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隣世界のリネッタ  作者: 入蔵蔵人
辺境領のリネッタ
220/299

受け取った手紙と、送る手紙

 宿に帰り、私は早速トナーからの手紙を開いた。

 部屋に1つだけ設えられた、洗濯物が干されている宿の裏庭が見えるはめ殺しの窓。その下に置かれた素朴な木のテーブルに獣紙皮を広げ、少し高く私では床に足が届かない椅子に座った。


“傭兵ランクについて、気になっていることだろう。”


 まだ昼過ぎなので魔法の明かりではなく窓から差し込む陽光に照らしながら、そういう書き出しの短い手紙を読む。とはいえ、ひどく短い手紙だったので読むのはあっという間である。


 “解毒剤への貢献の礼といってはなんだが、ダンカン様よりカトリーヌ様と当街のギルドマスターに話が行き、特例として、護衛の仕事は正式に傭兵ギルドを通していることになった。クロード様にも確認し了承を得ている。

 そのため、今回の赤い飛竜の素材の納品と合わせて護衛をしていた数か月分のポイントで、傭兵ランクがあがったというわけだ。

 解毒剤だが、毒の実でかさ増ししたものでも解毒剤として使えることを確認した。これで、今までよりも低価格にすることができ、ランクの低い傭兵や町の住民でも解毒剤が買えるようになるかもしれない。本当に世話になった。


 なお、この手紙は読み次第、必ず燃やして破棄するように。 トナー ”


 傭兵ランクが上がったのは、つまり、カトリーヌの護衛の仕事のギルドポイントが入ったことによるものだったということだ。しかも、雇われ始めたあたりまで遡ってくれたらしい。ありがたいとは思うものの、正直なところこの見た目(外見10才児)ではランクが上がれば上がるほど相手には信用してもらいづらくなるわけで、いいのか悪いのかは……よくわからない。

 私は研究者だ。必要があって研究のために現地に行くこともあるし、魔獣を倒さなければならなくなれば倒す。しかし、自分から傭兵ギルドの仕事を受けて魔獣討伐に乗り出したりはしないのだ。まあ、ランクDだしまだ魔獣討伐の仕事なんて受けられないだろうけれど。


 と、いうか、何かで実験したのだろうが、まさか昨日の今日で毒の実でかさ増しした解毒剤が有用だという結果を出たとは驚きである。まあ、それだけ急務だったということなのかもしれない。

 ……あるいは、毒の実入りの解毒剤が不良品であった場合、カトリーヌがこの街から離れる前に解毒剤が使えないことが分かれば私をこの街に引き留めることができる、と思われた可能性もある。


 まあ、それももう終わったことだ。下の森ではあるけれど毒の実は山ほど生っていたし、そうそう毒の実が不足することもないだろう。

 青鉤鳥(ブルーホックバード)を狩れるような傭兵が少ないとはいえ、今までよりはかなりマシになっているはずだし。


 私は読み落としがないかもう一度さっと目を通すと、そのまま魔法で手紙を燃やした。


 ――この世界には、詠唱魔法がない。魔素を構成してなにかしらにするためには、魔法陣が必要だ。

 つまり燃やせと書いてあるからと無意識に燃やしてしまったトナーからの手紙も、魔素を使って燃やそうと思うと魔法陣を描いて魔素クリスタルを割らなければならないということだ。

 この世界の人々はそんな手間をかけて火を(おこ)しているのだ。だからこそ効率が悪くてもそれが“常識”として根付いてしまっているのかもしれないなあとぼんやりと思いもした。


 きっと、普通の人はかまどとかに投げ込むんだろうなあ。



 さて、次は私が手紙を書く番である。



 私はついさっき買ってきた真新しい紙をぺらりと出した。

 きちんと枚数分同じ形に裁断してあり手触りも良く薄いという、ちょっと高めの獣皮紙である。

 そこに書くための羽ペンと水に強いというインク、封蝋、封筒、大きめの筒なども買ってきた。手紙を書き届けるための一式である。


 何から書き始めるべきか。

 そういえば、書置きではない真面目な手紙なんて両親に出すくらいしかしたことがないので、何を書けばいいかさっぱりわからない。


 私は首をひねった。


 まずはあいさつだろうか。

 それから、自分の現況とかも書いた方がいいだろうか?

 あとは――ヨルモのこと、か。


 私は手紙の一番最初に、マニエ様、と書いた。


 たしか、そんな名前だったはずだ。

 それがファーストネームなのかミドルネームなのかファミリーネームなのかはわからないが、みんなそう呼ぶか、もしくは“ばあちゃん”だったのでこれでいいだろう。


“お久しぶりです。

 お元気にされていますでしょうか。”


 ありきたりすぎるだろうか。でも、うまい言葉も思いつかないのでしょうがない。

 次は自分のことか……。


“私は今、アリダイル聖王国というところで、護衛の仕事をしています。”


 とまで書いて、私ははたと気付いた。マニエは、私が傭兵になっていることを知らないのだ。

 どこから書くべきか私は少し悩んで、とりあえずそれに続けて、


“王都を出たあとしばらくしてから傭兵登録をして、今のところに落ち着きました。

 獣人(ビスタ)差別の強い国ですが、雇い主には良くしてもらっていますし、正当な額のお給金をもらえています。”


 と書いた。

 詳しくは覚えていないが、マニエはそういうことをよく知っていた記憶があった。私がこの世界(ラフアルド)で初めて目覚めたときにはこの国には差別がないとかなんとか言っていたし、(ヒュマ)に優しくされたと言ったときに驚いていたはずだ。

 まあ自分の事はこれくらいでじゅうぶんだろう。次は本題だ。


“ところで、聖王国の国境付近の街ヒュランダルで、ヨルモの弟だという獣人(ビスタ)の少年と出会いました。名前はアギトといって、ヨルモによく似た黒い大きな耳と尾の少年です。

 アギトはこの街で傭兵として生活し、独り立ちしたあとはどこの国にいるかわからないヨルモを探す旅に出ると言っていました。

 本人にはヨルモのことを何も伝えていませんが、保護者登録している傭兵には話しました。スネイルさんは、アギトには時期をみて話すと言っていました。


 私は明日、ヒュランダルの街を発ちます。

 この話をヨルモに伝えるかどうかは、マニエさんにお任せします。よろしくお願いいたします。”


 こんなもんだろうか。

 私はペンを置いて、ざっと読み返してみた。


 トナーからの手紙が短いと思ったが、私の手紙も短いような気がする。

 しかしマニエとは世間話をするような仲でもなかったし、用件だけを書くとこんなもんなのだろう。


 私はインクを乾かすためにぺらりと紙を机の端に寄せて、2枚目の手紙に取り掛かった。

 どうせ孤児院にまで飛ばすのだから、ロマリアにも手紙を書こうと思ったのだ。魔法陣がそのあとどうなったのかも気になるところだったし、最近よく彼女の事を思い出していたし。


 とりあえず“久しぶり”と書いて、私は目を細めた。

 ロマリアには聞きたいことがいくつかある。何から書こうか。

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