浩のこと
浩はあれほど「アミちゃん、アミちゃん」なんて言っているくせに、圭祐に構うアミに気も止めていない。
本当は、あんたどうでもいいんじゃないの? と聞きたくなる。
多分、浩の中では可愛い子をちやほやして楽しんでいるだけなのだろう。
本気で誰かと付き合ったりしたいと思っているとは到底思えなかった。
その浩は絶賛、桐華に構い中だ。
「宮ちゃん! 一緒に何か歌う?」
「う~ん、浩は何がいい?」
「宮ちゃんと一緒なら何でもいいよ!」
肩を寄せてくる浩。
けれど全然下心が伝わらない。
きっとこうしてくっついているのも楽しんでいるだけだ。
(……浩ってつくづく分からないな……)
ジュースに手を伸ばすとすかさず浩が取ってくれる。
「はい、どうぞ」
あんたはホストか、と言うほどに気配り。
それをじっと見ている視線に気がつきながら桐華は無視して浩と曲を決めた。
「ねえねえ、宮ちゃんと神森は同中だったんだろ?」
急に浩から聞かれて「そうだけど?」とぶっきらぼうに返事する。
「仲良くなかったの?」
「ん? 普通だよ。二年の時は同じクラスだったけど」
「そうなんだ。でも、今は全然しゃべらないよね?」
下からうかがうように覗き込んでくる浩は、どこか幼く見える。
浩の聞きたいことも言いたいことも意図が分からずに、桐華は思ったことをそのままに告げる。
「そんなことないけど……でも別に同中だからって誰とでも仲良くするわけじゃないでしょ? 浩だって渚君以外はそんなに絡んでないじゃん」
「あ、そうだね。特に女子なんて、どっちかと言うと絡んでくれないよね、俺に」
あはは、と笑う浩。
それから桐華にまたペタリと体を寄せて「早く宮ちゃんと一緒に歌いたいなぁ」なんて、本当に思っているのかどうか分からない軽い口調でポッキーに手を伸ばしていた。
腕を密着させているくせに、手はお菓子を握っている。
全然、興味なさそう。
なんで浩は、こうやって女の子に構うんだろう。
分からないけれど、それが浩なんだろうな、と桐華もポッキーに手を伸ばす。
「あ、宮ちゃんも食べる? じゃあ浩の咥える反対側から食べてきて!」
ポッキーの持ち手の方を咥えて差し出す浩。
期待なんかしてないくせに。
笑って「バカ浩!」って言われることを待ってるクセに。
それが分かったから、桐華は浩の両肩に手を乗せると、顔を傾けてポッキーのチョコのかかった先を口に含んだ。
途端にパキンと浩がポッキーをかみ砕いた。
「あれ? いいの、浩」
チョコレートの部分だけになったポッキーをポリポリと口の中へ押し込みながら笑って浩に尋ねると、びっくりしたネコの様な目になりながら浩はしばらく桐華を見つめて、それから我に返ったようだ。
「わ、わあ! もったいないことしちゃった! びっくりして噛んじゃった!」
わざとらしいほど大きな声。
歌っている美羽が「浩、うるさい!」とマイクで注意。
「ごめん! 美羽ちゃん! そして宮ちゃん、もう一回お願い!」
ポッキーを差し出してくる浩に、桐華は笑う。
「もうポッキーいらない。喉が乾くもん。また今度ね」
ええ~、なんて残念がる浩。
ちっとも本気じゃない。
もう、これぐらいでいいんじゃない?
ね、浩。