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隣世界のリネッタ  作者: 入蔵蔵人
孤児院のリネッタ
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12-1 ロマリアの受難

 ロマリアは、非常に困っていた。原因は、目の前にいるマティーナである。


「私は、いいお話だと思うのよぉ?」


 そう言って、マティーナはにこにこしながらロマリアの両手を握っている。


「で、でも――」

「どぉして~?ちょっとだけお小遣いもらうくらいだったら、城詰めの魔術師様だって許してくれるわよぉ。それともロマリアの大好きな人は、ちょぉっとロマリアが服を買ったりするのさえ許してくれないくらい、心のせまぁいお方なのぉ?」


 ――これである。ロマリアは心のなかで頭を抱えながら、必死にどう逃げようか考えていた。


 孤児院の廊下ですれ違った時にマティーナから話があると言われ、特に何も疑問に思わず、そのまま一緒に自分の部屋に入った。部屋に入ったマティーナは後ろ手に扉をしめてから、開口一番「キーレス様に、お話を聞いたのよぉ。」と話し始めたのだ。


 ロマリアはそれを聞いて愕然とした。マティーナがどこかの(・・・・)魔術師様の手伝いをしているとは聞いていたのだが、まさかそれが西大陸魔術師協会所属の魔術師だとは思ってもいなかったのだ。そしてすぐに、ロマリアの魔素クリスタル生成の詳細を流したのはマティーナなのかと思いあたった。


 マティーナに悪気は一切無いのだろう。そんな悪い人ではないと、ロマリアもよくわかっている。だからこそ、善意で魔素クリスタルの横流しを勧めてくるマティーナをどうかわそうか、ロマリアは頭を悩ませているのだ。


「あ、あのね、マティーナ。そうはいっても、生成できる数には限りがあって、まだ、1日5個しか生成できないし……。」


 悪いとは思いながらも、マティーナに嘘をつく。

 ロマリアはすでに昨日から魔素クリスタルの3個生成をはじめていた。しかし、知っているのはロマリア本人と、あとはリネッタだけだ。


 マニエに渡す数も、未だに1日5個だけだ。魔術師(テスター)さまに3個生成できるようになったと報告するまでは、誰にも言わないと心に誓っていたのだ。

 そのため、ロマリアは5級のクリスタルをこっそり溜め込んでいた。


「それじゃあねぇ、1日1時間だけ“仕事以外”で魔素クリスタルを生成する時間を増やしてぇ、それを納品っていうのはどう?それならロマリアが頑張っだだけ、自分のお小遣いになるんじゃなあい?ほら、これなら城詰めの魔術師様への納品数は変わらないわよぉ?」

「……うーん。」

「何を悩んでいるのぉ?魔術師協会の魔術師様は、ロマリアが城詰めの魔術師様側でも気にしないで取引してくださるって言ってるのよぉ?別に、他の生成師の人たちが生成した魔素クリスタルより安く卸して欲しいだなんて言われてないでしょう?」

「それは、そうなんだけど……。」


 ロマリアは、自身の気持ちが揺れていることを自覚してしまっていたので、マティーナにはっきりと断りきれずにいる。それを見越してかどうかは分からないが、マティーナは畳み掛けるように言葉を紡ぐ。


「魔素クリスタル1つにつき銅貨1枚と石貨50枚で買い取ってくださるっていうお話だからぁ、1日に1個ずつ作ったとして30日で銀貨4枚と銅貨が何枚かもらえるのよぉ?」

「銀貨……4枚……。」

「ほらぁ、そしたらもうちょっと綺麗な格好できるんじゃなあい?城詰めの魔術師様にだってぇ、綺麗な服でお会いしたいでしょう?」

「うう……。」


 マティーナの押しに、ロマリアは何も言えなくなってしまった。

 ロマリアだって女の子なのだ。しかも、身分が違いすぎると分かってはいるが片思いをしている。好きな人に会うのに、着飾るまではしなくても、清潔な格好でお会いしたいとは思っていた。


 だから、魔術師(テスター)さまが来ると分かっている日の前日には、ロマリアは寒い日でもしっかりと頭から水浴びをし、服もきちんと洗って頑張って清潔にしていることを、マティーナは知っていた。


 ちなみにマティーナは、第二壁内に入るための清潔な制服やマティーナの自由になる多少のお小遣いを魔術師協会側からもらっていた。もちろん、給与とは別に。それもあってマティーナは、“孤児だから”と受け身になりすぎて全てのお金を孤児院に入れてしまい、何も自由にできないロマリアのことをずっと気にかけていた。

 そして、高給取りであるはずのテスターが、よく働いているだろうロマリアにお小遣いすら渡していないことに憤ってもいたのだ。


「ねえ、ロマリア。私もあなたも孤児だけどぉ、孤児ということに囚われていてはダメだとおもうのぉ。確かにロマリアは魔素クリスタルが生成出来てとぉっても孤児院で役に立ってるけどぉ、私もあなたも孤児院(ここ)で一生を過ごすわけではないのよぉ?」

「それは――。」


 ロマリアは言葉に詰まる。なぜならロマリアは、マニエのあとを継いでこの孤児院で働きたいと思っていたのだ。魔素クリスタルの生成ができる自分が後を継いで、魔素クリスタルを売りながら孤児院を運営できればいいなと、心の何処かで考えていたのだ。


 ロマリアは、独りで生きて行きたくはなかった。生家(・・)ではいらないもの扱いされ、前の孤児院でも、その前の孤児院でも、ずっと独りだったのだ。ようやく見つけた心の落ち着けるこの場所から、離れたくないという思いが強かった。しかも、自分ならじゅうぶんなお金を稼ぐことができる、という自信もあった。


 しかし、それを言う勇気などあるわけもなく、ロマリアは(うつむ)いてしまう。


「確かに、城詰めの魔術師さまと繋がりがあるのは、すごくいい事だと思うわぁ?でもぉ、……ロマリアにはまだ早い話かもしれないけどぉ、城詰めの魔術師さまだっていつまでも独り身でいるとは限らないのよぉ?だから、もっと色々な人と知り合っておいたほうがいいと思うのぉ。」

「――っ。」


 マティーナのその言葉が、決定打になる。


「そうね……いつまでも、私の魔術師(テスター)さまでは、いられないものね……。」


 寂しそうに、ロマリアが(うつむ)いたままつぶやく。それを見ていたマティーナは、ほんの少し罪悪感に苛まれながらも、静かにロマリアを抱きしめた。


「ロマリアは、いい子過ぎるのよぉ。もうちょっと、自分の事も考えていいのよぉ?」

「うん……。」


 そうしてロマリアは、とうとう魔素クリスタルの横流しをすることを了承してしまったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 男主人公も女主人公の場合も、傾向として、なろう小説は女性の頭が残念になりがちだと思う。
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