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夏休みもいよいよ両手で数えられる日数しか残っていないある日。自室でカレンダーを見てため息をこぼす姫菜がいた。


どうしたの?


「いや、明日学校だなぁって……。」



明日?まだ夏休みじゃないの?


「うん、でも登校日なんだ。」


……登校日?

恐らく理解できていないであろうポチが姫菜に聞き返した。


「そう、まぁ授業はしないんだけど、宿題の一部を出す日なんだ。だから学校に行かなきゃ駄目なの。」


宿題終わってないの?


「いや、宿題はもう終わってるんだけどね……。」


……なのに行きたくないの?


「……まぁ、そうなるね。」


なんで?


「なんでって言われてもねぇ……。」

理由に困る姫菜。以前のように、夢華との関係に困っているという訳でもないし、授業をするという訳でもないのに行きたくないのだ。


じゃあさ、そんなに学校行きたくないなら私に行かせてよ。


「えー?駄目だよー。ポチに任せたら何するか分かんないもん。絶対駄目だからねっ、絶対!」


……うん、分かった。もちろん何もしないよ。

少しの間の後のポチの言葉。姫菜には、何か企んでいるのではないかと思われたが、これ以上言っても無駄だろうと思い何も言わなかった。



「姫菜ー、夢華ちゃん来てるわよー。」

部屋の外から母の声がする。


あ、この前言ってた凄い人……。遊ぶ約束でもしてたの?


「いや、なにもなかったと思うけど……。」

何の用だろう。姫菜は母に、今行く、と言いリビングへ向かった。


リビングには、夢華がおり、椅子に姿勢良く座っていた。姫菜を見ると、すぐに立ち上がり、笑顔になった。


「おはよう、ひーちゃん。ごめんね、

急に押しかけて……。」


「いや、大丈夫だよ。それでその……何か用かな?」

遊ぶ約束をしていただろうか。全く記憶にない姫菜は何か忘れているのではないかと心配になった。


「その、今日ね、良かったら私の家で遊ばない?」


「ゆ、ゆめきゅんの家?」

やはりまだ小っ恥ずかしいあだ名。


「うん、駄目かな?」


「私は大丈夫だけど、ゆ、ゆめきゅんのお母さんとかは大丈夫なの?」


「うん、マ……お母さんもひーちゃんに会いたがってる。」


「うん、なら折角だしお呼ばれしようかな。」

断る理由が特になかった姫菜はそう言った。


「あっ、そう言えばこの前借りてた服ありがとうね。」

椅子の下から紙袋を取り出す夢華。


紙袋の中から少し見えたのは、姫菜のよく知っている、と言うより、自分の服そのものであった。


「……それって私の服だよね?」

いつ貸したのだろうか。全くもって身に覚えがない姫菜。


「ほら、夏休み前にひーちゃんが大事にしてた野良猫がその……。」

言いずらそうな夢華。声は暗くなり、俯き加減で表情は見えない。


ほら、私がその……死んじゃった日のことじゃない?野良猫って言ってるし……。

言いずらそうにしどろもどろになるポチ。


「その時に猫の血とかで私の制服汚れちゃったから、ひーちゃんのお母さんがひーちゃんの服貸してくれたの。」


「そうなんだ、わざわざありがとね。あと、あの時もありがとう。」


「私は大丈夫だよ。もうひーちゃんは大丈夫なの?凄い泣いてたから……最近は元気になってきたけど、もう大丈夫?」


へー、そんなに泣いてたんだ。

ポチの顔は見えないが、恐らくニヤニヤしているだろう声。


「なっ!?ち、違うしっ!」

ポチの声に思わず反応してしまった姫菜。その顔は少し赤くなっていた。


「ひ、ひーちゃん?」

夢華は、唐突に大声を上げた姫菜を心配そうに見つめる。


「あっ、いや、その……だ、大丈夫だよ、大丈夫!うん、大丈夫。」

慌てすぎて目が左右に泳ぐ姫菜。


「服どうすれば良い?」


「へ?あ、うん、預かるね。ありがとう。」

夢華から服を受け取ろうと手を伸ばす姫菜であったが、彼女の腕は空を掴んだ。夢華が手にしていた姫菜の洋服を上に上げたのだ。


「……。」


「え、あの……?」

お互い見つめ合った後、姫菜が視線を外してしまう。真顔で見つめる夢華に対し、オロオロと狼狽する姫菜。


姫菜は、腕を下すべきかどうすべきか分からずに、中途半端な位置でふらふらと動かしている。一方の夢華は未だに姫菜をジッと見つめている。表情は依然として真顔で、何かを待っているようにも見えた。



「そ、その……。」

沈黙に耐え切れず再び姫菜が口を開いた。


「私が持っていくよ。だから部屋の場所教えて?」


「いや、私やるから……。」


「私が持っていく。ひーちゃんは座ってて。」

姫菜が言い終わる前に夢華が言葉を被せた。


「わ、分かった……ありがとう。えっと、階段上がって二階のすぐの部屋だよ。」

勢いに押された姫菜の言葉。


夢華は持っていた姫菜の洋服を紙袋にしまうと、リビングを後にした。


前から思ってたけどやっぱあの人怖いね。


「……うん。」

ポチの言葉に同意せざるを得ない姫菜であった。

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