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何かを知るためには、まずそれをじっくり観察しなければならない。何が好きで、何が嫌いなのか、それを知れば自ずと友好な人間関係を築くことが出来る。夢華の脳内ではそう結論づけられた。


「よしっ。」

給食を早めに終えると、夢華は早々に教室を出た。



夢華の目の前には姫菜の教室。夢華は、廊下から姫菜を観察することとしたのだった。


姫菜はどこだろうか。教室内を見渡していると、すぐに見つけることが出来た。相変わらず女子の友人二人と楽しそうにしている。とても良い笑顔だ。もし自分にそんな笑顔を向けてくれたら、そう考えると、夢華の口元は緩み、ジュルリと口から情けなく出た涎を吸い取る。


少しすると、姫菜の教室内が騒がしくなった。元から自由に談笑していた昼時であったが、少し様子が違った。何事かと、夢華が周りを見ていると、皆が夢華を見ていることに気づいた。何か言ってくるでもないし、気にしなくても良いかと思っていると、今度は姫菜達と目が合った。


「っ!?」

少し困っている様子の姫菜。そんな彼女ですら可愛らしく、かつ、美しかった。夢華は、目が合った直後、ドキッと心臓が跳ね上がるのを感じ取れた。


姫菜から目が離せず、ただただ廊下で教室内の姫菜を見ていることしか出来なかった。


結局、この日は姫菜を見つめているだけしか出来なかった。観察するという点では成功だが、それで何か分かった訳ではなかった。ただ姫菜の美しさを遠くから再認識しただけとなった。



翌日から、夢華には二つの習慣が増えた。それは、給食を早めに済ませ、姫菜を観察するということだ。


もう一つは、この日から、下校時も観察するようになったことだった。端から見ればストーカーであるが、夢華の頭の中からは、このことは抜け落ちていた。この事実を姫菜が知ることになるのはまだ先のことだった。


その際、いくつか分かったことがある。以前、姫菜の後ろを歩いていた時に可愛がっていた猫は、ポチと姫菜からポチと呼ばれていること。姫菜の飼い猫ではなく、近所の猫だということ。そして、ほぼ毎日姫菜はその猫な会いに行っているということが分かった。



今日も姫菜は友人二人と給食を食べている。背は高いが、小さな顔で、美しい。彼女の白く長い指が、パンを千切って小さな口に運ぶ姿は愛らしくて仕方がない。姫菜を見る度に夢華は彼女の虜になっていく。



夢華がジッと姫菜を見つめていると、しっかりと目が合った。夢華が浮れるのもつかの間、まだ食事が終わっていないのに何やら教室内を移動し始めた。どうしたのだろうか、夢華も姫菜に合わせ、視線を右に左に移動させる。姫菜は、席に座ると、二人に何かを尋ねて、がっくりと項垂れていた。


何やら三人で話し始めた。何を話しているのだろうか。集中して聴いていると、じゃんけんやら、勝っても負けても、やら聴こえる。何か賭けでもするのだろうか。もしそうなら、姫菜に勝ってほしい。



雌雄が決した。姫菜の友人の女子生徒の一人が、夢華に近づいてくる。


「あ、あの……。」


「……なに?」


「えっと、そこで何やってるのかなぁーって思いまして……あはは。」

苦笑いする姫菜の友人。かなり困っているようで、視線を合わせようとしないし、頬をかき、口角がピクピク動く苦笑いをしている。


「何って別に……。黒木さんを見てるだけだけど……。」

当たり前でしょう、と言わんばかりのそんな夢華の物言いに黙り込んでしまう姫菜の友人の女子生徒。



「お、お姫に用があるとかではなく……?」

無言になって数秒か、それとも数分か、姫菜の友人がそう切り出した。


「……お姫?」


「いや、ごめん。黒木さんに何か用かな?」


なるほど、黒木さんはお姫と呼ばれているのか。美しい彼女には、まさに姫というニックネームはぴったりだ。夢華は姫菜のニックネームに感心していた。


「いや、そういう訳ではないけど……。」

そういえば、目の前の女子生徒の名前を知らない。もし、姫菜と仲が良いなら仲良くしておくに越したことはないだろう。あわよくば、彼女が間を取り持ってくれるかもしれない。打算的な思考が夢華の脳内に浮かんだ。



「あ、あの私は、白河夢華です。」

少し緊張する夢華。キョトンとする目の前の女子生徒。


「……あっ、えっと私は赤井百合です。」

よく分からないという様子であったが、取り敢えず名乗ったのであろう

百合であった。


「そう、よろしくね、赤井さん。」

なるべく好感を持って貰えるよう笑顔を見せる夢華。


まずは好スタート。夢華は確かな自信を持っていた。


「……えっと、お姫と話す?」

百合のまさかの提案。今戻ってしまっては、結局夢華がどうして姫菜を監視のようなものをしているのかが分からないままだ。かと言ってこれ以上、目の前のクールビューティガールと話すのは自分には荷が重い。話すことに欠いて姫菜に丸投げしてしまおう考えていたのだった。


「そ、そそそそそそれ良いのっ!?」

その提案に動揺を隠せない夢華。


「出来なくはないけどお願いが……。」

そう言う百合の顔は、ニヤリと笑っていた。何かを企んでいるのが丸分かりな顔をしている。


「何?」



「うん、分かった。だから早く黒木さんと話させて。」

百合の企みは、大したことではなかった。新聞部の取材を受けてほしい。ただそれだけであった。念のため、姫菜の時のような偽りの記事を掲載したらただじゃおかないと言うと、百合は小さく、白河さんにも筒抜けだったか。と、苦笑いで了承した。


「じゃ、呼んでくるね。」

浮れる夢華を廊下に置き去りにし、百合は奥に引っ込む。夢華を連れて行くという選択肢はなかったのだろうか。



連れてこられた姫菜は、何が何だか分からないという様子であった。遠くから見る姫菜ももちろん美しいが、近くで見る姫菜はさらに美しく、それと同時に、モデルのような高い身長から小動物のようなおどおどした態度は愛らしかった。もし、日本の法律に、姫菜を自宅へ連れ帰り、飼うことが違法ではないと決められていたなら夢華は迷わず姫菜を今すぐに自宅へ連れて帰ったことだろう。

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