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放課後、早速姫菜とみさは新聞部の部室へ向かった。百合は、先輩に話すことがある、それに、準備がある。と先に向かった。
「ここだよね。」
「うん、そのはずだけど……。」
姫菜達は、百合に事前に言われていた部室についた。
もう使われていない旧校舎の隅の空き教室。良く言えば、静かで落ち着く立地。悪く言えば、周りの部活から隔離されたような場所。そんな場所であった。
「お姫、とりあえず入ってみよっか。」
「う、うん。」
姫菜がノックをする。少しすると、扉が開く。百合だ。
「あ、いらっしゃい、ささ、どうぞ。……先輩、来ましたよー。」
姫菜達を部室へ入れると、百合は奥にいる上級生に声をかける。
「いらっしゃい、良く来たね。……うん、噂通り綺麗な子だ。私は緑山薫、この新聞部の部長だ。よろしくね、黒木さん……それと……。」
笑顔の女子生徒。セーラー服の胸のリボンは、雛子と同じ青色であった。
「あ、どうも、真亀みさです。」
「うん、真亀さんか、よろしく。」
笑顔を崩さない薫。
「じゃ、早速だけど説明しよっかな。」
「ご説明ありがとうございました。」
「したー。」
説明、部内の見学が終わると、体験入部である姫菜とみさは帰宅の運びとなった。二人が挨拶をすると、薫は、再び笑顔で送り出し、百合は、また、明日。と薫と同じく笑顔で手を振る。
「どうだった、お姫?」
「うーん、まだ良く分かんないかな。」
下駄箱で話す二人。
「明日も行く?」
「……うーん、緑山先輩も悪い人じゃなさそうだし、ゆりりんもいるから面白いんだろうけど、なんだろ……。」
「……。」
どことなく違和感のあった姫菜が、悩みながら言う。それを黙って聞くみさ。
みさも同じように違和感があった。どうやらあの緑山という新聞部の部長は姫菜を広告として利用したいだけなんだろう。説明も雑で、それが終わると姫菜への質問が始まった。もしかしたらそちらの方に割いた時間の方が多かったかもしれない。みさの勘が当たっていれば、近いうちに校内新聞に姫菜の記事が載ることだろう。
みさのその予想は的中してしまった。翌週、姫菜が登校すると、にわかに校内が騒がしかった。廊下には校内新聞が何枚も貼られていたのだ。それは全校生徒の目に晒されるような下駄箱付近にも貼られていた。
いつ撮ったのか分からない、姫菜の視線の合っていない、ローアングルから撮られた写真数枚。事実無根な、入部することを決めている等の文章がつらつらと並んでいた。
「ど、どういうこと?」
何が起きたのか分からない姫菜。顔は真っ青で、目には薄っすら涙が見える。
「最悪……。」
みさは、舌打ちすると、そう呟いた。
「と、とにかく教室に行こう。」
「……うん。……私、こんなこと言ってないよ。」
教室入ると、クラスメイト達はすでに校内新聞を見ていたようで、本当に新聞部に入部するのか聞いて来た。混乱し、ボーッとしている姫菜の代わりにみさが一つ一つ捌いて行った。校内新聞に載せられた記事の内容は、事実無根であり、姫菜は新聞部に入る気はないとキッパリ言った。そして、それを何人かの噂が好きそうな女子や、顔の広い女子に特に念入りに言う。すると、勝手に拡散していってくれた。良くも悪くも彼女らはそう言った類の話が好きなので、皆率先して拡散に努めてくれたのだった。
「お、おはよう、お姫、みさっち。」
バツの悪そうな顔で二人に挨拶をする百合。
「あ、ゆ、ゆりりん……おはよう。」
「……。」
姫菜は目を逸らしながら挨拶をし、みさに至っては無視していた。
「本当ごめん、まさかこんなことになるなんて……。」
「……赤井さんは知ってたの?」
「ちょ、みさっち……。」
みさのただならない空気に冷や汗が止まらない姫菜。
「……知らなかった、まさかこんなことするなんて思ってなかった。けどごめん、私がお姫達を体験入部に誘わなきゃこんなことには……。」
「も、もう過ぎちゃったことだし良いよ。」
「……お姫がそう言うなら良いけど……。ごめん、みさっち。」
納得することが出来なかったみさ。しかし、姫菜がこれ以上の追求を望んでいないと察すると、ふつふつと湧き上がる怒りをなんとか抑え込んだ。
「こ、こっちこそごめんね。……なんとかするから。」
「は、はいっ、この話はもうおしまい!良いよね、二人とも?」
姫菜の問いかけに無言で頷く二人。
その後、少しずつギクシャクした空気は元に戻っていき、帰る頃には元に戻っていた。
「今朝はごめんね、お姫、みさっち。」
「私は大丈夫だよ。ゆりりんもあんまり気に病まないでね。」
「私は別に……お姫が良いなら。」
「本当にごめんね、二人とも。今から先輩に言ってくるから。」
百合はそう言うと小走りで廊下へ出た。
廊下へ出ると、未だに校内新聞が貼られていた。もう遅いかもしれないが、これらを剥がすように言わなければならない。百合は移動する速度を少し早めた。
百合が通った後、校内新聞をジッと見つめる姿があった。
「あの人、黒木姫菜って言うんだ。新聞部か……うん、クラスも隣だ。今度見てみよっと。」
夢華であった。夢華は、一人になれるこの時を待っていた。誰もいないのを確認すると、壁に画鋲で留められている校内新聞を二枚外し、姫菜の写真の箇所に折り目がつかないように慎重に折ると、自身のスクールバッグの中に
入れた。
「観賞用、保存用……布教用はいらないや。私だけが知ってればいいんだし……これ以上ライバルが増えると厄介。」
そう呟くと、夢華は壁に貼られた校内新聞を乱雑に、破るように剥がし始めた。