24-1 リネッタと人攫いさん 2
「でさ、ちょっと聞きたかったんだけど……。」
どこかへ連れて行かれる最中、人攫いさんはそう会話を切り出した。
「干し花ってさ、製法を秘密にしてるみたいだけど、もしかして、あれもお友達がつくってたんじゃないの?」
「え?」
なぜ今、干し花の話が出てくるのだろうか。
「君はさ、魔素クリスタルもそうだったけど、干し花のほうも売り子をしてただけで、本当は、お友達が魔法陣で作ってたんだろ?」
「そ、それは……。」
私は思わず言葉を失ってしまった。
干し花を魔法陣で作る?
そ、それは――それはとてもいい案だと思います!!!
私は目からウロコが落ちていく気分で、人攫いさんを見上げた。
なるほど安息の魔法を魔法陣にすれば、私でなくても干し花を作ることができる。
ロマリアはもちろん、魔術師の才能がある子どもはみんなだ。そう、いつだったか実験した時に、魔素を吸収しなかったあの幼い男の子とかだって、充分な戦力になる。なんたって、魔素クリスタルを割るだけでいいのだから。
それに、私が一から作る魔法陣なら、6級の魔素クリスタルでも充分に発動できる自信がある。森に狩りに入るヨルモやその他の年長組に草花を取ってこさせて、ロマリアに6級を山程作ってもらえば、元手もかからない。
元居た世界であれほど魔法アイテムをつくっていながら、なぜ今までそれを思いつかなかったのだろうか。あの孤児院の地下には使いみちが分からない魔法陣が山とあるのだから、その中からひっぱり出したとか、もっともらしい事を言えば出処を疑われることもないだろう。
……ん?そういえば以前、干し花の製法を教えろと迫ってきた商人が居たような?
人攫いさんは、私が黙ったままになったのを肯定と捉えたのか、隣を歩きながら満足そうにうんうんと頷いていた。
人攫いさんのアイディアは素晴らしい。素晴らしいが、この話はまだロマリアにすべきではない。
話すのは、私が安息の魔法の魔法陣を作ってからだ。ここは否定しておかなければ。
「確かに干し花は魔法陣で作っていたけれど、作っていたのはロマリアではないわ。魔素クリスタルの生成は、片手間に何かできるほど楽ではないの。ずっと集中しながら魔素を扱わなければならないから、魔素クリスタルの生成中に集中が途切れると、失敗して中途半端なものができてしまうのよ。」
ロマリアのフォローも忘れてはならない。
「大人はどうか知らないけれど、ロマリアは、風邪をひいたり、すごく落ち込んでいるときは魔素クリスタルの生成を失敗していたわ。」
「そうなのか?」
「そうなのよ。だから、5級の魔素クリスタルならまだしも、攫われたその場で3級の魔素クリスタルを生成なんて、ロマリアにはできないんじゃないかしら。もうちょっと時間をおいて、落ち着いてからじゃないと。なぜ3級の魔素クリスタルが必要なのかはわからないけれど、急がば回れっていう言葉もあるくらいだし。」
「……君と話していると、あの子と君、どっちが年上なんだかわからなくなるな。」
人攫いさんは苦笑して肩をすくめて見せた。
「まあいい。君の役目は、お友達がきちんと魔素クリスタルを生成できるようにすることだ。お友達がもしこの先も、中途半端な魔素クリスタルしか生成出来ない場合……まあ、奴隷として他国に売られることになるだろう。君もね。
あとは、干し花を誰が作っているかも言ってもらわないといけないかな。魔法陣を覚えているのなら、それでもいいと思うぞ、たぶん。まあ、覚えてないとは思うが。」
「そうね、両方、善処するわ。」
「善処て……。」
私の言葉に、なぜか人攫いさんは大きなため息をついてしまった。




