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隣世界のリネッタ  作者: 入蔵蔵人
孤児院のリネッタ
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1-2 これがリネッタです 2

 そんな、魔法の研究が盛んだったこの世界で、多くの研究者を返り討ちにしている魔法の構想があった。


 設置型魔法などとは比べ物にならないほど難しく、未だかつて誰も成功させることができていないその魔法は――転移魔法という。


 物でもいいし、動物でもいい。何か一つでも、空間を超えて転移させることが出来ればいい。しかし、レフタル大魔法帝国(すごい国)最高位魔法使い(すごい人)ですら、小さな羽ペン一つ転移させることができないでいたのだ。


 現在の魔法の中には、使い魔“召喚”という魔法があるが、これは魔獣の写し身を魔素で構築し使役する魔法で、魔獣そのものを転移させてその場に出しているわけではない。


 この写し身には実体があり、戦闘に参加させたり荷物を運ばせることができる。魔素の量と質によっては、魔法を使える個体を構築することもできる。

 食事や休息が必要なく便利ではあるのだが、本物の魔獣と比べると能力にかなりの劣化がみられ、構築している魔素は補充しなければ減り続けいつかは消える。命令をすれば、多少は自律的な行動をとることはできるが、所詮は魔素の塊でしかないのだ。

 さらには、その召喚した使い魔が消えたあと、次に同じ魔獣を召喚しても記憶や経験は引き継がれていない。つまり使い魔は使い捨てなのだ。


 もし、転移の魔法で魔獣本体を強制的に召喚・返還できるようになれば、それは強力な戦力になるだろう。(もちろん、召喚された魔獣が人の命令に従うかは、別の話である。)


 それはさておき、転移魔法が発見されれば、戦争の形はがらりと変わるだろうと言われている。


 現在は国と国の境界あたりで歩兵同士が小競合い、大きな前線などでは魔法使い達が大地をえぐり空を焦がしながら攻撃魔法を撃ちあっていつ崩れてもおかしくないような均衡を保ち続けてはいるが、前線への供給が魔法で行える国が現れたら、話は違ってくる。


 それは前線だけの話ではなく、あくまでも可能性での話だが、魔法での守りが疎かになれば、拠点や城に直接兵士が雪崩れ込んでくるようになるかもしれない。恐ろしい話である。


 古代魔法の存在をはじめて聞いた時、私は、転移魔法のヒントが古代魔法に隠されているのではないかと直感した。


 国お抱えの魔法研究所で働いている両親の一人娘だった私は、早くから様々な魔法とその仕組みを教え込まれていた。

 両親の豊富な知識と、生まれ持った潤沢(じゅんたく)な魔素量。そして魔法学校での英才教育を乾いた大地のごとく吸収し、私は10才の時点で立派な引きこもり研究者になっていた。


 友達は、魔法図書館の蔵書達と、小さいころに両親にプレゼントされた愛杖である。


 転移魔法は、転移させる物をその“空間”ごと移動させるのではないかと考えていた私は、大気の魔素を使うという古代魔法に並々ならない可能性を感じていた。そして両親が辺境の遺跡に派遣されることになったと聞いたときは、それはもう大喜びでついていったのだ。

 そして両親が帰国するといっても私はその村にとどまり、魔法アイテムの開発と併せて転移魔法の研究を重ねた。


 しかし、遺跡をくまなく探しても転移に関しての記述は見つからず、転移の研究はすぐに行き詰った。


 それでも諦められず毎日のよう遺跡に通い、時にはその場で寝泊まりしながら、すでに多くの人の目が通ったであろう遺物の本を読み漁り、壁や床に彫られた数々の欠けた魔法陣を解読し続けた。それこそ、周りの研究者に呆れられるほどに。



 そして、とうとう見つけたのだ。遺跡の地下、なんにもない小さな部屋の床に直接彫られた、部屋のサイズに似つかわしくない大きさの、その魔法陣を。



 その魔法陣は、現在の魔法の中の使い魔召喚と同じ(たぐい)の古代魔法だと思われていた。

 幾人かの研究者が解読を試みたが、研究者たちの目的はあくまでも戦争に役立つであろう魔法陣で、なおかつ攻撃や防御などの即戦力であり、召喚系だと分かるやいなや放置されていたのだ。


 しかし、よくよく解読し、一部だけでも現在の詠唱文に翻訳してみると、それは何かをこの場所に召喚するのではなく、何かをどこかに運ぶ魔法陣だった。

 つまり、転移する為の魔法陣そのものだったのだ。


 私は、このことを誰にも相談せず、自らの力だけで魔法陣を完成させようと思った。今思えば、当時10代半ばだった私はまだ考えが浅かった。多くの研究者が考えを出し合えばそれだけ多様な研究ができ、転移魔法の完成も早まったはずだ。

 しかし、これを公表してしまえば最後、この遺跡はまた多くの国の研究者で溢れ、私は好きなように研究ができなくなってしまうだろう。一大発見なのだ、どこからこの秘密の研究が漏れるか分からない以上、村にいる気の知れた研究仲間の誰かに相談することすら、私にはできなかった。


 そしてそれから十数年が経ち、もう両親からの帰国を促す手紙すら届かなくなった頃。


 私の転移魔法の研究は最終段階に入っていた。

 あとは、実際に魔法陣を発動させるだけだ。


 大気中の魔素では全く足りないので、私の魔素を直接魔法陣に流し込む。

 魔法陣を体内の魔素で発動させるというのは、古代語を詠唱文に翻訳し深く理解したからこそ出来た私の研究の成果である。


 併せて、より深い結び付きで魔法陣を安定して発動させる為に――本来は禁忌とされてはいるが――腕を切って魔素をたっぷりと含んだ自らの血を魔法陣に滴らせておく。


 実は、発動条件の使用魔素が多すぎたので、まだ一度もこの魔法陣を発動させたことがない。

 正直なところどこに転移するか分からなかったが、もともとの魔法陣に掘られた転移先は欠けてはいなかったのでそのままにしている。

 さすがに、海の中や空の上に出ることはないだろう、たぶん。


 私の魔素と血をたっぷりと受け、魔法陣は少しずつ発光しはじめる。それは次第に強く、まばゆくなり、緊張した面持ちの私をゆっくりと飲み込んでいったのだった。

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