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夕日が沈み始めた頃。夢華宅の玄関前に姫菜と夢華がいた。


「今日はありがとうね、また来てね。」

ギュッと姫菜の両手を包み込むように夢華の手を自身の両手で握る夢華。


「こっちこそありがとうね。」


「また来てねー。」

リビングからひょこっと顔を出す夢華の母。ニコニコしながら手を振る。


美人で愛想も良い彼女に微かな憧れを抱き、姫菜は夢華宅を出た。



不思議な親子だったね。


「そうだね……。」

不思議な女子中学生と不思議な猫が言う。皮肉にしか聞こえない。


帰り道、一人でも寂しくない。ポチがいるからだ。なぜポチが姫菜に取り憑いたのか、姫菜にも、ポチ自身にも分からないが、この状況も、慣れてしまった今では悪くないと思えた。


ふと、公園が視界に入った。


一人の女子小学生がブランコを漕いでいた。その表情はどこか寂しげで、誰かを待っているようにも見えた。


……姫菜、どうしたの?


「ん?いや……あの子。」


あぁ、どうしたんだろうね?


もう日が沈む。それなのに彼女は帰る気配がない。いくら夏とは言え、そろそろ暗くなる。そうなれば家族が心配するだろう。


声かけるか。普段ならば心配こそするものの、赤の他人にそこまでアグレッシブな行動を示す事のない姫菜。しかし、この日はがりはそう思い、公園へ向かった。



「こんにちはっ!」

姫菜は、少ししゃがみながら少女に目線を合わせる。


「っ!?……ど、どうも。」

一瞬目を見開き、少女は困ったように挨拶をした。目があったのは初めの一瞬のみで、すぐさま視線を横に外した。


「ごめんね、一人で寂しそうだったから声かけちゃった。」


ふふ、姫菜ナンパしてるみたい。

ポチの声を無視する姫菜。


「そう……ですか。」

目を合わせる気もない少女。


「お家帰らないの?」

姫菜は、なるべく怖がらせないようにゆっくりと優しく語りかけるように話す。


「……もう帰る場所無いから……。」


「え?」


「あっ、いや、なんでもないです。」

露骨に慌てる少女。ブランコから降り、駆け出した。その際何か口にしていたが、姫菜の耳には届かなかった。


「大丈夫かな?」

姫菜は心配そうに彼女の後ろ姿を見つめていた。


あの子……。


「ポチ……?」


あっ、いや、なんでもない。帰ろっか。

何かを考えていたのか、ポチは明らかに上の空であった。


「う、うん。大丈夫?」


うん、なんでもないよ。なんでもない。

これ以上詮索しても口を割らないだろう。姫菜は追求しなかった。



「……。」

姫菜が帰り、夢華宅には沈黙が続いていた。


「夢ちゃん……?もしかして怒ってる?」

しびれを切らした夢華の母。苦笑いで夢華へ言った。


「べ、別に怒ってないけど……。あんまりママとひーちゃんが仲良くしてるとこ見たくないだけだもん。」

フンッとそっぽを向いている夢華。


「どうして?夢ちゃんのお友達ならママも仲良くなりたいわ。」

今度は優しい笑みで言う。


「……だってひーちゃんがママに取られちゃうし、ママもひーちゃんに取られちゃうと思ったんだもん。」


「もー可愛いわねー。」

そう言うと、思わず夢華抱きしめ頭を撫でる。


「……。」

相変わらずそっぽを向いたままだが、されるがままの夢華であった。その顔は、夢華の母からは見えなかったが、少し嬉しそうであった。



数分後、自室で一人、夢華は写真を見ていた。姫菜と姫乃の写真だ。その目は光が無く、手にはカッターを持っている。


「それにしても誰よこれ……。私のひーちゃん唆して……。」

ガッ、ガッ。カッターで何度も姫乃の頭を刺す。数回行うと、その箇所のみズタズタになっていた。


結局のところ、夢華は姫乃のことなど微塵も覚えていなかったのだ。ただ、あの場では思い出したと言わなければ姫菜と会話が続けられなくなると考えた。だから話を合わせたのだった。嘘をついてでも姫菜との会話を続けたかったのだ。


「ひーちゃんは人気者だから仕方ない。悪いのはこいつ。ひーちゃんは人気者だから仕方ない。悪いのはこいつ。ひーちゃんは人気者だから仕方ない。悪いのはこいつ。」

ズタズタになった写真を見てブツブツと呟いていた。


この時、白河夢華の中で、神崎姫乃は明確に敵であると認識された。

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