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「さ、上がって上がって。」

普段よりも若干声色の高い夢華が玄関を開ける。


住宅街の中の一つの家。周りの家々から浮くことない一戸建て。それが夢華の自宅だった。


「お、お邪魔しまーす。」

少し緊張気味の姫菜。


「あらー、いらっしゃい!」

奥の方から声がする。そして、その声の少し後、トトトという足音とともに夢華をさらに大人っぽくいた美人が立っていた。夢華の母だ。


「ひーちゃ……黒木さん連れて来たよ。マ……お、お母さん。」

いつもよりもゆっくりしたペースの夢華。普段姫菜が学校で聞いている話し方と少し違っていた。


「いつもありがとうね、この子迷惑かけてない?この子人見知りだから仲良くしてあげてね。」

夢華の母がニコニコと姫菜に言う。


「い、いえ……いつも夢華さんにはお世話になってます。その、こちらこそです。」

社交辞令だ。


「もーお母さんっ!ひーちゃん困ってるでしょ!……ひーちゃんこっち。」

姫菜の腕を掴み、ズカズカと歩いていく夢華。引っ張られて後ろからしか見れなかったが、姫菜の目には耳まで真っ赤な夢華が見えた。



夢華の部屋は、良く言えば整理整頓されたもの、悪く言えば勉強机とベッド、クローゼットしかない無機質なものだった。


「座るところないからベッドに座って?」


「それじゃあ失礼します……。」

夢華に促され、チョコンとベッドの隅に腰掛ける姫菜。


夢華はそんな姫菜の隣に当たり前かのように座った。そして、姫菜の手の甲を覆うように自身の指と姫菜の指を絡める。


「ゆ、ゆめきゅん……?」

ピクッと反応する姫菜。その声と身体は少し震えていた。


「ねぇ、ひーちゃん?」


「な、なに?」


「これなんだけどさ……と言うか、これ誰?」

夢華はポケットから一枚の写真を出す。それは、姫菜が自室に置いておいた姫乃との写真であった。


都合が悪いことに、姫乃に抱きしめられ、安心しきっているところの写真であった。角度的に姫菜の顔は写っていなかったが、恐らく安心しきっていただろう。


「え、えっと……。」


友達。ゆめきゅんも知ってる人でしょ?

言葉が出ない姫菜の脳内でポチの声がした。


「と、友達……。ゆめきゅんもこの子知ってるでしょ?」


「私そんな子知らない。」


そんな馬鹿な……。

姫菜の心の声と姫菜の脳内に響くポチの声が重なる。


「え?本人言ってたよ、よく部活の試合で対戦したって。」


「……。」

無言になる夢華。こめかみをトントンと叩いている。姫どうやら思い出そうとしているようだ。



数秒か、数分か。どのくらいか分からないが夢華の部屋に嫌な沈黙が続いた。その際姫菜の耳に聞こえたのは自身の激しく打ちつける鼓動のみだった。


「あっ……。」


「っ!?」

小さな夢華の声に姫菜が反応する。


「思い出した。うん、たしか他校にそんな子いたような……気がした。」


それでも気がしただけなんだね。


「あはは、そうなんだ。」

おぼろげな夢華の記憶。恐らく彼女にとって姫乃という存在とはその程度のものに過ぎないということなのだろう。苦笑いしか出来ない姫菜であった。


「でもあの子とひーちゃんってどこで知りあったの?多分小学校違うよね?」


「え、えーっと……。」



「こんこーん、お邪魔するわねー。」

扉の外から聞こえた陽気な声が二人の会話を遮った。声の主は口でノックの音を言い扉を開けた。夢華の母だった。


その際、姫菜の指に絡めている自身の指をサッと抜き、姫菜から少し離れた。


ニコニコといくつかの菓子とオレンジジュースの入ったコップ二つを御盆にのせている。菓子は一口サイズのチョコレートや、ポテトチップスなどであった。


「あ、ありがと。マ……お母さん。」


「うふふ、なんの話してたのー?ママも混ぜてー?」

ニコニコと夢華に抱きつきながら夢華の母が言う。


「も、もー!ママ!ひーちゃん来てるんだから止めてっ!」

慌てて母を引きばかす夢華。彼女の顔は真っ赤になっていた。姫菜とポチは、今日はよく慌てている夢華を見るなと思って見ていた。


それよりなにより、姫菜とポチには気になることがあった。


「ま、ママ……?」


「……あっ。」



幸か不幸か、夢華の母の乱入により、話は有耶無耶になった。夢華から部屋を追い出された夢華の母であったが、何度も突撃していき、夢華も諦めて三人で話をした。

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