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隣世界のリネッタ  作者: 入蔵蔵人
孤児院のリネッタ
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24-1 リネッタと人攫いさん 1

 ――どうやら私も攫われることになったらしい。


 今、私は、人攫いさんに連れられて、第三壁の大通りを歩いている。

 走り鼠(ルーフラット)を使ってヨルモを誘導した次の日、私はしっかり眠ってすっきり起きて、あまり食欲のない周りの子供達に混じって朝食を全部食べ、影が薄くなるマントの魔法陣を発動して孤児院から出た。


 昨日から孤児院の年少組は外出が禁止されていたが、その中には、私の名前もあったのだ。私も、本当はロマリアの部屋にこもって召喚獣を操っていたかったのだが、食料……というか、あのスーッとする独特の風味の(ミントっぽい)干した果物が意外に気に入って、パクパク食べていたらあっという間になくなってしまったのだ。そのついでに、未だに夕食がないのでパンや干し肉も買おうと思っていた。

 昨日、警備兵はいつまでたってもロマリアの救出に向かわず私の思惑は外れてしまったが、さすがに今日のうちにロマリアは救出されるだろう。ロマリアが救出されたのなら、私の外出もきっとおおめにみてくれるはずだ。夕食もないのだし。


 食堂にいたヨルモは夜通し起きていたようで、目にくまが出来ていたが、あれで警備兵の案内なんてできるのだろうか?


 大通りに出た所で、私は影が薄くなるマントを外した。マントを羽織っていると屋台の店主に泥棒ではないかと怪しまれるのだ。マントはくるくるとたたんで、鞄に詰める。

 第三壁内の大通りを北門へとのんびり歩きながら、ロマリアの周辺を監視させている(ラット)(オウル)とリンクしていたが、特に動きは見られなかった。

 はやく警備兵が動いてくれないかないかなあ、と考えていると、「やあ。リネッタちゃんだね?」と路地の方から声をかけられた。


「……。私に何か用?」


 見れば、短い茶髪で、薄っぺらい笑みの若い男だ。軽鎧を着こみ、腰には剣を下げている。どうみても、スラムの小屋で攫われたロマリアと話していた男だ。何の用だろうか。私は路地に近づかないように、一歩後ずさった。


「今、一人かい?」

「ええ。」

「そっか。実はね、お友達に(・・・・)リネッタちゃんを呼んできてほしいって言われたんだよ。」

「……。」

「一緒に来てくれるね?」

「嫌よ。」


 私は頭を振って応えた。


「困ったなあ。大切なお友達が泣いちゃうよ。」

「じゃあ大人の人を呼ぶわ。おじさんは人攫いさんでしょう?」

「お、おじ、さん……。」


 人攫いさんは変なところに引っかかって一瞬たじろいだが、すぐに首を横に振って苦笑した。


「だめだめ、それはだめなんだよ。もし、今すぐに君が一緒に来てくれなかったら、君のせいでお友達はすごく泣く事になるよ。いいの?」


 この男、私がここで叫んだらどうするつもりなのだろうか。切り捨てるとか?いや、さすがにないか。しかし、ここは大通りである。さすがに屋台通りほど人は多くないが、何かが起これば人の目は私とこの人攫いさんに集中するだろう。

 人攫いさんは、脅せば私が簡単に付いてくると思っているのかもしれないが、私は見た目幼いが中身はもう大人なのだ。いや、大人でなくても、さすがにこれでは他の子供でもついて行かないんじゃないだろうか。


 それとも、獣人(ビスタ)の私が叫んでも誰も助けてくれないとでも思っているのだろうか。ここはロマリアが攫われたスラムではないし、獣人(ビスタ)だって歩いている。叫べば誰かしらが警備兵に通報してくれるはずだ。


「ここで私がついて行けば、私をダシにして他の子も攫うでしょう?それは困るのよ。」

「ダシ?……見た目の割に難しい事を言うね。」


 ボリボリと頭をかいて人攫いさんは肩をすくめてみせた。そうしてかなり声量を抑えて、言葉を続ける。


「お友達は、奴隷として売る為についてきてもらったわけじゃないんだ。もちろん、乱暴するためでもない。ちょっとお願いしたいことがあってね?でも、ちょっと頑固でね、なかなかお願いを聞いてくれないんだよ。

 ……ホラ、君がスラムで売っていたキレイな石。あれ作ってたのってお友達でしょ?でも、なんでか、今は中途半端なのしか作ってくれないんだよね。でも、()である君が頼んでくれたら、あの子だってお願いを聞いて、ちゃんとしたのを作ってくれると思うんだ。

 だから、用があるのはあの子と君だけで、他の子に手を出したりはしないよ。絶対。」

「あー。」


 聞きたくなかったけど、やっぱりそういうことですよねー……!一昨日ロマリアを見つけたときにうすうす感づいてしまったけど、あえて気づかないようにしていたのに。

 私はその場で全力で盛大なため息を吐きたくなるのをぐっとこらえて、「えーと。」とだけ呟いた。


「来てくれるよね?来てくれないと、君も困るよね?あのキレイな石が作れないと、お友達がどうなるか、分かるよね?」


 あの魔素クリスタルを作っていたのがロマリアではないと言えば、ロマリアは殺されることはなくてもどこかに売られてしまうかもしれない。

 私に選択の余地はないようだ。残念ながら。


「そういうことならついて行くわ。でも、ちゃんと案内してね。」

「分かってくれてよかった。逃げちゃったらどうしようかと思ったよ。」


 傭兵風の男はわざとらしく「よかったよかった。」と言って。「じゃあこれを着て。」と、ロングコートを差し出してきた。

 説明を聞くに、どうやら私がいつも被っている影が薄くなるマントを強力にしたものらしい。これはほぼ姿が認識できなくなるもので、しかもかなり高価なのだそうだ。……欲しい。すごく欲しい。そしてコートの中身を引きずり出して観察したい。


 まあそれはさておき、道中襲われないように防御壁の魔法(プロテクトシールド)を円柱状に発動させてから付いて行く事にしよう。手をつなげとは言われないようだし。

 しかし、男はスラムと反対方向に歩きはじめた。どこへ行こうというのだろうか。


「ねえ、スラムには行かないの?」

「え?あ、ああ。」

「どうして?ロマリアはスラムで攫われたと聞いたわ。」

「ああ、なるほどね。……君のお友達は、確かに今、スラムにいるけど、君を別の場所に連れて行った後すぐに、その子も同じ場所に連れて行くから安心していいよ。今から行くところは、スラムよりも……いや、君らが住んでる孤児院よりも遥かに過ごしやすい場所だからね。」

「……。」


 ロマリアの監禁場所を変える?スラムにはいられなくなった、ということだろうか。

 ヨルモが警備兵に報告したことがバレた、とか……?一体どこから?

 警備兵はまだ動かない。ロマリアの監禁場所が変わったあとに、ヨルモが警備兵を案内したとしたら……ちょっとまずいことになるかもしれない。


 ――まあ、そこらへんはおいおい考えればいいだろう。この人攫いさんが言うに、私とロマリアを引き合わせてくれるようだし、目先の問題としては、ロマリアにはあの魔素クリスタルのことをなんと説明するか、である。

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