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隣世界のリネッタ  作者: 入蔵蔵人
孤児院のリネッタ
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22-2 傭兵とロマリア

 少女を(さら)った次の日。

 俺は朝から少女を監禁している部屋にいた。


「それは、魔素クリスタルを、作れってこと……です、か……?」


 床に直接座り込んだ目の前の少女は、とぎれとぎれにそう言いながら、俺の持つ魔法陣が縫い付けられた布切れを見た。

 昨日は一晩中泣いていた、と、扉の前で監視につけていた男が言っていた。少女の目は赤く、まぶたは腫れぼったく、昨日見たあどけない笑顔とはかなり様相が違う。


 一瞬、悪いことをしている気分――まあ、悪いことをしているのだが――になるが、これも仕事だ。少女には申し訳ないが、俺も金を受け取ったのだからそれ相応の仕事をしなければならない。


「そうだ、いつもどおり、魔素クリスタルを作ればいい。」


 俺は感情を見せないようできるだけ平然を装って低い声でそう言うと、ぺし、と布切れ(魔法陣)を少女に投げ渡し、部屋の端に置いておいた麻袋を指差す。


「魔素クリスタルの核が何かわからなかったからな、その袋に入っている石の中で好きなものを使え。」


 その言葉に、ちらりと麻袋を横目で見た少女が次に口にしたのは、全く関係のない話だった。


「ほ、他の子も……攫うん、ですか?他の子は、魔素クリスタルの生成なんてできません……」

「お前が生成するあの魔素クリスタルが手に入れば問題ない。」


 その言葉に、明らかにほっとする少女。

 あの特別な魔素クリスタルを、そうホイホイ生成できる(ヒュマ)がいるわけがないだろう。俺は内心で失笑しながら肩をすくめた。


「1日に何個必要、ですか?」

「1日に何個も作れるものなのか?」


 俺の言葉に、少女に浮かぶ困惑の表情。

 4級の魔素クリスタルでさえ、生成するのに1日~2日かかると聞いている。3級なら、その倍は掛かるんじゃないだろうか。


「あ、は、はい。1時間に3個ずつ。今までは、休憩を挟みながら、1日に5時間生成できていたので、1日に10個は作れます。」

「それは5級の話だろう。」

「……え?」


 どうやら、この期に及んでアレを隠し通すつもり、なのだろうか。……他の子供は攫わないと言ったからか?


「お前が3級の魔素クリスタルを生成出来ることはもう知っている。」

「さ、3級!?私、4級だってまだ……!?」

「うるさい。」


 悲鳴混じりに狼狽(うろた)える少女の言葉を、強い口調で(さえぎ)る。


「今さら嘘をついても無駄だ、と言っているのがわからないか?――まあ」


 可哀想だが、ここは一発ガツンと脅しておいてやるか。


「本当にあの3級の魔素クリスタルが生成出来ないとしたら、お前には何の価値もないってことになるな。しょうがないから、もうちょっと金になりそうな他のガキを攫う口実にでも使って、最後はみんな仲良く他国で奴隷になってもらおうか。」

「ど……どれ、い……」


 少し酷いとは思うが、ここで頑なになられても困るのだ。この少女は、あの3級の魔素クリスタルを生成する以外に、生き残る道など残されていないのだから。

 少女はというと、顔を真っ青にして口を閉ざしてしまった。


「また来る。変な気は起こすなよ?誰も助けには来ない。逃げれば、お前の代わりに別のガキを攫う。……そうだな、魔術師協会に顔を出している肉付きのいいあのガキとかは、高く売れそうだな?」


 追い打ちをかけるだけかけて、俺はさっさと部屋から出た。

 そして、部屋の出入り口を監視させている男に「絶対に手を出すなよ。」と釘を刺しておくことを忘れない。ここで少女をダメにしてしまえば、叱責(しっせき)を受けるのは間違いなく俺である。


 だが、まあ、なんとかなりそうだな。


 少女と話をしてみて、俺はなんとなくそう思った。あの娘は、どう見ても嘘はつけないタイプだ。孤児院の他の子供たちの話を出しただけであの顔なのだ。


 ただ、ひどく頑固そうでもあった。最悪もう一人、売り子をしていた獣人(ビスタ)くらいは攫うことになるかもしれないが、まあ、その獣人(ビスタ)は10才前後で、娘とも呼べないお子様である。

 痩せこけた少女が1人増えようが、それであの魔素クリスタルが手に入るなら問題ないだろう。


 ひとつ問題があるとすれば、生成師の少女は最終的には壁内の別邸に移すらしいが、その際獣人(ビスタ)の方をどうするか、くらいか。


 あの貴族が獣人(ビスタ)を敷地内に入れる、とは、考えにくい。目にするだけでも嫌悪するかもしれない。その場合、スラムのあの掘っ立て小屋に監禁し続けることになるが、ずっと監禁しているわけにもいかない。国の手が入る前には王都から持ちだすか、最悪処分しなければならなくなるたろう。


 子供を自分で手にかけるのは、なんとも気が進まない話であった。

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