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「わーい! 楽しみだぁ!」

 子供のようにはしゃぐ浩の肘が斜め後ろの席にあるペンケースにぶつかって中身が散らばった。

「あ、わりい! ゴメン、ゴメン」

 浩が慌てて散らばったペンを拾い集める。

 桐華も足元に転がってきた消しゴムを拾う。


 斜め後ろの席に座る男子生徒。


 三好みよしと言うその生徒は、ひどく地味で話したこともない。

 真っ黒の染めもしない髪の前髪は目を覆うほど長くて、黒縁眼鏡と相まって正直、顔の印象はない。

 気に掛けたこともないし声を掛けたこともなく、この半年ほど、一つも接触は無かった。


「はい、消しゴム」

 ポンと机に乗せた桐華に三好は少し驚いたようにお礼を言う。

「あ……ごめん、ありがとう」

 地味で目立たないけれど、意外とその声は柔らかかった。


 パン、と弾けたように浩が廊下へと駆け出して大きな声を上げる。

なぎさ! みっけ!」

「ああ、ひろ

 廊下を歩いていた男子がニコッと浩に笑いかける。


 浅原渚あさはら なぎさは有名人だ。


 驚くほど整った顔と誰にでも丁寧に接する態度、そして愛想の良さで無数の女子生徒の憧れの的。

 けれど本人は自覚ナシ。

 あまりにも有名すぎて何となく誰も告白しないから、本人は全然もてないと思っているそうだ。


「なあなあ、渚も一緒にカラオケ行こう! あ、神森も!」

 渚と一緒にいた神森圭祐かみもり けいすけがギュッと眼鏡の奥で眉根を寄せた。

 ベタベタと渚に抱きつく浩をさも見下したような目で見てから、呆れたように言った。

「どうせおまえはアミが目当てなんだろう?」

「あ~、分かったぁ? へへへ」

 脳天気に笑う浩の腕を渚がポンポンと叩く。

「浩は相変わらずだよね。アミちゃんは圭祐の彼女なのに、それでも呼んで欲しいの?」

「もっちろん!」

 まだ渚の背中に抱きついたままで浩は屈託なく笑う。

「可愛い女の子は見てるだけでシアワセ! だからアミちゃんも誘って! お願い、神森」

 呆れる圭祐と苦笑する渚。

 はあ、とわざとらしい溜息を吐きだしてから圭祐は「聞いてみる」とだけぶっきらぼうに告げた。


***  


 カラオケの入っているビルの前で向こうから歩いてくる三人を見つけて浩が豪快に手を振る。

「渚たち、来た来た! あ、アミちゃんも来てくれたんだ、ウエルカム! ボンジュール!」

 ようこそ~、なんて調子よくご機嫌に迎えている。


 日永アミはアニメの世界から抜け出てきたような可愛らしさがある。

 お目々ぱっちり、ツヤツヤの唇、ゆるふわカールの髪、背も小さくて声も可愛い。

 男なら惹かれないヤツはいない、とまで言われていた有名人のアミ、その彼女を射止めたのは神森圭祐だった。


 圭祐とアミが付き合ったことは学校中を震撼させるほどだった。

 圭祐も決してモテないわけではないけれど、クールで眼鏡、優等生タイプの圭祐はそれほど目立つ存在ではなかっただけに、男子からは相当やっかまれたそうだ。

 桐華も圭祐がアミと付き合ったと知った時は少なからず驚いた。


 圭祐とは幼なじみ。


 親同士がかなり親しくしていたようで、中学までは桐華のことをなにくれとなく圭祐の母親は気に掛けてくれていた。

 だから圭祐のことは小さい頃から知っている。


 頭が良くてクールで無口。

 けれど頼りがいがあって足が速い。

 中学の時は陸上部で、さらに生徒会長をしていて目立っていてとてもモテていたけれど、高校に入ってからは目立つことを嫌うようになったのか、その他大勢に埋もれるように過ごしていた。


 その圭祐が学校でも有名人のアミと付き合って驚いたのだ。

 それでも並んで歩いていると圭祐とアミはお似合いだった。

 背の高い圭祐に小柄なアミが寄り添っている姿は、誰もが羨むほどの美男美女カップル。

 時折すれ違う人がチラリと振り返っている。

 見ていれば分かるが、アミが圭祐に入れあげている。

 隣に座る。世話を焼く。すぐに触れる。顔を覗き込む。

 可愛い声で「圭祐君、圭祐君」としきりに名前を呼んでいる。


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