16-1 王都のどこかで 1
「素晴らしい。眺めているだけでも美しいというのに、これが魔素クリスタルというのがまたいいじゃあないか。ええ?君もそう思うだろう?これがただの原石であれば、私もね?気にも留めなかったんだがね?ああ、宝石などは腐るほどあるからもう必要ないんだ。ギラギラ輝くだけが取り柄の石なんかよりも、こちらのほうが大いに価値があると思わんかね?」
そんな延々と続くようなどうでもいい話を聞きながら、雇われ護衛の傭兵フリスタはその透明な魔素クリスタルを眺めていた。それは、5級の魔素クリスタル程のサイズだったが、雇い主いわく3級の魔素クリスタルらしい。
どこで手に入れてきたかは分からないが、この大きさで4級ならともかく3級というのはどう考えても騙されている。まあ、こいつが騙されようがどうしようが、約束の金さえ払ってくれれば自分にはどうでもいいことだが。
「それでフリスタ君。君には、この魔素クリスタルを生成した生成師を探して欲しいんだよ。どうやら王都に居るらしいんだが隠れているらしくてね。どうにも店主は口が固くてな。いつも贔屓にしてやっているというのにまったく。」
うへえ。と心のなかでは舌を出しながら、フリスタは無表情で「わかりました。」と応えた。
「これは、正規の手段で仕入れられたものではないだろう。流れの生成師か何かが、直接あの店へと持ち込んだに違いないと思ってな。あいつは偶然出来たものかもしれないなどと言っておったが、お前はどう思う?」
「申し訳ありませんが、正直な所わかりません。ワタクシも、こういった魔素クリスタルを見るのは初めてですので……。」
「うむ、そうだろうな。あいつも、こんな魔素クリスタルを見たのは初めてだと言っていたからな!それにしても美しい魔素クリスタルだ。君も、このような美しい魔素クリスタルを生成するような生成師を埋もれさせておくのは勿体無いとは思わないかね?」
3級といえば、魔獣討伐に使うような高価な魔素クリスタルだ。もしこの魔素クリスタルが本当に3級の品だったとすれば、普通は国の魔術師に売るだろう。もし雇い主の言うように正規の手段で手に入れていない魔素クリスタルだったとしても、魔術師協会という選択肢もあったはずだ。
なぜこんな灯りの魔法陣さえも使えないような貴族に売りつけようと思ったのか、俺にはまったく理解できない。
しかもこの気に入りようだ。宝石箱の中に大切に入れているところを見ると、割る気はいっさいないのだろう。使われてなんぼの魔素クリスタルを死蔵して、この貴族も一体何がしたいのかさっぱり分からない。
俺はそんなことを考えながらも表情には出さず、黙々と雇い主の言葉を聞いているふりをしていた。
どうやら、第二壁内の魔法具屋を見張っていればいいらしい。その店には俺も自分の武器を探しに顔を出したことがあるが、高級品の数々に手が出なかった覚えがある。
あとで聞いた話だが、あそこは城詰めの占術師や魔術師も顔を出すような店で、俺ごときが入ってもいい店ではなかったらしい。そんな店が、こんなあほ貴族に魔素クリスタルを売るというのは意外ではあったが、まあ、なにか事情があるのだろう。
「頼んだよ、フリスタ。」
「はい。」
雇い主の声に適当に返事をして、フリスタは部屋から出た。




