3-5 魔素クリスタル 3
「うーん。」
ロマリアが今日出来たぶんの魔素クリスタルをマニエに持って行っている間、私は魔素クリスタル生成の魔法陣とにらめっこしていた。
そもそも、魔素は毒だとか、体内ではなく周辺の魔素を小石に定着させるだとかいった間違った認識を改めないかぎり、たぶんロマリアは上達しないだろう。しかし、私がそんなことを言ってもロマリアはきっと信じない。
ロマリアに魔素クリスタルの生成を教えた魔術師に直接話を聞きたいが、いくら優しくていい人だろうと、魔術師が獣人である私の話をまともに聞いてくれるかは怪しい。
ちらりと私は小石が詰まった麻袋に目をやる。
庭で拾ってきたというその小石はまだまだ山ほど残っており、2~3個無くなっても気づかれることはなさそうだ。
私は、小石の中の、特に小さいものを5個ほど見繕って、魔法陣の中心に置いた。そして自らの魔素をゆっくり流し込んで魔法陣が発動したことを確認すると、ためしに小石に自らの魔素を当ててみた。
存在が不安定になった小石には面白いほど魔素が吸収され、みるみるうちに小石は透き通っていき、5分程度でロマリアが生成した魔素クリスタルと同じくらいの大きさに成長した。
しかし。
「あっれ……。」
なぜか、一定の大きさに達した直後、5個中3個の魔素クリスタルはパキンと割れてしまった。中の魔素もすぐに大気に溶けて、魔素クリスタル自体が消えてしまう。
しかも、残った魔素クリスタルは、高価なガラスよりも透き通っていて、ロマリアのものとはだいぶ見た目が違う。
その2つの魔素クリスタルと数個のロマリア製魔素クリスタルを見比べながら、私はなんとなく、内蔵されている魔素の量によって魔素クリスタルの透明度が変わるのではないかと考えた。
核の大きさにより込めることのできる魔素の量が変わるのかも、と考えた私は、続けて大きめの小石を5個使って、同じように魔素クリスタルを生成する。
また5個中2個が割れてしまったが、最初の小さめの小石よりも一回り大きな魔素クリスタルが生成できた。やはり、核の大きさによって違うのだろう。
そうして完成した私製の魔素クリスタル5つだが、どう見てもロマリアのものにこっそり混ぜておくことはできなさそうである。
しょうがないので魔素クリスタルはポケットにジャラジャラと入れて、私は残りの時間、魔素クリスタル生成の魔法陣をじっくり観察することにした。きっと、この魔法陣や翻訳の魔法陣も詠唱に翻訳できるはずだ。
魔素クリスタルの生成が魔法陣なしで出来るようになれば、孤児院を離れてからも一人で生活していけるだろう。
魔法陣に描かれた模様と古代語を、頭に焼き付けるようにじっくりと見る。本来は獣皮紙にでも描き残せるといいのだが、さすがにないものねだりか。
杖があれば、もうちょっとスムーズ、……に……?
「あ。」
ここまで考えて、私は、はたと思考を止めた。
――私の杖。
そう、一緒に転移したはずの、私の杖はどこへ行ったのだろうか。
小さい頃から愛用していて、私の知識を全部使って様々な(魔)改造を施した、私の大切な愛杖。
マニエもヨルモも何も言っていなかったので、もしかしたら地下にまだ置かれっぱなしになっているのかもしれない。
今すぐにでも地下に向かいたいが、さすがに一人で孤児院を徘徊するわけにもいかないだろう。
杖のことは後でマニエにでも聞くとしよう、と思考を切り替え、私はすぐに魔素クリスタル生成の魔法陣に視線を戻したのだった。




