24-5 ダスタン
椅子に座ったまま、いつものようにガツガツと机の脚を蹴る。
何が、“お父様の言うとおりにするのよ”だ。クソが。
ぶすっとした面持ちで、椅子の背もたれに体重を預ける。
確かに、本妻のババアに虐められていた母と僕、そして弟を第二壁内の本邸からこの別邸に移してくれたのには感謝しているが、そもそもあのクソ親父がメイドだった母に手を出さなければ、こんなことにはならなかったのだ。
“この屋敷を追われたくなかったら”だって?妾になってしまった母は、親父の領地に帰りたがっていたはずだ。本妻のババアだってそれを望んでいたのに、幼い末の弟を使ってそれを引き止めたのは親父じゃないか。
それに、この屋敷に実際に住んでいる母や僕に断りもなく汚らしい獣人を部屋にまで上げるなんて。この屋敷に住んでいる者として、その獣人がどういう奴か確認する権利はあるはずだ。
「クソッ」
思い出してまたイライラする。
物心ついた辺りから、メイドが“あの男は、女に見境がない”と言っているのを聞いていたが、子供ながらに、全くもってその通りだと思っていた。聞けば領地にも妾とその子供を何人も養っているらしい。
本妻のババアがイライラしっぱなしになるのも頷ける話だ。怒りの矛先が妾やその子供に行くのは、表立ってあのクソ親父に盾突けないからだろう。結局全ては親父のせいなのだ。
そのクソ親父は、なぜか最近ずっと王都に居座っている。領主である親父に代わって今現在領地を治めているのは、本妻の長女と第二夫人の長男だ。その2人はかなり優秀らしく、卒業するのが難しいことで有名な隣国ティリエーシカの学院をストレート卒業したと風のうわさで聞いた。まあ、会ったこともないので本当かどうかは定かではないが。
領主代理は本妻の長女、ということになっているらしいが、実際に領地を経営をしているのがどっちなのかは分からないな、とも思っている。そもそも、あのババアとクソ親父の間の子供なのだ。いかに頭が良かろうが、あれらの間で育てられた子供の性格が良いわけがない。
――それにしても遅いな。
人差し指の爪を噛みながら、部屋の扉に目をやる。
待っているのは、商人の男だ。
表向き親父の商人となっているギッシュは、元はと言えば僕が懇意にしている商人だった。
ギッシュは、どこにでも居るようなただの商人だ。しかし、取り扱っている商品の中には胡散臭い品がいくつかあり、それが僕の目を引いたのだった。
僕から情報を得たギッシュが親父に取り入って、親父と取引のできる商人になるのは簡単だった。まあ、何人いるかもわからない妾の息子である僕とは違って、親父はお抱え商人を何人も持っているわけで、そのうちの一人になったというだけの話なのだが。
そのギッシュは、親父が連れてきた奴隷と面識があるらしく、あの獣人の方の奴隷について、親父が雇った傭兵とギッシュが話していた、と、屋敷のメイドが教えてくれたのだった。
早速ギッシュを呼びたしたのだが、いつもはすぐ来るというのに今日はやたらと遅い。
机の引き出しから、ギッシュから買った“干し花”を取り出して、嗅ぐ。心が安らぐような香りで、僕はこれを気に入っていた。しかし、これは偽物だ。
ギッシュに聞いて、本物の干し花をメイドに買いに行かせたが、タイミングが悪かったのか手に入れることはできなかった。ギッシュが言うに、本物は偽物とは一線を画す品質らしい。
干し花の、カサカサという乾いた音を聞きながら目を閉じていると、ようやく扉をノックする音が聞こえた。
しかし、入ってきたのはギッシュではなかった。




