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隣世界のリネッタ  作者: 入蔵蔵人
孤児院のリネッタ
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3-4 魔素クリスタル 2

 一体どういうことなのか。


 私は、魔素クリスタル生成用の魔法陣と出来上がった魔素クリスタルを交互に見つめて、小さく唸る。

 あまりにも……あまりにも、言っていることと実際やっていたことが食い違っている。


 そもそも、魔素が毒というのが意味がわからない。人の体はもとより、草木やそれらが生えている大地、水や火、家畜や獣、もちろん魔獣だって、この世界に存在するありとあらゆるものは、全て魔素でできているのだ。


 私が居た世界レフタルでは、魔素を多く含む海水を濾過し、できるだけ魔素の純度を高くした魔素補充液(マソポーション)を直接飲むことで体内の魔素を補充していた。傷口にかけてから回復魔法を使えば魔法の効果が上昇するという効果もあった。


 もしこの世界の魔素に毒性があるというのなら、毒性を持った時点でそれはもう魔素ではなくただの毒である。


 まあ、魔法を使えば体内の魔素が減って体がだるくなるし、魔素補充液(マソポーション)も飲み過ぎれば魔素酔いになって体の感覚が鈍る。たぶん、それで魔素に毒性があるのだと勘違いしているのかもしれないけれど。


 魔素クリスタルの生成について、ロマリアは“魔素クリスタルは、周囲の魔素を核となる小石に集めて固めて生成する。魔法陣はそれをやりやすくするために発動させる。”というようなことを言っていたが、実際は違う。


 何回か生成するところを見ているうちに分かったのだが、魔法陣を発動すると、まず小石本体に魔法陣が作用して小石を魔素に近い不安定な状態にする。

 まだ想像の段階だが、こうして小石を構成している魔素を不安定にすることによって、外からの魔素が融合しやすくなるのだと思われる。小石が灰色なのに対し、魔素クリスタルが濁った半透明のクリスタルなのは、小石の大部分が魔素に戻って魔素の純度が高くなるからだろう。


 そして、ロマリアは周囲の魔素を一旦体に取り込み(・・・・・・)手のひらから(・・・・・・)石に向けて放出することで魔素を小石に再構成していた。この時、小石を構成している魔素とロマリアから放出される魔素が融合してじわじわと結合していき、その過程で魔素クリスタルが少しずつ大きくなっていくのが見て取れた。


 しかし、ここで問題が起きる。


 それは、ロマリアの手のひらから放出される魔素にあった。


 どうみても、手のひらからは放射状に魔素が放出されているのだ。

 つまり、(じか)に小石に届いている魔素は、それこそ一割にも満たないだろう。魔法陣の中の魔素はゆっくりと渦を巻くように小石に向かって流れているので、実際に小石にはそれ以上の魔素が吸収されているようだったが、それでもよくてロマリアが放出している魔素の3~4割である。


 それで魔素クリスタルを2個生成するのだから、1個につきよくて2割の魔素しか吸収されない計算になる。しかも、出来上がったうちの1つは次の魔素クリスタルの生成に消費するというのも効率が悪い。


 なぜ、こんなことになったのか。


 この生成を見た魔術師には褒められたらしいが、これでは、その褒めてくれたとかいう魔術師は、魔法の使えない一般人なんじゃないかと疑いたくなる。


「あれ?どうしたの?リネッタ。考え込んじゃって。」

「え、あ、えーっと……。ねえ、ロマリアは、この魔素クリスタル生成を、誰から習ったの?」


 私がそう聞くと、ロマリアは、ふわりと頬を赤くした。


「お城で魔法陣の研究をされている魔術師さま。魔素クリスタル生成を教えてもらう代わりに、私が生成する魔素クリスタルの最低半分は、その城詰めの魔術師さまが買い上げてくださることになってるの。」


 なんということだ。


 私は眉をひそめ、こめかみをおさえた。

 城詰めの魔術師?もしやそれは、昨日ロマリアが教えてくれた、国で認められた魔術師の中でも特に力があって、城で毎日魔法の研究をして暮らしているという、なんとも羨ましいエリートのことだろうか。いや、間違いなくそうなのだろうが……


「たま~に、直接お会いできる機会があって、そのたびに魔素クリスタルの生成を見ていただくんだけど、毎回、褒めてくださるんだよ~。しかも、お優しくて、かっこいいの~!」

「そうなの……。」


 私の心のうちなどわかるはずもなく、ロマリアは熱くなった頬を両手で覆ってうっとりしている。たぶんこれは、城詰めの魔術師がロマリアの憧れの存在、なのだろう。

 私もこういう時期があったのでよく分かる。


 私の憧れた相手は、通っていた魔法学校の理事長で、立派な白いおひげをたくわえた御年497才の森の民のおじいちゃんだった。ちなみにこれが私の初恋でもある。


 森の民の寿命は、体内に有する魔素によって500才~600才と幅があるが、魔素量のあまり多くなかった理事長は、497才の時点で本当にご老体だった。しかしその経歴は輝かしく、名実ともに魔法研究の第一人者と呼ばれ、種族の壁を超えて平原の民のための魔法学校の設立にも一役買い、その設立当時から理事をしていたらしい。

 そして彼もまた、転移魔法の研究で行き詰まっていた一人だった。


 私は、彼の影響で転移魔法に興味を持ったといってもいい。元の世界に帰れるのならば、真っ先にこの体験を話したいひとりである。……それまで生きていればの話だが。


 まあ、それはさておき、こんな効率の悪い魔素クリスタルの生成を見ておきながら、なにかアドバイスをするならともかく、褒めるだけとはどういうことだろうか。しかも、間違った知識をも与えて一体何がしたいのか。


「ねえ、ロマリア。魔素クリスタルって、どれくらいの大きさまであるの?」

「大きさ?えっと、確か……特級、1級、2級、3級、4級ってあって、その次に私が今作っているこの小さいのが、5級で一番小さいやつだよ。これより小さいものは6級とかクズとかって呼ばれてるけど、売れない、かなあ。一応、灯りとか火をつけるのに不自由はないけど、たまに失敗するし。」

「4級より高いものは、あまり必要がないの?」

「えっ全然そんなことないない!魔獣の討伐とかには大きな魔法陣も使うみたいだし、3級以上の魔素クリスタルが生成できるようになって、国のお抱えの生成師として認められると、歴王(オルカ)さまからお家が戴けるんだよ!しかも、王都の第二壁内に!」

「家。」

「そう、お家!」


 つまり、国を上げて、魔素クリスタルが生成できる人材を探しているということで、ますます、国に仕えている城詰めの魔術師がロマリアの間違いを正さないわけがわからなかった。

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