2-1 誰かの隠れ家にて
鬱蒼とした森の中にぽつんとある、石造りの平屋。
木々に紛れるように壁石は苔むし蔦で覆われ、その存在を隠している。
「守護星壁が消えたらしいですなあ。」
白髪の混じった黒い髪を首の後で1つにまとめている背の高い老人が、どこで聞きつけてきたのか面白がるように目を細めてそう言った。
この男、老人とはいっても、その背筋はピンと伸ばされており、よく引き締まった筋肉を包んでいるのは皺と傷の刻まれたハリのある肌だ。灰色の瞳には強い意志を感じさせる。長く伸ばされた髪には艶があり、年を感じさせない雰囲気をまとっている。
声をかけられた男はというと、ソファに深く腰掛けて窓の外に視線を向けており、老人の言葉を聞いても、視線は動かさないまま小さく鼻で笑っただけだった。
それは老人と比べれば随分と若い、20代後半の男。
燃えるような赤い髪は短く、まったく梳いていないのかボサボサでゴワゴワしている。意志の強そうな瞳は、炎を纏った髪とは対象的な、純粋な、黒。
しかし、今はだらんとした体勢で、ひどく眠そうなまぶたをしているので色々と台無しになっている。
「人の仕業でないことは確かでしょう。新鋭の同胞か……。守護星壁をどう破壊したのか、じいは気になりますなあー。なかなか入れない国ですしなー、覗きに行くのも一興かと思いますなあー。」
「そーだな。」
ギシ、とソファに深く座り直して、赤い短髪の男は視線を彷徨わせると、ソファの肘掛けに肘をついて体重を預けながら、興味なさげにつぶやいた。
「奇特なヤツもいるもんだ。ちょいちょい嫌がらせすんなら分かンだが、人とマトモに喧嘩したっていーことなんて全然ねェし、疲れンだろ。俺は疲れた。」
「若いとき、特に成り立てで力を持ったばかりのころは己の使命感に駆られるもの。懐かしいでしょう?」
「……うるえせェ。」
「それに、後先考えず突っ込むような威勢の良い者が居ると、場の雰囲気が明るくなりますしな。」
「……面倒くせェし関わりたくねェ。暑苦しくて溶ける。」
「ホッホホ。」
老人は心底面白そうに笑い「どうですか、たまには一緒に散歩などいかがですかな?」と誘いの言葉を投げかけた。
赤い髪の男は、心底面倒くさそうな顔をしたが、「しゃあねェなあ、ついてってやるかァ。」としぶしぶといった風に了承したのだった。




