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隣世界のリネッタ  作者: 入蔵蔵人
孤児院のリネッタ
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8-1 キースと薬草 3

 森から出てさらに北へと森を迂回するように進んでいくと、点在していた畑は一切なくなり、草丈の低い草原が広がりはじめた。ぽつぽつと、白や黄色の小さい花も咲いている。


 森にいる時は気づかなかったのだが、今日は風がさわやかで気持ちのいい日だ。……珍しく労働をしてじんわりと汗をかいた後だから余計そう感じるのかもしれない。


 遠くに、街道を行き交う人がちらほら見える。あれはたぶん、外壁の東門から伸びている道だろう。東門をまっすぐ歩くとこの森に突き当たってしまうので、門からの街道は森を迂回するように二股に伸びている。その先は、合流することなく別の町へとつながってるとキースが言っていた。


 キースを見ると、いつの間にか森で手頃な枝を拾っていたらしく、小慣れたように雑草の生えていない地面に魔法陣を描いている最中だった。


「リネッタ。もう知ってると思うけど、これが一番簡単な、灯りの魔法だよ。」


 ――灯りの魔法か。私はごくりとつばを飲み込んだ。


 先日、実はこっそりロマリアの部屋で自分の魔素を消費して魔法陣を発動させてみたら、目眩ましの魔法のような光量を放出してしまい、しかも魔法陣自体にヒビが入ってしまって大慌てしたのだ。

 いつも灯さない位置なのですぐにロマリアにばれることはないとは思うが、あれは本当に焦った。


「キース君。キース君は、どれくらい練習して、魔法陣が発動できるようになったの?」

「僕は一回目で出来たよ……っていうか、魔素に適応がある人なら、5級の魔素クリスタルを使えば、灯りの魔法なら一発で出来るって聞いたよ。魔素に適応があるかどうかは、この灯りの魔法陣を発動させることができるかどうかで調べるくらい、この魔法陣は簡単なんだ。それから、順番にいろんな魔法陣を発動していって、どれくらい魔素に適応があるかを調べるんだよ。」

「なるほどね。」

「まあ、一回やってみるから、見ててね。」


 そう言って、キースは腰の皮袋から魔素クリスタルを1つ取り出し、灯りの魔法陣の上で砕いてみせた。すると、魔素クリスタルから放出された魔素はすぐに魔法陣に吸い込まれ、魔法陣の中心が淡く光りはじめ、地面に光の半球が出現する。


 うーん、どうやら、昨日の目眩まし状態は魔素の込めすぎだった、のだろうか。


 考えてみれば、灯りの魔法は一度発動させると6時間程度は大気中の魔素だけで光り続けるのだから、魔素を込めすぎれば行き場のない魔素は全て光量という形で発現してしまうのだろう。そして、多すぎる魔素量に耐えきれずに魔法陣は壊れてしまった、とか?


「魔法陣を消すと灯りも消えるんだよ。」


 そう言ってキースが地面に描いた魔法陣に足で土をかけると、光の玉はすぐに消える。


 私は、心の中だけで首を傾げながらそれを見ていた。

 キースやロマリアが魔素クリスタルを砕くと、放出された魔素は“自動的に”魔法陣に吸い込まれていく。魔法陣は、もともと魔素を吸い寄せやすいようにできているのだ。


 しかし、それなら、魔素に適応とか以前に魔素クリスタルを砕けば誰でも魔法陣は発動できるのではないだろうか? それこそ、獣人(ビスタ)にだって出来るはずだ。

 つまり、魔素クリスタルを砕いても魔素が魔法陣に吸収されない理由が、絶対あるはずなのだ。


 そもそも私の元居た世界(レフタル)では、魔法の使えない一般人が魔法陣を使った魔法アイテムを使用していた。獣人(ビスタ)が灯りの魔法陣すら扱えないというのは……


「リネッタちゃん?」


 私の思考は、キースの声に阻まれた。見れば、キースが不思議そうにこちらを見ている。


「ごめんなさい、考え事をしていたの。魔素クリスタルを割るだけなのに、どうして獣人(ビスタ)には魔法陣が扱えないのかしら?というか、(ヒュマ)だって扱えない人の方が多いのよね?」

「え?どういうこと?」

「魔素クリスタルを割れば、魔法陣は発動するでしょう?」

「うん。」

「それなら、誰が割ろうが、魔法陣は発動するってことでしょう?」


 私の言葉に、キースは「いや、それは違うよ。」と即答した。


「魔素に適応してる人しか、魔法陣は発動できないんだ。魔素クリスタルで魔法陣を発動させているわけではなくて、魔素クリスタルはきっかけなんだよ。魔素クリスタルできっかけをつくって、あとは周りに漂っている魔素を操作して、魔法陣を発動させるんだ。」

「うーん……?」


 どう見ても、魔素クリスタルの魔素だけで魔法陣は発動していた。つまり、キースは周りの魔素を操れてなどいない。ここでも魔素が認識できない弊害(へいがい)が出ているということだろう。


「すごい魔術師様は、魔素クリスタルできっかけを作らなくても、周りの魔素を操って灯りの魔法陣を発動させることができるんだよ。」


 キースは、魔素クリスタルの生成を教えてくれていた時のロマリアのように、自信満々だ。この世界での常識(これら)に関しては、もうこの世界の人々に聞いても(らち)があかない気がしてきた。


 城詰めの魔術師や魔術師協会だとかいう団体が今の魔法陣に対して疑問を抱いていないというのなら、魔法陣の種類や効果を教えてもらう事はあっても、それ以外の研究は一人ですることになるだろう。いや、それはそれで絶対に楽しいし、やりがいがある。転移の魔法の完成は先延ばしになってしまうが、まあ、仕方ない。


「どうしたの?リネッタ。分からないところがあった?」

「ううん、色々と教えてくれてありがとう、キース君。他の魔法陣も見てみたいわ。」

「いいよ!」


 キースは色々教えて気を良くしたのか、火を起こす魔法陣や、狩りで使う(キースいわく)ビリッとする魔法陣などを次々に地面に描いて、実演までしてくれた。


 面白かったのは、狩りで使うビリッとする魔法陣だ。詠唱魔法と違い、待機中の魔法陣は魔素を一切漏らさない。

 キースが魔法陣の上に小枝を投げ入れると、小枝が魔法陣の上に落ちた瞬間、魔法陣から雷のような魔法が小枝に放たれて、小枝はばらばらになった。

 気絶させるだけの魔法(スタン)よりも、だいぶ殺傷能力があるようだ。


「さて、もうお昼の鐘も随分前に聞こえたし、そろそろ帰ろうか。暗くなり始める前には第三壁内に入っておきたいし。」


 そう言ってキースは、足元に描いた様々な魔法陣に足で土をかけて完全に消した。

 それから2人で、ゆっくりと王都に向かって歩き始める。

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