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再三にわたる雛子の説得と、周りの期待の視線に、ついに姫菜は折れてしまった。
「り、立候補します。」
こう言うしかなかった。
校内新聞では、姫菜が生徒会選挙に立候補したことを大々的に載せた。校内では、姫菜の話題で持ちきりだった。
「ひーちゃん大丈夫?」
「お姫心なしかやつれてるよ。」
「あ、あはは……正直ちょっとしんどいかも。」
苦笑いの姫菜。
昼休み。疲れきった姫菜を心配する夢華と百合。ただでさえ小さな弁当を半分くらい残し、片付ける姫菜。最近食欲がなかった。立候補すると言ってしまった手前、もう引っ込みがつかない。しかし、やはり正直に言ってしまえば姫菜はなるべく目立つようなことはしたくなかった。その為、生徒会選挙など出たくはないのだ。
そんなに出たくないなら私が代わりに言おうか?
この日の授業が全て終わり、姫菜が帰宅すると、ポチが姫菜に語りかけた。
「いや、いいよ。……頑張る。」
そうは言っても声に覇気がない。姫菜は制服のままベッドに飛び込むと、枕に顔を埋めた。
モヤモヤした気持ちを抱えながら姫菜は中学生生活を送っていた。それは夢華やポチにもすぐに分かった。しかし、だからと言って彼女達が姫菜になにかしてあげれることはない。愚痴や悩みを聞こうにも、姫菜はなかなか話そうとしない。
夢華は焦っていた。以前ポチの死体を見た時の異常な落ち込み方を見たことがあったからだ。姫菜の心が再び折れた時、夢華にはどう対処すれば良いか分からない。だから少しでも姫菜の支えとなり、助けなければならない。
放課後、夢華は一人で生徒会室の前に来ていた。
夢華が生徒会室の扉のドアノブに手をかけようとした時、扉が開いた。
「いやー、そろそろ来る頃だと思ってたよ。」
夢華が来るのを分かっていたように、雛子が出迎えた。後ろには微笑む由香ぎいる。
「不本意ですけどね……。」
ため息をつく夢華。
「それはお互い様だよ。」
「お願いがあります。」
夢華は真剣な目で雛子を見つめた。
「うん、分かってる。で、役職はどこが良いの?」
「なるべくひーちゃんをサポート出来る所が良いです。」
夢華が言う。
姫菜が生徒会長になるなら自分が近くでサポートしなければならない。夢華はそう考えた。
「うーん、なら副会長じゃない?」
由香を見る雛子。
「まぁ、書記でも私みたいに雛ちゃんに付きっ切りなんだけどね。」
由香が言う。
「ならどっちでも良いです、ひーちゃんの助けになるんでしたら。推薦して下さい。」
「うん、分かったよ。大丈夫、二人とも当選するはずだから。」
そう言う雛子の顔は、思い通りになり、心底嬉しそうに笑顔であった。
あっけないものだった。夢華が立候補するという噂が広まると、たちまち今まで立候補していた生徒達が次々と辞退していった。そこからはトントン拍子だ。結果など火を見るよりも明らかだ。姫菜が生徒会長になり、夢華が副会長となった。生徒会長と副会長、その両者が一年生など前代未聞であった。しかし、二人の放つオーラに、皆文句をつけなかった。




