1年の半分がツイてる男
オレの名前はアゴート・ベル。ヒュランドルを拠点にしているパーティー“牙を折るもの”のパーティーリーダーだ。
今日は、傭兵ギルドで受けている仕事をまっとうするため下の森へと分け入って、2日目である。牙を折るものは、そのパーティー名が示している通り魔獣狩りを専門にしていて、ランクB傭兵のみで構成されている。今日も目的は魔獣の討伐だ。
オレは魔獣と対峙しながら口の端を上げた。
「よーし、目的のヤツじゃあないが、今日はコイツを狩って帰るぞー!」
「おっけ~。」
「はい!」
「ツイてる日だからって気ぃ抜くなよー。」
「うっし!」
4人のパーティーメンバーからのしっかりとした返事を受け止め、口を開く。
「さあ、いつものように軽くひねってやろうぜ!」
今日は2日に一遍の、ツイてる日である。この仕事は成功するとオレの勘が告げている。
オレはオレの“武器”である大盾を構え、4級の魔素クリスタルをひとつパキッと割って、魔法陣が発動する気配を感じながらじりりと魔獣へと近づき始めた。
パーティーのリーダーであるオレは、魔盾士だ。魔法陣の刻まれた大盾と小斧を装備し、防御壁を展開しつつ先陣を切り、敵が倒れるまで盾で殴り倒す。
もちろん魔剣で切ったほうが攻撃力はあるし、離れたところからの魔法陣で一撃入れるほうが安全だ。当然、霊獣化のようにすばやくも動けない。だから魔盾士は魔弓士と同じくあまりいないのが現状だ。
しかし、魔盾士には他職にはできないことがある。それは、パーティーメンバーを庇えることだ。
オレはパーティーリーダーとして、パーティーメンバーを守らなくてはならない義務があると考えている。最終的に仕事を受けるか受けないかを決めるのはオレだし、日程を決めるのもオレだ。パーティーメンバーの生活はオレにかかっているといっても過言ではない。
そんな大切なパーティーメンバーを守るために必要なことは、パーティーメンバーが常に万全の体調でいることだ。できるだけ怪我をせず、できるだけ病気をしない。特に魔獣との戦いで怪我をすると何日も休まなければならなくなるので、怪我には一番気をつけなければならない。
そこで魔盾の出番だ。
オレの盾はヒーター型と呼ばれる多少幅のある丸みのある逆三角形の盾で、上部は角ばり、そこから緩やかに膨らみのある曲線を描きながら下部の逆三角が形作られている。オーソドックスなタイプの盾だ。
高さは1メートル強あり、完全に盾に隠れてしまうと前が見えないので視界を確保するための細いスリットがいくつか開けてある。
大盾には小斧も装備されていて、ちょっとした攻撃ならこれを使うこともできる。
この大盾を自在に操りオレは味方が危ないときには割って入って庇う。
魔獣の体当たりでさえ、オレの大盾は受け止めることができるのだ。
今日の相手は四足歩行型でやや細身、体高は2メートルほどだろうか。顔は白と灰色の斑模様の狼だが、口があるだろう場所には白い嘴がついている。背中には尾まで白いたてがみが続いていて、根本が太く先が細くなっているトカゲのような尾が縦に2本生えており両方ともが長い。この尾はそれぞれが自在に動かせるものだと考えたほうがいいだろう。足は4本とも獣足で、何かをつかめるというわけではなさそうだ。
――オレの最も得意とするタイプの魔獣だった。
ツイてる。が、しかし油断はしない。ここは下の森で、しかも中腹よりやや奥。魔獣はこいつだけではないのだから、さっさと倒すに限る。
「ギャァアアアアア!」
魔獣が吠えるのと、オレが突進を開始したのは同時だった。
魔法陣を発動させ防御壁を展開させた状態での体当たり、いわゆるシールドバッシュだが、これは当たるとは考えていない。むしろ当たったらラッキーくらいである。
魔獣も当然のようにオレから向かって右側に跳ねるように避けるが、残念、そこにはルルーがいるのだ。
ルルーは5人いるパーティーメンバーの中のひとりで、魔剣士だ。もちろん振りかぶった剣はすでに魔法陣が発動していることを示すように白い光を纏っている。
「はぁっ!」
魔獣は死角から突然現れ最高のタイミングで振り下ろされた剣を避けるためにオレがいる左へと跳ぶ――と見せかけて急に進路を変えて後方へと跳んだ。それは完璧なフェイントで、まんまと騙されたオレは渾身の体重のこもったシールドバッシュをかわされてたたらを踏む。
「リーダー!」
――ヒュバッ
隙を突かれないようにとオレを掠めてテトリアートの魔矢が魔獣へと向かえば魔獣はそれを尾で叩き落とし、続いて飛来したギアベルトの放つ氷の矢は左の前脚ではたいた。その瞬間、パキキと音を立てながら氷の矢は魔獣の足を凍りつかせ、その氷は足先を全て覆う。
たまらずギャァと声を上げその場を飛び退いた先で、「来たな!」と待ち構えていた獣人のゴージが霊獣化で強化した右の拳で魔獣の左頬を撃ち抜く。そして反撃とばかりにゴージを貫こうとした2本の尾の片方をオレの盾が止め、もう片方の尾はルルーが切り落とす。
更に魔獣の目を狙って続けざまに3本放たれた魔矢のうちの一本が目を居抜き、そこへ被せるように氷の矢が続いて、射抜いた目のあたりから首までを完全に凍りつかせた。
魔獣は片目を潰され痛みと死角が増えたことで焦ったのか、全身の力を込めて高くジャンプしオレや前衛3人を飛び越えると、矢を射たであろう後衛2人に飛びかかる。
しかし牙をむく前に魔獣へとたどり着いた獣人のゴージが後ろ足に体当たりをかましてバランスを崩させ、その間に後衛二人は左右に逃げ、追いついてきたルルーの光の帯引く一閃が魔獣の左後ろ脚を切り飛ばした。
「ギェァッ」
負けじと残った一本の尾を振るうがオレの盾がそれを跳ね返し、ルルーがその場からすぐに離れる。魔獣はその跳ね返された勢いのある尾を今度は獣人のゴージへと向けるが、すばやく回避されてしまい、尾は大地を叩いた。
直後畳み掛けるように魔矢と氷の矢が魔獣を貫き、凍らせ、そこにゴージの腹部への殴打が入り、最後はルルーが胸を貫いて、魔獣は力尽きたようだった。
「完璧っしょ。」
フン、と鼻を鳴らしてゴージが言えば、
「魔核取らなきゃ!」
と、ルルーが腰に下げていた短剣の魔法陣を発動させ、腹をかっさばいてまずは魔核を抜き取った。それから、売れそうな爪などをとっていく。内臓はギアベルトがすぐさま凍らせて、できるだけ匂いを抑えるのも忘れない。
「よーし、じゃあちゃっちゃと素材とって帰――」
ギァ――――――!!!
オレの声をかき消すようなビリビリと空気を震わせる咆哮と、直後にズドンという腹に響く爆発音。
慌てて音のしたほうを見れば、そこにはこちらを威嚇する新たな魔獣の姿があった。




