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「以上で、終業式を終えます。」


体育館に全校生徒が整列していた。今日は、一学期の終業式、つまり、明日からは皆が待ちに待った夏休みなのだ。この場にいる大半が明日からの長期休みに胸躍らせ、校長の挨拶など右から左へ流していた。



終業式が終わると、皆続々と体育館から出て行った。蒸し風呂のようなこの場から一刻も早く出て行きたかったのだ。


「いやー、終わったねー。」

百合が自身の制服の胸元を仰ぎながら言う。


「うん、それにしても暑いねー。」

姫菜が語尾を弾ませながら言う。その際、スカートの裾を持ちパタパタと仰いだことによって周りの男子の視線が姫菜のスカートへ注目され、夢華が空を見上げながら鼻をつまんでいたので百合が急いで注意をした。姫菜はまさか皆に見られているとは思っていなかったらしく、赤面していた。


「……で、白河さんは鼻血止まった?」

呆れ顔の百合。


「……なんのことか分からない。」

シラを切る夢華。



「みさっち?大丈夫?」


「うん?あ、大丈夫だよ、ちょっと体育館が暑かったからね、多分そのせい。」

心配する姫菜にみさはそう答えてみせた。



終業式が終了すると、夏休みという楽しみだけがやってくるわけではない。通知表という悪魔がやってくる。特に百合の場合はアヒルの大行進で、親からの大目玉は間逃れないだろう。


「うわー、お姫ーまずいよー絶対お母さんに怒られるー。」

百合はわざとらしく嘆く演技をし、姫菜に抱きつく。


「なっ!?赤井さん、離れて!ひーちゃんが嫌がってる!」

なぜか隣のクラスのはずの夢華もすでにいる。そして、姫菜と百合の間に割って入り百合を引き剥がそうとしていた。



「えっ、えっとー、みさっちは成績どうだった?」

百合と夢華が腰に絡みついている状態の姫菜が無言であるみさに尋ねた。


「……可もなく不可もなくってかんじかな。」

みさはそう言うと、姫菜達に自身の通知表を見せた。


5段階評価で4、5が並んでいた。百合意外も似たような物だったので、その後皆互いに見せ合った。進学校ならまだしも、公立の普通の中学校の一年生の、初めての評価なら妥当だろう。また、皆指摘しなかったが、姫菜の体育の成績はアヒル、つまり2だった。



「じゃあ、皆、くれぐれも怪我しないように。あと、警察のお世話にもならないように、以上。」

担任教師のこの声を聞くや否や、生徒達は廊下へ飛び出した。


夏休みが始まる。


「じゃあ、私部活行くから。」

夢華が来るのとほぼ同時に、百合が出て行った。三人は、またね、と言い、百合もそれに返事した。


「私達も帰ろう。」

夢華の提案で姫菜とみさも校門まで一緒に向かった。その間夢華が、ごく自然に姫菜の指を絡ませる、所謂恋人つなぎをしたが、夏休みの高揚感が支配

いる今の姫菜にとって瑣末なことであった。


「あ、あのね、お姫、ちょっと話があるんだけど……。」


「なに?」

夢華に繋がれた手など気する様子などまるでない姫菜が微笑んでいる。


「あの、出来れば二人っきりで話したいなーって……。」

二人きりだということを知ると、微笑んでいる姫菜の横で、姫菜に見られない角度から睨みつける夢華がいた。


「う、なんでもない……。」

顔の整った夢華の睨みは、かなり迫力があった。みさはたじろいでしまい、そのまま話題は消滅した。


「ふふ、変なのー。」


「本当だね、ひーちゃん。」

みさの目の前で微笑む二人。


姫菜は純粋な笑みであるのは明白だったが、夢華のそれは、違った。普段ならば微笑んでいるだけで絵になる二人たま。しかし、今ばかりは、少なくともみさの目には姫菜を独占しようとする醜いものにしか見えなかった。



