7-3 ヨルモの1日 3
「ヨルモ?早かったね?」
仕事仲介・斡旋所と、壁を隔てて同じ建物内にある解体委託所に入ると、いつも受付に座っている垂れた長い茶色いうさぎ耳の獣人のおばちゃんが俺を見つけて声をかけてくれた。
いつもはもう少し遅い時間に来るのでここもだいぶ混んでいるのだが、早いうちに獲物を仕留める(?)ことが出来たので、今日はスムーズに報酬窓口に行けそうだ。
「あー、ちょっと俺だけじゃ解体できねーの獲って来たから、頼んでもいいかな。あと、肉が食べれるかどうかも見てほしーんだけど。一応、内臓は抜いたんだけどさ。」
「ん~?いつものなんだろう?」
おばちゃんがそう言って首をひねっていると、裏から2輪の荷車に乗せられて小牙豚が運び込まれてきた。俺が持ち込んだあのでかいやつだ。
「はー、えらいでかいやつだね。しかもなんだい、罠でも使ったのかい?えらく綺麗じゃないか。」
おばちゃんが目を丸くする。まあ、俺がいつも持ち込む小牙豚は槍に刺された傷でボロボロになっているのでしょうがない。
「それが、そいつさあ。見つけた時にはもう死にかけてたみてーなんだよなー。」
俺がポリポリと頭をかきながら答えると、おばちゃんは「あれま。」と言って、小牙豚をまじまじと見た。
「へえ、そんな事もあるんだねえ。ラッキーだったじゃないか。」
「んでも、変な病気とかだったら食えねーじゃん?」
「あー、なるほどね、まかしときな。受付しといてやるから、尻尾だけ持ってお行き。これなら毛皮もいいものが取れるね。牙も一緒に、いつもどおり買い取りでいいのかい?それとも他の子の肉と交換するかい?」
「あー、今日は買い取りで頼みます。」
解体には手数料がかかるので、基本的には解体場を借りて自分で解体するのだが、今日は別だ。特に、食べられるかどうかは魔法陣で判別してもらわなければならないので、しょうがないだろう。
牙のような素材は、仕事仲間の獲ってきた肉と交換する以外は、いつもここで買い取ってもらっている。獣人の自分が売っても、買い手がつかないか買い叩かれる。最悪殴られて奪われることもあると聞いた。それを考えれば、例え相場より安くてもここで買い取ってもらったほうがはるかにマシである。
毛皮や牙の追加報酬や解体の手数料は、仕事仲介・斡旋所で受け取る報酬に勝手にまとめられるので、俺は切り取ってもらった小牙豚の尻尾を持って、仕事仲介・斡旋所の報酬窓口に向かった。
「ども、帰りました。」
「お。リトルじゃない小牙豚を仕留めたのはお前だったのか。」
報酬窓口にもすでに情報が回っていたらしい。そう言いながら尻尾を受け取ったのは、熊のような耳の、それこそ緋毛熊を彷彿とさせるガタイの獣人のおっちゃんだった。
「まだ見てねえが、解体場の奴らが騒いでたぜ。えらく大物らしいじゃねえか。どこまで奥に入ったんだ?」
「いや、だいぶ手前だよ。なんつーか、病気かなんかで死にかけだったのを偶然見つけただけなんだ。」
俺の手柄ではないので、あまり話を広げられたくない。俺は顔をしかめて応える。
「ハハハ、そういう時はちょっと見栄をはってもいいんじゃないか?」
「喉掻っ切るのにナタを何回も振るったんだぜ。槍がたつかもわからねー奴が突っ込んできたら俺、全力で逃げるって。立ち向かうにしても最低でもあと2人は欲しーわ。」
「そんなにでかかったのか。」
頷く俺に、おっちゃんは「ほー。」と言いながら、尻尾をポイッと後ろのカゴに投げ込んだ。本来は専用の魔法陣でサイズ等を確認するのだが、俺の場合は現物を持ち込むのでそういう面倒くさいことは全く無い。
しかもいつもより早く空いている時間帯だったのもあり、あっという間に受付は終わった。ちなみに俺は明日も狩る予定なので精算も後回しになり、それも時間短縮の一因だった。
「大体、俺みたいのがああいうの倒したっていうと、絡まれんだよ。目立たせないでくれよ。」
俺はおっちゃんにさらに釘を刺して、用具入れに短槍を返却すると、仕事仲介・斡旋所を後にしたのだった。
今日はこのまま孤児院に戻って、明日の狩りの為に、今日刃こぼれしてしまった自前のナタの手入れをしなければならない。




