6-1 ロマリアの街案内 その後
リネッタと別れた、その帰り道。
孤児院に曲がる角の手前で、私は見知らぬおじさんに声をかけられていた。
「ロマリアちゃんだね?」
私はびっくりして、一、二歩後ずさる。大声を上げるために息を吸ったが、それを見たおじさんは慌てて私から離れた。
「な、なんにもしない!別に危害を加えようと思ったわけじゃあない!私は、西大陸魔術師協会所属の、キーレスという者だ!」
西大陸魔術師協会。その名前を聞いた私は、疑いながらもとりあえず叫ぶのはやめた。しかし、ここは壁内とはいえ、人攫いも出ると聞いている。気を抜いてはならない。
「その、魔術師協会の方が、孤児の私に、何か用ですか?」
ふと、リネッタについてかと思い、もう少し後ずさりして距離をおいてから、私は口を開いた。
「君が、魔素クリスタルを生成していると聞いたんだ。もし本当なら、君と、孤児院にとって、いい話があるんだ。少しだけ、私の話を聞いてくれないか?」
ああ、なんだ、いつもの話か。と、私は心のなかで小さく安堵した。
よくあるのだ、私が生成した魔素クリスタルを買い取りたいという話が。
「私の魔素クリスタルは、残さず全て買い取っていただいています。お譲りすることはできません。もし、まだ何かあるようでしたら、私ではなく、院長に直接お願いします。」
「知っているよ、城詰め殿が、生成した魔素クリスタルの半分を直接買い取っているのだろう?残りの半分は、国直営の魔道具店に卸されていることも知っている。しかし、きちんと指定された数を収めなくてはならないわけではないことも知っているよ。」
テスターさまの名前に、首筋がひやりとする。
リネッタとの話を聞かれていたのだろうか……いや、リネッタには、テスターさまの名前は言っていない。どこかで調べてきたのだろうか。私は唇をきゅっと結んで、返事はしなかった。
今、私が生成した魔素クリスタルは“全て”、テスターさまが買い上げてくださっている。でもそれを知っているのは自分と、マニエ、そして斡旋所のコランジュさんとテスターさまだけだ。
「だから、少しだけでいいんだ。ロマリアちゃん。たくさん作れた時だけでいいから、うちに直接卸してもらいたい。それなら、城詰め殿に迷惑をかけることもないし、孤児院には今以上のお金が入るし、魔術師協会にも恩が売れて、いいことしか無いとは思わないかい?」
「……。」
孤児院に今以上にお金が入る、と聞いて、返答に迷う。それを察したかのように、魔術師協会のキーレスと名乗ったおじさんは、にっこりと笑って続ける。
「ただ、これは内緒の話だから、“まだ”誰にも話してはいけないよ?ロマリアちゃんも知っていると思うけど、城詰めの魔術師はみんな、魔術師協会のことが嫌いだからね。もちろん、院長殿にも、“まだ”内緒だ。でも、孤児院にお金が入れば、きっと院長や他の子供達は喜ぶと思うよ。
また会いに来るから、孤児院と、そこにいる子どもたちの為には何が一番必要なのか、ロマリアちゃんにできることは何なのか、じっくり考えてみるといい。返事は急がないからね。」
そう言うと、キーレスはすぐに何処かへ歩いて行った。
私は、結局、何ひとつ返事をすることはしなかった、というよりも、できなかった。
――今以上のお金がもらえれば、孤児院のみんなの食事はもう少しマシなものになるかもしれない。
ふとそんなことが頭の隅をよぎったが、城詰めの占術師さまや魔術師さまが、魔術師協会の魔術師さまたちと仲が悪いのは、もはや王都では公然の秘密となっている問題だ。なぜかは分からないが、お互いがお互いのことを忌み嫌っているのだ。
だから、私の魔素クリスタルを魔術師協会に少しだけでも卸すというのは、城詰めの魔術師さまを裏切るのも同然だと、私は思ってしまう。
お金か、信用か。
私はしばらく、この提案に悩まされることになる。




