……。」


「お、おかしいもの?」

これ以上一体どんな奇妙なことがあるのだろう。姫菜は、自分のことながら、自分が全く関与していないところで進んでいる事態に気が狂いそうになる。


「一年生のクラス付近のね、ほら、白河さんのクラスのとこに貼られてた二枚だけ一回画鋲を取って剥がしたっぽいんだよね。」


「それが……?」

一体何が言いたいのだろうか。百合の言葉を聞き、姫菜は、さらに彼女の考えを聞こうと促す。


「うん、その、なんと言うかおかしくない?二枚だけ綺麗に取って後は雑に剥がしてったってことじゃん。」


「た、多分黒木さんのファンで保存用、観賞用を持ち帰ったんだよ!」

少しの間黙っていた薫が言う。


「薫ちゃんは黙ってて。……それにそれだと布教用がいるでしょ、まったく……。」

呆れたように言う百合。


「保存?え、観賞?布教?」

ちんぷんかんぷんの姫菜。



結局、件の校内新聞は校内では見つからなかった。その後、姫菜と百合によって今までのやりとりをみさに報告した。みさは納得いかないようだったが、姫菜が宥め、しこりは残るものの、解決ということになった。



「ただいまー。」

誰もいない家に帰宅すると、みさが言う。もちろん誰もいないので返事はない。


みさは制服を脱ぐと、そのままの、下着姿のまま布団に倒れこんだ。


「まぁ、本人がそれでいいなら良いけどさ……。行動がストーカーっぽいんだよなぁ……。それに……早くなんとかし……ない……と……。」

みさはそのまま眠りにつき、この日、目を覚ますことはなかった。



「ん……朝。」

体が冷える。


「あー……。」

自分の今の姿を見て納得した。昨日制服を脱ぎ、そのまま寝ていたのを思い出したのだった。


「おはよう、お姫。」

日課となっている写真に写る小さな姫菜に挨拶を済ませると、少し寝汗をかいたのか、ベタベタしている身体を綺麗にしようと浴室へ向かった。


「……面倒だけど、シャワーだけ浴びよっかな。」

誰に言うでもなくみさが言葉を発する。


「さ、今日も一日頑張ろうっ!」

今日もまた、みさは真亀みさの仮面を被り、登校する。

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