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「あっ、えっと……その、ごめん。」
夢華がいなくなったのを確認すると、百合が口を開いた。みさは俯いており、百合には表情をうかがい知ることが出来なかった。
「いや、ゆりりんのせいじゃないよ、私のせい……。」
みさの震える声。耐え難い怒りに耐えているのが、それとも涙を耐えているのか。どちらにしろいつも通りのみさ、というわけではなさそうであった。
いつの間にか子ども達は帰宅しており、公園内にはみさと百合しかいなかった。夕日が二人を照らしていた。
「まぁ、話したくなければ良いけどさ……。」
百合がみさの座っているベンチに座る。みさとの距離は、数cmほどしか離れていなかった。
「なにがあったかは分からないけど、悩んでるなら話くらいは聞くよ?……もちろん、校内新聞には載せないよ。」
続けて言った。そして、ニカッと小さな子どものような笑顔をした。
「……どうしてそこまでしてくれるの?私ゆりりんに酷いことしちゃったのに……。」
「……もしかしてお姫の記事が校内新聞に載っちゃった時のこと?あれは私にも非があるし気にしてないよ。どうしてって言われるとなー……友達だから、としか言えないかな……。」
百合はそう言うと、少し照れくさそうに微笑み頬を掻く。
「それだけの理由で……?」
みさには信じられなかった。いくら友達と言え、百合にも、夢華にもきつく当たってしまったのだ。
みさは、姫菜を守れればそれで良かった。それは夢華も似たようなものだろう。姫菜にさえ嫌われなければ良い。だから互いに喧嘩腰になってしまった。
「……私さ、実は小学生の時、いじめられてたんだ。」
百合がポツリと呟き始めた。
「え?」
「その時に薫ちゃん……緑山先輩だね、新聞部の部長。薫ちゃんに助けてもらったんだ。それでね、その時に学年気にしないで、って言って友達になってくれたの。凄い嬉しくてさ……嬉しくて……。」
そこまで言うと、百合は少し震えているのが分かった。
「ゆ、ゆりりん……。」
「ごめんね、今は大丈夫なんだ。ちゃんといじめてた子達からも謝ってもらったし……。でも、薫ちゃん以外で初めて出来た友達がみさっちとお姫だったからさ……。」
百合は俯きながら必死に言葉を紡ぐ。
「お姫の友達は、私の友達だから……白河さんも大事な友達だと思うようにしてたんだ。……だから、だからみさっちと白河さんが喧嘩してると私……どうしたら良いか分からなくて……。」
「ごめん、あの……。」
みさは、罪悪感で押し潰されそうだった。自分勝手に動いてしまった。その結果、姫菜が傷を癒すことが叶わなかったことはおろか、姫菜と自分と仲良くしてくれていたに辛い思いをさせてしまった。
「……ごめんね。」
数分後、落ち着いた百合。
「いや、こっちこそごめんね。」
「うん。」
「私さ。」
「……うん。」
「今度、白河さんに謝るよ。」
「……うん。」
「それで、これからは皆で仲良くしよう。」
「うん。」
「それで、皆でお姫を支えよう。」
「うん。」
「あ、あのねっ、ゆりりん……その聴いてほしいことがあるの。」
「うん、教えて?」
みさは、百合に姫菜の現状を伝えることにした。みさは、拙い説明となってしまったが、百合は、みさの話を最後まで真剣に聞いた。たまに相槌を打ちながら、それ以外はみさの言葉を聴くことに徹していた。
「……うん、なんとなく分かったよ。大変だったんだね。」
話を聞き終えると、百合がみさを抱きしめ頭を撫でた。
「うん、お姫が可哀想……。」
「違うよ、お姫もだけど……みさっちのことだよ。」
「私……?」
「うん。」
そう言うと、百合はみさの目元から流れ落ちた涙を拭った。百合に涙を拭かれるまでみさは、自分が今涙を流しているということに気づかなかった。
「よく頑張ったね……。」
百合が続けて言った。
その言葉を聴き、みさはある決断を下した。




