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「はぁ、疲れた……。」

姫菜は心底疲れたように猫背で下を向きながら下校していた。一時は落ち着いていた夢華のストーキングも、日に日に以前のようになりつつあった。


夢華が、今日は部活の助っ人があると言い、放課後は別々に行動していた。授業中以外は姫菜にべったりで、終いにはトイレの個室にまで入ってこようとした時には流石の姫菜も悲鳴を上げ拒絶した。その際、駆けつけたみさ、百合によって夢華は連行されて行ったが、次の放課には何事もなかったかのように姫菜にくっついていた。


頭が痛く、目が霞む。足も上がらない。そのため一歩の幅が短くなり、より多く足を動かさなくてはいけなかった。


「きょ、今日こそポチに会わないと……。」

姫菜は、ポチに会うため、寄り道をする。その間も、フラフラと身体が安定しない。息も上がり、鼻で息をしていると辛いので口で息をしだす。



やっとの思いで姫菜は、ポチのいる路地まで来た。ポチは姫菜を見ると少しづつ近づく。そして、夢華いないと分かると、ポチは姫菜の胸元に飛びついた。やっと以前の日常が戻ってきた。姫菜がそう思い、安心すると、スーッと意識が遠のいていった。


意識が遠のいていく姫菜は、アスファルトの地面に倒れた。ぼやける視線の先には慌ただしく動き回り、叫ぶような鳴き声を上げるポチの姿が見えた。



姫菜が次に目を覚ますと、木陰で涼しくなっているベンチに寝かされていた。頭の下が柔らかい。パタパタという音と少しぬるい風が姫菜の体を冷ましている。


「お、目が覚めました?」

姫菜の顔の上で声がする。


姫菜が声のする方を見ると、胸で半分ほど隠れている見知らぬ少女であることが分かった。そこまでして、姫菜が自分が今置かれている状況が分かった。


他校の制服を来た少女に膝枕をされている。


「あっ、すみません。」

姫菜が急に起き上がろうとすると、その少女の胸に顔がぶつかってしまい、再び彼女の太ももに頭を預けてしまう。


「まぁまぁ。」

明るい声で姫菜を落ち着かせると、やや乱暴に頭を撫でる。見知らぬ少女に撫でられているのに姫菜は安心することが出来た。


「おーい、姫乃、ジュース買ってきたよー。」

少し離れたところから少女を呼ぶ少女の声がする。


「待ってー、美海ちゃん。」

さらにもう一人、少女が追いかけていた。


「おぉー、桜子、美海ありがとう。今ちょうど目が覚めたからナイスタイミングだよ。」

姫乃と呼ばれた姫菜に膝枕をしている少女が言う。


「はい、飲んで下さい。」


「あ、ありがとうございます。……そ、そうだ、お金。」

姫菜は、美海からペットボトルを受け取るために姫乃の太ももに頭を乗せて寝ている状態から座る。そして、水滴のついた冷たいスポーツドリンクのペットボトルを受け取る。そして、制服の胸ポケットから黒猫の顔を模した小銭入れを取り出す。


「いいよですよー奢ります。」


「で、でも……。」


「まぁまぁ。えっと、私は月中一年の神崎姫乃って言います、よろしくです。」

姫菜に膝枕をしていた少女、姫乃が自己紹介を済ませる。


「私は夏樹美海です、よろしくお願いしますね、でも嬉しいなーこんな美人な先輩とお知り合いになれるなんてー。」


「えっと、私は春山桜子です。よろしくお願いします。」

続いて美海と桜子が自己紹介をする。


「あ、えっと朝日間中学一年の黒木姫菜……です。」


「えっ、黒木さん一年なの!?」


「ってか、中学生だったんだ……。」


「てっきり高校生の方だと思ってました……。」

三人が驚く。姫乃、美海は自分と同じ年と知るや否やすぐさまタメ口になった。


「あ、あはは……私、老けてます?」

なんとも言えない悲しい気持ちになる姫菜。


「いや、老けてるんじゃなくって大人っぽいなぁーって。」


「はい、凄く大人な女性だなって思ったんです。」

姫乃と桜子が慌てて弁解する。


「と、ところで黒木さんはもう大丈夫なの?」

姫乃が話題を変えようと慌てて言う。


「あ、もう大丈夫。ありがとう。」

姫菜はそう言うと、二つ疑問が出てきた。一つは、隣の中学校である月島中学校の学区であったはずなのになぜいたのか。そして、もう一つは、姫菜が言えたことではないが、なぜあんな人通りの少ないところにいたのか、ということだった。


「あれ?朝日間中?」

美海が呟く。


「どうしたん、美海。」


「いや、もしかしたらね。えっと、黒木さん?」


「はい。」


「そのー、白河夢華って知ってる?」


「う、うん。」

姫菜がそう言うと、美海は小さな声で、おぉ、やっぱり。と言った。


「へー、もしかして友達なんですか?」

桜子が何気なく姫菜に聞く。


「ま、まぁ一応。」

一応、と言ったのは、友達というよりストーカー気味だからだった。


以前は憧れの的であった夢華も、今は過干渉が過ぎる気がしていたのだ。身勝手かもしれないが、まだ出会ってから短い期間で、あそこまでべたべたされると疲労してしまう。


「えーっ!と、友達?……本当?」

姫乃が信じられないという顔をしている。


驚きを隠せない姫乃の顔を見て、姫菜はもしかしたらこの人も以前夢華に依存されていたのかと思った。


「お互い頑張りましょうね。」


「ん?」

姫菜の言葉に三人の声がハモる。要領を得ていない。


「何が?」

三人の代表で姫乃が尋ねる。


「いや、だからそのー……白河さんのことでしょ?」


「な、何かされてるの?」


「い、いじめ!?」


「嘘、そんなことするような幼稚な子とは思わなかったのに……。」

三人が早とちりする。


「ち、違うのっ!……その、ずっと一緒にいようとするからさ、その、たまには一人になりたいなーって……。」

姫菜の言葉。


初めは姫菜の言葉を信じなかった姫乃達であったが、倒れた理由が夢華に監視されているかもしれないと思い寝れなかったと聞かされると、まだ完全には信じていないようだが納得した。そこまで先ほどよ姫菜が衰弱していたのだ。


「そう言えば神崎さん達はどうしてその、学区外のとこにいたの?結構離れてるみたいだけど……。」


「ま、まぁね、あはははは……。」

苦笑いの姫乃。どうやら訳ありのようだ。姫菜は追求してはいけないのだなと考えた。



にゃー。

少し離れたところから、聞き覚えのある猫の鳴き声。姫菜は鳴き声のする方に振り返る。


「ポ、ポチ!」

姫菜が駆け寄る。ポチもそれに反応し、駈け出す。近づくと、ポチが姫菜の胸めがけて飛び込む。それを姫菜が受け止めた。



聞けば、姫乃達が偶然通りかかったところで挙動不審な動きをする黒猫がいたとのことだった。人をどこかへ連れて行きたいようだった。姫乃達がその黒猫について行くと、姫菜が倒れていたとのことであった。


ポチが姫乃達を呼んだのだ。


「ありがとう、ポチ。」


にゃー。


他にも様々なことを聞きたかった姫菜であったが、不思議とまたどこかで会える気がしてこの日は三人に礼を言い帰宅した。その後、帰宅時に母に叱られ涙目となったのは別の話。

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