タイクツな日々
見上げた空はまだ夏の余韻を残しているように見えるけれど、ぐっと高さがある。
夏のように暑い日があると思えば、急に夕方から寒くなったり、不安定になる気温が気持ちを表しているみたいだった。
九月最終日の空は、晴れ上がって呆れるほど青い空だった。
「宮、何を見てんの?」
ぼんやりしていると美羽が呼んだ。
「別に、外を見てただけ」
いつもクールだなんて言われるけれど、別に何のことはない。
テンションを上げるほどの事に出会わないだけ。
高校も二年目になると色々と慣れて毎日が適当に過ぎているだけ。
部活にも入っていないから何だか判で押したような毎日が過ぎていた。
宮野桐華はそんな退屈な毎日にうんざりしていた。
――どこかに行きたい……
思うだけ。
どこか遠くに行って、誰も知らない所で時間も忘れて過ごしてみたい。
光に溶ける泡になって、この世界から放たれたい。
そんなこと、思うだけ。
非日常を求めているのは毎日に退屈しているから。
それを壊すことなんて自分では出来ないのも承知していた。
「宮、あんたまた告白断ったんだってね」
こういう噂はすぐに広がる。
誰がどうやって入手しているんだろう。
棚橋美羽は桐華と違って背が小さくて可愛らしい雰囲気を持つけれど、噂好きでいつだってすぐに情報を入手してくる近所のおばさんのようだ。
「バレー部の笹川先輩だったんでしょ? カッコイイじゃん、あの人。三年にとっては残り少ない高校生活なんだから、思い出作りに付き合ってあげればいいのに」
どんだけ上から目線なの? と美羽の言葉に思わず苦笑する。
付き合ってあげれば、なんて偉そうに。
付き合うだとか、カレカノとか。
なんか、面倒だからいらない、そう言うの。
そんなことを言ってくる美羽自身は、一筋に想う人がいるくせに、気軽に付き合えなんて助言する。
「美羽、おまえなぁ。適当に付き合うなんて男に対して失礼だぞ」
「びくったぁ。弓弦、話聞いてたんだ」
ひょいと美羽の後ろから苦笑しながら話に入って来たのは竹原弓弦。
背も高くてカッコイイから、クラスでも目立つタイプだ。
一年生の間はサッカー部に所属していたけれど、足を怪我して辞めてしまった。
それでもスポーツマンらしい雰囲気は充分に女子から人気がある。
一緒にいるのは栗原浩。
浩は結構おしゃべりで調子乗りでうるさいヤツ。弓弦も明るいけれど、浩の方は騒がしいと言うのが似合う。
二人はウマが合うようでいつでも一緒につるんでいる。
「なあに、栗竹コンビ、またつるんでるんだ」
からかう美羽に浩が笑った。
「宮ちゃんはキレイだもんね! なあ弓弦だってそう思うだろ?」
笑って茶化すような言い方をする浩に弓弦は眉を寄せた。
「おめーは誰にでもそう言うだろが」
「だってぇ、俺、年中無休で彼女募集中! 宮ちゃん、俺とはどう? どう?」
「浩うるさいもん。要らないって」
美羽が先に返事をする。
ひっどい! と笑う浩は、本当に彼女が欲しいのだろうか。
顔は悪くないけれど、少し背の低い浩。
いつだってテンションが高くてクラスのムードメーカー。
そんなにもてないとも思えないけれど、誰かに彼女が出来たとか聞くと、いつも羨ましがる。
「みんな彼女ってどうやって作ってんの? 粘土? 金属? 木彫り?」
なんて本気で聞いているお調子者のバカだ。
「なあ、今日は遊びに行かね? カラオケ」
弓弦が誘うと、すぐさま美羽と浩が手を上げた。
「行く行く! 宮も行くよ!」
美羽が勝手に返事をする。
別に用事もないし、まあいいかと桐華も同意した。