18-1 干し花で一悶着 3
「で、お前はどうするんだ?製法を売るつもりはあるのか?」
「製造方法をお教えしても、再現は難しいと思います。」
私は即答する。作れないものを教えて、詐欺だなんだと言われるのも面倒くさい。
「なんだとっ!……あ、いや……そ、そうか。それならしょうがないな。」
商人らしい男は一瞬声を荒げたが、すぐに真っ青になって訂正する。この偉そうな獣人は、本当に偉いようだ。いや、普通に見た目が怖いだけなのかもしれないが。……実は暴力的で、気に入らないと手を出すとかかもしれない。
「じゃあ話はこれで終わりだな。もうこいつに用はないな?」
「……はい。」
商人の男は何か言いたげな風ではあったが、諦めたようにがっくりと肩を落としてすごすごと去っていく。次からはこういう輩にも気をつけなくてはならないようだ。声をかけられても、むやみに近づかないようにしよう。うん。
なんだか疲れてしまったので、南西門見物は後日にして、今日はもうお休みにしよう。孤児院の地下に帰ろう。さっさとこのギルフォード様とかいう獣人にお礼を言って……と思っていたら、なぜか私の頭の上に、ぽふんと大きな手が載せられた。
「お前は居残りだ。」
「重いです。」
と言いながら頭の上の手をどかしてその顔を見上げると、ギルフォードはどこかむっすりした顔でこちらを見下ろしていた。そして、盛大なため息を付いてから口を開く。
「ここ最近ずーっっっっとお前のことを探してたんだぞ!ここらをウロウロしてるという噂は聞くわりに、なっかなか見つからないと思ったら、耳を隠していたとはな。見つからないはずだ。」
ギルフォードはしゃがんで私の顔を覗き込んだ。
「干し花を売っている時以外は、フードを被るようにしていますので。」
私が答えると、ギルフォードは「賢明だな。」と頷いた。
それから、気を取り直したかのように、「干し花を売ってくれ。」と言われたのだが、残念ながら今日のぶんはもう無いのである。
「売り切れました。」
「なん、だと……」
私が即答すると、ギルフォードはしゃがんだままふらりと後ろに尻もちをつきそうになったが、「おっとと。」と言いつつなんとかバランスを取って立ち上がった。
「さきほどの商人?の人も言っていた通り、販売する数は1回につき30本前後なので、すぐに売り切れてしまうんです。」
「そうだったのか。んじゃあ次はいつ売りに来るんだ?」
「6日か7日後です。」
「うーむ……。」
ギルフォードは困ったような顔になった。この大柄な獣人、偉そうな姿に似合わず結構表情が豊かだ。顔ほど怖い獣人ではないのかもしれない。
「干し花は作るのにそんなに時間がかかるのか?」
「いえ、森に摘みに行って、あとは干すだけですので、早ければ2日くらいで出来ますよ。」
そう言うと、ギルフォードは、ん?と首を傾げたが、フン、と鼻から息を吐いて一人で納得すると、口を開いた。
「じゃあ別口で注文させてくれ。最低10束は欲しいが、それ以上あってもいいぞ。明後日はどうだ?」
「たくさん買っていただけるのはありがたいのですが、効果は買っていただいてから1日くらいしか保ちません。」
「ああ、いいんだよ、俺は買ってこいって頼まれただけだからな。」
この偉そうな獣人に買い物を頼むなんて、どれだけ偉い人が干し花を欲しがっているんだろうか、ちょっと気にはなるが、聞く勇気はないので私は黙って頷いた。
「じゃあ、明後日、南西門の第三壁側で――そうだな、昼の鐘前後はどうだ?」
「わかりました。明後日のお昼に、10束ですね。売り歩くわけではないので、フードを被って待っています。」
「おう。俺の名前はギルフォードだ。見たとおり、騎士をやってる。たまにこの辺も見まわってっから、見かけたら声かけてくれよ。」
見たとおりの、騎士?
獣人で騎士なんているのか、と、私は素直に驚いた。ニコニコしながら手を降って去っていく姿には騎士の威厳なんて全く感じられないが、いや、しかし偉そうなマント付きの装備といい、紋章といい、確かに騎士っぽい。
紋章に狼が入っているのは、もしかしたら獣人の騎士だからなのかもしれない。第三壁内で彼以外の騎士を見たことがないので、想像でしかないのだが。
獣人差別があるといっても、こうやって国が獣人を受け入れていれば、あからさまな差別はかなり減るだろう。
さて、明日は森に花を摘みに行かなければならない。ついでに、薬草が生えている周辺に掘って発動しておいた防御壁の魔法陣の様子も見に行こう。あと、気になる魔法陣があったので、それもちょっと試してみたい。
私はマントの魔法陣を発動させると、今度は誰にも声をかけられないように、こっそりと孤児院への道を歩き始めた。




