18-1 干し花で一悶着 1
6日ぶりに、私は王都に干し花を売りに出ていた。
薬草を摘むついでに適当な花を摘んでいたのでいつでも売りに出れたのだが、あまりにも地下の魔法陣が多すぎて、気づけば6日も経過していた。
前回干し花を売りに来た時は、あの3人娘とパン屋の看板娘が宣伝してくれていたのか、30束持って行った干し花のうち20束が売れたので、お礼にその4人には2束ずつ干し花をおまけに渡して、ほぼ完売した事にした。
今回も干し花は30束だ。あまりにも多いと摘むのが大変なのである。薬草も摘んで、花も摘んで、となると半日作業になってしまう。そういえば最近、体力がちょっとついた気がする。まあ、別に運動のためにやっているわけではないが。
それに、1束銅貨3枚の干し花を30束売ると銀貨9枚にもなる。
度々それだけの金額を孤児院に入れるのは、なんというか、ちょっと、気が引けてしまうのもあった。
ヨルモやロマリアや、その他年長組の子供たちが頑張って働いて稼いでくるお金よりも多くの金額を、私はチョチョイっと摘んだ花を売るだけで上回ってしまうのだ。
私が孤児院に入れている額を知っているのはマニエだけだが、働いている年長組のやる気を削ぐような事をしたくないというのも本心だった。それをマニエに相談すると、マニエは快く了承してくれた。そもそも私は、未だに孤児院に正式には登録されてないのだ。それなのに他の子供よりお金を納めるのはおかしいだろう。
だから私は数日に1度だけ干し花を売ることにしているのだった。
ちなみに、魔素クリスタルを売る必要性が全くなくなってしまったが、魔素クリスタルの売上はポケット貯金することにした。干し花がこんなに売れてしまうとは、本当に思ってもみなかったのだ。まあ、突然何が起こるかわからないのだし、お金は無いよりあったほうがいいだろう。
しかし、薬草はこれからどうしようかと悩んでいた。薬草の売上よりも圧倒的に干し花の売上の方が多いのだ。正直、もう売らなくてもいい。
かといって、薬草の場所を教えてもらってからまだ6、7回しか摘みに行っていない。せっかく教えてくれたキースにもあれから全く会えてないし、申し訳ない気がする。
自分で魔法の回復薬を作ってはみたいが、魔法陣が無いことにはどうしようもないので、薬草をとっておくことも出来ない。薬草を売るときに受付の獣人の女性に聞いたのだが、干した薬草の使用期限は10日ほどなのだそうだ。それを過ぎると、品質が落ちるらしい。つまり、自分が魔法の回復薬の魔法陣を手に入れるまで置いておく、ということも出来ないのだ。
どうにかして、魔法の回復薬の魔法陣を手に入れることはできないだろうか?いや、見るだけでもいい。魔法陣の形を覚えてさえいれば、別に本体はいらないのだ。適当に地面にガリガリと書けばいいだけのことなのだから。
魔素クリスタル生成の魔法陣は国で管理されていて、作るのにも国の許可がいるというが、魔法の回復薬の魔法陣はどうなのだろうか?もし、魔素クリスタルと同じ扱いだったら厳しいかもしれない。
「ねえ、干し花売りさん。」
「あ、はい。」
考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか南門を通り過ぎ、西門近くまで来てしまっていた。
顔をあげると、声をかけてきたのは私と同じくらいの年齢の、黒いブラウスに白いエプロンをつけた可愛らしい少女だった。
「やっぱりあなたが干し花を売っているのね、よかった。毎日探していたのに、なかなか見つからなくて困ってたの。」
「ごめんなさい、干し花は数日に1度しか売っていないの。」
「あ、そうだったの。知ってたら日にちを見計らって来たのに。でも会えてよかった。干し花を2つ下さいな。」
「2つ買っても、1日程度しか香りがもたないけれど……。」
「いいのよ、旦那様と奥様に1つずつ、って頼まれているから。」
「なら大丈夫ね。」
そんな会話を交わしながら、少女はポケットから銅貨6枚を差し出した。
私は、干し花にそれぞれ安息の魔法をかけて、少女に渡した。
「はい、どうぞ。買ってくれてありがとう。」
「ありがとう、……うあ、ほんといい匂い。」
「あんまり香りを吸い込みすぎると、眠くなるから気をつけてね。」
「はあい。じゃあまた買いにきますから、その時はお願いしますね。……急がなきゃ。」
少女はそう言ってパタパタと南門の方へと走っていった。姿から想像するに、どこかの屋敷のメイドなのかもしれない。そんな人々にも干し花の情報が回っているとは。
それから、様々な人が、まだセールストークを始めていない私へと声をかけてきた。
「ねえ、さっき干し花を売っているのを見たんだけど、あなたがあの噂の獣人?」
「噂の獣人かどうかはわかりませんが、干し花を売っているのは私だけだと思います。」
「あ、干し花の子じゃない!ここ数日見かけなかったからどうしたのかと思っていたのよ。次の干し花が待ち遠しくて~。」
「干し花は6、7日に1回しか売りに出ていませんので……。」
「干し花くださーい。」
「あら、元気だった?私にも干し花ちょうだい。」
「あ、はい、銅貨3枚になります。」
「私にも~!」
「私にもちょうだい!」
「は、はい~。」
言い方は悪いが、餌をねだる家畜のように群がってくる人々に、私はあっという間に囲まれてしまった。30束しかなかった干し花はあっという間に売り切れ、ポケットに、予備に持ってきていたあの3人娘とパン屋の看板娘のぶんが残るだけになった。
それでもまだ人が寄ってくるので、私はフードを被って、そそくさと西門周辺を後にした。




