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隣世界のリネッタ  作者: 入蔵蔵人
孤児院のリネッタ
2/295

1-1 これがリネッタです 1

 私は今、人生で一番の感動に打ち震えている。


 真っ暗で何も見えないが、床は平らで滑らかなので、洞窟などではなさそうだ。どこか別の“遺跡”なのだろうか。

 ひんやりとして冷たい床についた手が、かたかたと震えている。寒いわけではない。私は今、感極まっているのだ。感情が昂ぶりすぎて、他にもいろいろと調べなければならないことが多々あるのだが、今は全てがどうでもいいと思える。


 ああ、頭の整理がつかない。深い思考は瞬く間に霧散し、ただただ嬉しい、幸せ、やった!などという短絡的な感情だけが全身を支配している。


 ――ああ、神よ。太陽神サシェストよ!

 私は今、不可能といわれた魔法を完成させたのだ!

 今まさに、私の古代魔法研究者としての日々が報われたのだ!


 私は喜びを噛みしめながら心のうちで神に感謝の祈りをささげ、それから大声で「やったー!」と叫んだ。



 古代魔法とは、今から数十年前に、大陸の端の端、どこの国にも属さないような辺境の土地で偶然発見された遺跡のような(・・・・)建物と一緒に見つかった、新しい魔法だ。


 “遺跡のような”というのは、その遺跡(?)は壁の半分以上が岩と土に埋もれていたものの、掘り返してみるとそれはしっかりとした石造りの2階建てで窓や地下室もあり、今の時代にわりと賑わっている町中などに建っていてもなんら違和感のないものだったからだ。

 しかも、見つかった遺物にあった、本。それは厚みを均一にしてきれいに四角く切り揃えられた獣皮紙じゅうびしやわりと上等な紙で作られた“本”だった。その数は50冊を軽く超える。獣皮紙や紙自体の技術は昔からあるが、それを均一な薄さにしまとめて綴って背表紙をつけ“本”としはじめたのは、そこまで昔ではない。


 さらに、古代魔法に関しての遺物が見つかったのはその遺跡だけで、遺跡周辺をいくら調べてもそれ以外の遺跡や遺物が見つかることはなく、それどころか周辺の村々での伝承の(たぐい)すら存在しなかった。

 周辺の村人たちが「そもそもここにこんなものはなかった」などと言い出す始末だったのだ。


 どこかの国が独自に新しい魔法をつくりあげようとしていた研究所の跡なのではないか、という噂も流れたし、それが一番事実に近いと思っている研究者も多かっただろう。

 その為、現在の魔法との区別のためだけに、遺跡(?)で見つかった魔法を便宜上(べんぎじょう)古代魔法と呼び、その古代魔法に使われている言語のことは古代語と呼ぶようになった。


 その古代魔法だが、現在の魔法が口頭での詠唱で魔法を構築し杖などの媒介を用いて体内の魔素を変換・放出して魔法を発動させるのに対し、古代魔法は、大地や壁や武具など様々なものに魔法を構築する模様である“魔法陣”を描き、魔素を帯びた魔素石という鉱石を媒介にして発動させる。


 現代の魔法との大きな違いは、魔法を発動するのに必要な魔素が大気中から抽出されるらしい、ということだろう。


 この古代魔法の発見に、各国の元首たちはこぞって研究者を派遣しその力を我が物にしようと躍起(やっき)になった。

 曰く、力が自分のものになるのならば、古代魔法が本当に古代のものなのか、はたまた近代のものなのかは、この際あとでゆっくり調べたらよいだろう、と。


 設置型の魔法は今までも研究されてはいたが、体内の魔素を消費する現在の魔法の形ではどうしても魔法の待機中に魔素がじわじわと放出されてしまい、魔法を長く待機させることは至難の技だった。


 古代魔法のように、発動には鉱石を使い使用中は大気の魔素を使うとなれば、戦闘要員である魔法使いを防御のために一定数拠点に常駐させる必要がなく、前線で戦わせることができる。国同士の戦いが激化しつつある今、大型の設置型攻撃魔法や重要拠点をすっぽりと覆うことのできる強力な防御壁魔法は、他国に対しての大きなアドバンテージになるだろう。


 あまりにも辺境すぎて、どの国の土地かすら定かではなかったその遺跡が奪い合いで破壊されないよう、一番近かった国が主体となりその土地だけの奇妙な平和協定が結ばれ、遺跡のすぐそばにあった小さな村には古代魔法を求めて一気に人が集まった。


 人が集まれば、金も集まる。多くの研究者が滞在するようになり、需要を求めて商人の旅団が立ち寄るようになり、村人全員で20にも満たなかった名も無き辺境の村は一転、多くの研究者が宿にあふれる賑やかな宿場町となった。


 ――しかし、それも長くは続かなかった。


 どの国でも、研究者たちが自国での研究用にと喜々として持ち帰った大きな魔法陣は、発動すらしなかったのだ。原因は、魔法陣を発動する為の大気中の魔素の、圧倒的な不足であった。


 古代語で描かれた魔法陣に体内の魔素を込めようにも、古代語に対しての深い理解が必要で、それならば詠唱して普通に攻撃魔法や防壁魔法を使ったほうが早いし楽である。その為、魔法陣は戦争で役に立つことはなかった。


 古代魔法がまともに使えないとわかり、各国は次々と研究から手を引いた。賑やかだった宿場町はあっという間に廃れ、残ったのは多くの空き宿と、もともと村に住んでいた僅かな住人、そして個人的に古代魔法を研究していた研究者だけになった。


 それでも、物好きな辺境貴族らの資金的な手助けにより研究はほそぼそと進められ、遺跡が発見されてから十数年後、小さな火を起こす魔法陣や、砂漠の中心でも冷たい水が飲める魔法陣を使った、いわゆる魔法アイテムが発明された。


 これらは、体内に魔素を有していない一般人でも、一番安くて小さい魔素補充液(マソポーション)を割るだけで使える便利グッズとして広く使われるようになり、表向きの平和協定だけが残り廃村のようになった村には、再び商人が定期的に訪れるようになり、その恩恵により畑を潰して宿を増やした村は食うに困らないだけの活気は取り戻した。


 その古代魔法を使った魔法アイテムを開発したのが、当時15才だった私を含めたモノ好き研究者チームである。収入の少ない村のために、仲良くなった他国の研究者たちと様々なアイディアを出しあい、魔法アイテムを作り出したのだ。


 その中でも、魔法陣を小型化したり、どこで採れるかもわからない魔素石という鉱石の代わりに魔素補充液マソポーションを使うなどといったアイディアを形にしたのは私だ。

 さらに、個人的に古代語を地道に一文字ずつ意味を調べ、一部の魔法陣を詠唱文に翻訳することにも成功した。これは多くの研究者が成し得なかったことだったが、正直なところ現在の魔法と効果がまるまる被っているものが多く、残念ながら役には立たなかった。

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