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「あ、えっと……ゆりり、えっと、赤井さんから呼ばれてきたんだけど……。」
おどおどした様子の姫菜。事情を知らないため、頭の中がクエスチョンマークでいっぱいなのだろうと容易に想像出来た。
夢華は、思わず唾を飲み込む。脳内補完でもなんでもない。目の前の姫菜は紛れもない美少女だ。やはり、こんな美しいものは見たことがない。
「あ、ごめんなさい。その……。」
ここに来て、夢華は猪突猛進な自身の行動を後悔した。話題がない。
「も、もし良かったら、お昼一緒に食べる?」
姫菜の思いもよらぬ提案。
「い、良いのっ!?」
姫菜の提案に、目を爛々に輝かせる夢華。まさか本人からそんな誘いが来るとは思っていなかったため、嬉しさは倍増した。
「…う、うん、その、白河さんが良いなら私達は一緒に食べたいなぁ。」
夢華の勢いに、少し引いてしまった姫菜。苦笑いで言うその言葉に無言で頷く百合。百合も少し顔が引きつっていた。
「あっ、でも今日はもう食べてきちゃった……。」
「じゃあ、明日は?」
「凄く良い。是非そうしたいっ!明日から黒木さんのクラスでお昼食べる!」
「私のクラスでもあるんだけどなぁ、あはは……まぁ、楽しそうだし良いけど……。」
「白河さん、何か良いことあったの?」
鼻歌でも歌いだしそうな夢華が自分の教室に戻ると、クラスメイトの一人がそう声をかけた。
「どうして?」
クラスメイトとのコミュニケーションも大事だろう。もし姫菜が友達の少ない自分と仲良くなりたくないと思ってしまってはいけない。夢華はそんな思いから普段なら適当に返すようなものを尋ねた。
「……怒らないで聞いてくれる?」
「うん。」
嘘だ。そんなもの内容による。それは誰だってそうだろう。
「ほら、白河さんって普段あんまり表情ないって言うかさ……。」
「仏頂面?」
「うん、まぁ有り体に言えば……。」
「はぁ。」
なんだそんなことか。夢華は心底どうでも良かった。今の夢華には、姫菜の優先順位がぶっちぎりで上位で、後はそこまで気にしていなかった。
「でも今はその、凄く嬉しそうに……。」
「はぁ。」
「に、ニヤニヤしてたから……。」
「ニヤニヤ……。」
夢華は少しへこんでしまった。
夢華自身、ニヤニヤなどしているつもりはなかったのだ。もしそんなところを姫菜に見られてしまってしたら失望されていただろう。いや、実はもうすでに見られているかもしれない。天使のように美しい彼女のことだ、きっと見て見ぬ振りをしてくれているのだろう。誰だって人がニヤニヤと笑っていたら不快に思うだろう。自分もそうだ。いや、でももし姫菜が自分の目の前でニヤニヤと笑っていたらどうだろうか。
「……うん、悪くない。いや、むしろ良い。」
僅か一秒足らずの脳内会議を終え、夢華が呟いた。
「え?」
「あ、いや、なんでもない。」
「でも私はそんなところも白河さんの魅力だと思うの。」
「え?」
夢華の、さらに深く聞くためのものではなく、自身の耳を疑ったこの一言、もとい一文字が地雷であった。
「だっていつもは勉強も出来て運動も男子よりも活躍してて、クールで格好良くて、それでいて綺麗で高嶺の花なのよ?でもそれが今みたいにたまにニヤニヤしているのも不敵でミステリアスでとっても素敵だと思うの。あ、でもでもいつものやる気のない気だるそうな返答も好きなのよ?ダルデレっていうやつ?あれ、違うかな?まぁいいや、そんな些細なこと。白河さんみたいな美少女がやるから意味あるんだよね、言わばユメデレってやつだね。可愛いよ、ユメデレ。本当は私だけにデレてほしいけど私なんかがユメデレを独占したらおこがましいよね。ごめんね。でも誰だって普段あんなクールな美少女が腑抜けてニヤニヤしたした顔見たら独占したくなっちゃうよ、仕方ないことだよね?それからそれから……。」
一気に話す。
しまった、長くなる。夢華は、髪を乱しながら一心不乱で夢華自身のことを褒めていたクラスメイトの元を離れた。もう彼女とは仲良くしない方が良いかもしれない。
そんなことより嬉しいことが起きたのだ。夢華はその事実を噛み締めていた。
「早く明日にならないかな……。」
誰に言うでもなく、夢華は窓から空を眺めて呟いた。
ちなみに、この日も、何も知らない姫菜の後ろを歩く夢華の姿を、多数の生徒が目撃していた。そのことは、たちまち噂になり、当の本人である姫菜以外の大半が知ることととなっていた。




