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どうしたものか。姫菜が可愛がっている黒猫……あれは、あと三ヶ月くらい、今年の夏までだろう。なるべく悲しませないようにしなければならない。



「朝……か。」

みさが目を覚ます。時計は五時だ。少し早く起きてしまったようだ。


「おはよう、お姫。」

布団がもぞもぞと出ると、みさは、写真立ての中の姫菜に挨拶をする。


写真の中の姫菜は今より幼く、隣に写っている女子との身長はさほど差がないから六年生の夏以前のものであると分かる。


「さ、今日も一日頑張ろうっ!」

こうして今日もまた、真亀みさとしての一日が始まる。



「おはよう、お姫!ゆりりん!」


「あー、おはよう、みさっち。」


「おはよう、みさっち。」



時は進み、桜の花が木から落ち、道に落ちた花も少なくなりつつある五月なった。三人は一緒に行動するようになっていた。


「それにしても凄いね、部活勧誘。」

百合が廊下を見て言う。


その視線の先には運動部の上級生、すでに運動部に入部している一年生数人が固まりで動いているものがいた。その中心にいるのは夢華で、初めこそ姫菜達は何事かと思っていたが、こう連日見てしまえば慣れてきてしまう。


事の発端は極めて単純なもの。夢華と同じ小学校出身の運動部の上級生数人が、夢華を自身の所属する部に勧誘した。また、初めての体育の授業の際に行われた体力測定で驚異の数値を叩き出したのだ。これらが上級生にも伝わり、今に至る。


「日野小の白河夢華、月島小の神崎夢華って言われてて、白河さん、周りの小学校の運動部からは、目つけられてたらしいよ。」

クラスメイトの一人が三人に言う。みさはともかく、百合も姫菜も運動部ではなかったのでそんな噂は知らなかった。しかし、現状を見ると、夢華が有名だったというのは本当なのだろう。


「そうなんだ、やっぱ凄いんだね、白河さん。」

姫菜は初めて夢華に会った時のことを思い出す。たしかに不意にぶつかってしまったが、自分よりも小柄な夢華がそのまま立っていて姫菜の方が尻餅をついてしまったことが脳裏に過る。


「ところでお姫は部活入らないの?」

みさの言葉。


「うーん、私は良いかな……。運動苦手だし、絵が描ける訳でも楽器が演奏したい訳でもないし……。」

姫菜が、運動が苦手と言うのは誇張した表現でも、謙遜でもなかった。


「……。」

「……。」

長座体前屈以外全てが最下位。その悲惨な景色が百合とみさの脳裏を過る。


身長も高く、細身でモデル体型であったために、周囲からの期待はそうとうなものであっただろう。夢華のクラスが先に体力測定を済ませていたこともあり、夢華以上に身長も高く、夢華同様入学式の時から注目されていたため、良い結果を期待されていた。そのため、周囲の落胆具合は凄まじいものであった。


「絵……。」

みさが呟き、百合は何かを思い出したように苦笑いする。


一度、とても美人な新入生が入学してきたと噂になり、姫菜を一目見ようと上級生達が姫菜のクラスに押しかけたことがあった。


運動は苦手であるというのはすでに噂として回っていた。そのため、マネージャーとして入部しないか。という話もあった。しかし、姫菜は首を縦に振らなかった。一部の運動部特有の体育会系のノリが苦手だったのだ。


文科系の部活ならどうか。運動部からの勧誘が減ると、今度は文化部からの勧誘が増えた。それなら、と姫菜は体験入部をした。


吹奏楽部に行った時は、まず楽譜も読めず、比較的軽い管楽器ですら五分ほどで腕がパンパンに腫れてしまった。後日筋肉痛になってしまい、自然消滅。


そして、美術部に行った際はもっと悲惨なこととなった。何か自由に描いて良いと言われ、姫菜は黒猫を描いた。そう、確かに姫菜は、姫菜自身は、黒猫を描いたつもりだったのだ。


周りの意見は実に様々で、これはチュパカブラである。やら、テレビで見たことのある深海魚にそっくりだ。などが挙げられ、誰一人正解である黒猫と言う者はいなかった。


「ま、まぁ、帰宅部も珍しくないしね……そう言えばゆりりんは何部なの?」


「ん?私?あれ、言ってなかったっけ、新聞部だよ。」


「へーそうなんだ。面白い?」


「お、もしかしてお姫興味ある感じ?」

姫菜の質問に百合が楽しそうに声色が普段より若干高くなる。


「うん、少しね。」


「なら体験入部おいでよ、みさっちもどう?」


姫菜の周りとのコミュニケーションの機会が増えるなら良いか。


「うん、私も行こっかなー。」

一日でも早く、姫菜が黒猫のみに依存するだけの現状を変えなくてはならない。周りにもっと友人が増えれば、信頼し、相談出来るようになれば少しでも良い結果になるかもしれない。


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