「じゃあ、私達こっちだから。」

姫菜の腕に、自身の腕を絡ませている夢華。ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。これ以上二人の時間を邪魔するなと言わんばかりの言い草であった。


「じゃあねー、みさっち。また電話するから遊ぼうねー。」

呑気に手を振る姫菜。


みさは、これから自分になにが起きるのか分からないのか。と呑気な姫菜に苛立つも、姫菜は何も知らないから仕方がないと自分を納得させる。そして、姫菜に、手を振り別れた。


「じゃあ……えっと、ゆ、ゆめきゃん私達もここで別れよっか。」

未だに慣れない夢華のニックネーム。


「良かったらひーちゃんの家行って良い?」


やはりか、と姫菜は思った。なんとなく雰囲気でそう言いだすことは予想が出来ていた。だから次に自分が言うべきことも分かっている。


「でもゆ、ゆめきゅんもお母さんに通知表見せた方が良いんじゃないかな?」


「……うん、分かった。なら通知表家に置いたらひーちゃんの家行って良い?」


「う、うん。」

もう少し粘るかと思っていた姫菜は面食らってしまった。それと同時に言いようのない感情が湧き出た。



「じゃあ、また後で。」


「うん。」


そう言うと、二人はそれぞれの自宅へ帰宅するため別々の道を歩き出した。



「ただいまー。」

夢華は玄関の扉を開ける。夢華が帰宅したのが分かると、リビングにいた母がおかえり、と言い、玄関へ向かい、出迎えた。


「ママー。」

夢華は満面の笑みで母に抱きつく。


「あらあら、今日の夢ちゃんは甘えん坊さんモードなのね。」

母も手馴れたもので、しっかりと受け止めると、夢華の頭を撫でる。夢華の方がやや身長が高いため、腕を少し上に伸ばさなければならなかったが、何度も夢華の頭を撫でた。


「今からひーちゃんの家に行くね。」


「あら、最近仲の良い子ね、お菓子持って行く?」


「うん!そうだ、ママ、夏休みにひーちゃんお家に呼んで良い?」


「えぇ、大丈夫よ。私も夢ちゃんがそこまで仲良くしてくれてるなら見てみたいわ。」


「うん、じゃあひーちゃんにも言っておくね。はい、通知表。じゃあ私行くねー。」

スクールバッグをその場に置き、夢華は中から通知表を出した。そして、そのままの勢いで玄関の扉を開け、再び外へ出た。



「……。」

駆け出す夢華のことを見ている一つの影。夢華がいなくなるのを確認すると、夢華の自宅へ向かった。


インターホンを鳴らすと、ピンポンと弾む呼び出し音が外にいてもわずかに聞こえた。


「はーい。……あら?夢ちゃんのお友達かしら?」

この母にしてあの娘だろうとみさは思った。夢華の母も夢華同様美人であったのだ。


「はい、突然押しかけてすみません。えっと、夢華さんの隣のクラスの真亀みさです。」

影の正体はみさであった。


「あら、みさちゃんね。ごめんなさい、あの子制服のまま、お友達の家に出かけちゃってて……。」


「そうですか、すみません、お邪魔しました。」


「何か約束してた?」


「いえ、すみません、失礼します。」

みさは頭を下げると、そのままその場を後にした。



「友達ってやっぱりお姫の家か。くそ、あのマザコン娘余計なことすする前に間に合って……。」

夢華の家を後にしたみさは全力で走り出した。



「……つ、着いた。」

みさは、十数分全力で走った後わ汗だくになりながら一軒の家を見つめていた。姫菜の自宅に着いたのだった。


「緊張するなぁ……。」

息を整え、インターホンを押そうとする。指先が微かに震えていたのが分かった。


夢華の家同様、呼び出し音が微かに聞こえた。少しすると、姫菜よりも少し身長は低いが、彼女よりも大人で、同性でも見惚れてしまうような美女が玄関の扉を開けた。みさはすぐにその女性が姫菜の母であると分かった。


「はじめまして、私、姫菜ちゃんの友達の真亀みさです。実はお願いがあって来ました。」

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