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七月の頭。夏休み間近となり、生徒達はにわかに浮き足立っていた。姫菜も例外ではなく、朝から鼻歌を歌い、自分の席で足をパタパタと動かしていた。


「おー、お姫なんかご機嫌だねー。」

放課になると、百合が姫菜に言う。その後ろからみさが近づいて来た。少しすると、夢華が隣の教室から遊びに来た。


「うん、やっぱ夏休み楽しみでさー。」

ニコニコの姫菜。


「ひーちゃん、夏休み家に泊まりに来る?それとも私がひーちゃんの家に泊まりに行って良いかな?」

席に座っている姫菜を後ろから抱きしめる、所謂あすなろ抱きをしている夢華。たまに姫菜の頭頂部の匂いを嗅いでいるが、姫菜も慣れてしまっていた。


初めの頃こそストレスに感じていた夢華の依存も、慣れてしまえばどうとういうことはなかった。そして、今では少し大きめの犬が懐いて戯れてくるくらいの感覚になっていた。


そうなったのも、ポチのおかげでもあった。夢華の依存によるストレスをポチに癒してもらっていたため、姫菜な心の均衡を保つことが出来ていたのだ。夢華が姫菜に依存しているように、姫菜自身もポチに依存していたのだ。


「そうだね、また近いうちに予定立てようか。」

普段ならはぐらかすような話題であったが、機嫌が良かった姫菜はこんなことを言ってしまった。


「っ!?うん!絶対だよ!?約束だよっ!」

満面の笑みの夢華。


「……。」


「どうしたの、みさっち?」

終始無言であったみさに百合が言う。百合の目には、どこか落ち込んでいるように見えたため、少し心配になったのだ。


「うん?あ、いや、なんでもないよ、なんでもない。……うん、なんでもないよ。」

何かを誤魔化すように早口で言うみさ。


「……ふーん。」

これ以上の詮索は無用か。百合は、もしみさに何か悩みがあるのであれば、自分から言うまで待っていようと思った。



「楽しみだなー、夏休み。」

窓から見る青空に目を細め、姫菜は誰に言うでもなくそうポツリと呟いた。


夏休みどう過ごすか。夢華を自宅に泊める約束をしている時も、授業中ですら姫菜の頭の中はそのことでいっぱいだった。さらに細かく言えば、夏休みはポチとどこに行こうか、ということだった。自転車のカゴにでも入れることが出来れば少し離れた場所にある森林公園にでも行けるだろう。



そんな姫菜の楽しみも、突然消え失せてしまう。



「……どうしよう、このままじゃ、黒木姫菜壊れちゃう。」

自宅の部屋の隅で頭を抱え、しゃがみこんでいる。


「なんとかお姫に白河さんを好きになってもらわないと……。」


「早くしないと……ひーちゃん……。」



翌日、いつも通りの朝がやってきた。


「おはよう。」

姫菜は、いつも通り通学し、いつも通り皆に挨拶をする。それに対し、皆もいつも通り返事をする。


いつも通りの朝がやってきて、いつも通りの一日が過ぎていくはずだったのだ。

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