隠匿さんの受難は続く
真夜中、不吉な予感に襲われ、隠匿は目を覚ました。
いや、予感などではない。
ベッドの上で目を見開いたまま、隠匿は動けずにいた。
己の主との……アヴィエントとの繋がりが、切れていた。
魔人に成ってから一度も切れることがなかったその絆が、もともと存在しなかったかのごとく跡形もなくなっていた。
また、アヴィエントの身に、何かあったのか。
また、己がそばにいない間に。
その考えに、背筋が凍り付く。
アーヴィンと隠匿は、同じ魔獣から産出された魔核を使っている。つまり、魔核で繋がっているのだ。その繋がりが切れるということは、片方の魔核が……考えたくもないが、片方の魔核が壊された、ということだ。
いや、下位の魔人やシーアのような戦闘能力が低い魔人ならまだしも、アーヴィンに限って……それは、あり得ない、と思いたい。
確かにここ数十年、アーヴィンは戦うことを避けてきた。枷に縛られないためだ。
しかし、もしそれで、解体屋がいうように本当に魔人としての能力が衰えていたら……?
ふと、淡い光を放ちながら己を捕えている魔法陣が目についた。
ここに閉じ込められてもう1年以上が経過している。隠匿を仲間に引き入れるために枷を調べているにしてもかなり長ったらしいやり方だと思っていたが、解体屋が隠匿をアーヴィンから離した理由が、もし、アーヴィンの始末のためであったら……?
悪い想像は坂道を下るがごとく、どんどん悪い方向へと転がり落ちていく。
むくりと起き上がり、鉄格子がはめ込まれた窓から三つ月を見上げた。ほかの2つとくらべかなり暗く淡い光を放つ闇月に主の無事を祈る。祈ることしかできない自分が歯がゆい。
しかし、目覚めてから1時間ほどが経つと、隠匿の魔核は再びアーヴィンの魔核と繋がった。
切れた理由も、戻った理由もわからない。しかも、その繋がりは依然と違い、どこかしっくりとこないような違和感があった。隠遁の胸騒ぎは繋がりが戻っても、収まることはなかった。
そのまま朝になりいつものように少女らが部屋に訪れても、隠匿はどこか上の空であった。そわそわと窓の外を見たり、少女たちの問いかけに対してぼーっとして反応しなかったりだ。
そのうち少女らが(いよいよもって死期が近いのかと)本気で心配してきて、慌てて否定する。そういうのではないのだ、と。否定しても無駄そうではあったが。
隠匿は日に日に不機嫌になっていった。
少女らにではない。少女らはどうあがいても可愛いし愛でなければならないものだ。イライラの相手は解体屋と不愉快な仲間たちだけである。
アーヴィンとの繋がりはあの夜以来ずっと不安定なままなのだ。アーヴィンに何かあったのだと考えるのが普通だろう。しかも、魔核の繋がりをも途絶えさせてしまうような何か、だ。
この部屋に閉じ込められてから、解体屋は一度も隠匿に姿を見せていない。
ここ1年、隠匿の視線の中に入るのは数か月に1度入れ替わる少女たちと、少女たちに食事を運んでくる若い侍女だけだ。
隠匿はここに来て、焦燥感に駆られていることを自覚した。
アーヴィンが魔獣化した状態で何者かに痛めつけられ、苦しみもがく夢を見たからだ。
目の前で起こっているような、それはひどく現実味のある夢だった。朝、恐怖に身を竦ませたまま隠匿は目を覚ました。
その恐ろしい夢はそれからも、2、3日に1度は隠匿の夢に現れ隠匿を苦しめるようになっていく。しかも夢を見るごとに、アーヴィンが感じている悍ましい感覚さえ感じるようになっていったのだった。
魔人 解体屋
【咎・?? 枷・?? 刻印・毒の泉】
紫のヴェ。シルビア覚醒のきっかけになったひと。隠匿の力が欲しくて閉じ込めたけど、なかなかうまくいかなくて困っている。生きた子どもには興味がないらしいのに、たまに隠匿とセットでロリコンて言われるしそう思われている。隠匿が不調になったのは自分の計画がうまくいっていると思い込んでいる。シルビアに一方的に恨まれている。
魔人 隠匿
【咎・贖罪 枷・?? 刻印・隠匿】
未だに名前の出てきていない元アヴィエントの親の代の家令長、元アーヴィンの保護者、現アーヴィンの相方で囚われのお爺様。若いころはバリバリの肉体派で人だったころのアーヴィンなど歯牙にもかけなかった。彼の刻印が補助系の隠匿であるのは彼の想い故なのだろうか。
可愛い少女が大好きで紫のヴェに捕まってからは少女に囲まれて毎日が天国だったのに、現在は悪夢は続くよどこまでも状態。不憫。




