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隣世界のリネッタ  作者: 入蔵蔵人
森の国のリネッタ
110/295

とあるヒュマの傭兵たち

「完全に見失った……。」

「さすがに霊獣化(バーサーク)した獣人(ビスタ)に追いつくのは無理だろ。足手まといなら置いてってくれって言ったのは俺たちだし。」

「いやあ、本当に置いていくとは思わないじゃん?」


 そんな会話を交わしながら森の中を進んでいる2人組がいた。


 片方は、中途半端に長い黒い髪を後ろでくくって短い尻尾のようにしている、中肉中背の(ヒュマ)の男。背中にはクレイモアを背負っているが、腰にも長剣をさし、さらに手には短剣と、3本の剣を装備していた。

 もう片方は、短い茶髪のこれまた中肉中背の(ヒュマ)の男で、こちらは右手に長剣を持ち、左手には短剣をもっている。

 凡庸を地でいくような、2人組の(ヒュマ)の傭兵だった。


「それにしても逃げる一択だとは思わなかったわ。……もっと、こう、さあ?絶対に殺す!みたいに襲い掛かってくるもんだと思ってたよ、俺。」


 茶髪の男が首をかしげて今日何度目かになるその話題を持ち出すと、何度も聞いたにも関わらず、黒髪の男も「俺もそうだと思ってた。」と何度もうなずいて見せた。


「たしかにこっちは40人くらいいたし、うち20人は魔人(ドイル)討伐騎士団だったけどさあ。何も、いきなり逃げるこたないよなあ。」

殺戮(さつりく)火鬼猿(かえん)の名が泣くな。まあそのおかげで、命のやり取りをせずに済んだからありがたいっちゃありがたいだろ。」

「昨日は結局逃げられて、今日も見つからなかったら仕事は終わり。報酬半分、だもんなあ。」

「それはないよなあ。」

「俺たち、腐ってもBランクの傭兵なんだけどなあ。」


 2人そろって肩を落とす。


「騎士団の連中は結局最後まで動かなかったし、ランクA傭兵の連中は街を守りに帰っちまったし、俺たちもそろそろ街に引き返すか。」

「それもありだなー。」

「帰るか。」

「帰ろうか。」

「野宿はごめんこうむりたいからな。川と平行に歩いてなきゃ、そろそろ突き当たるんじゃないか?」

「川伝いに行けば、街道に抜けられるんだっけか。」



 黒髪の男が言う通り、ほどなくして2人は大きな川のほとりに出た。

 川の幅はひろく、流れは緩やかだ。さらさらと心地よい水の音が野鳥の声と相まって、この森に魔人(ドイル)がいるかもしれないことを除けば、魚でも釣りつつ平穏を謳歌(おうか)したいような――


「ん?……、……おお?」


 ぐるっと周囲を見回した茶髪の男が、その平和な風景に似つかわしくないものを見つけ二度見する。


 ――それは、子供のように見えた。


「誰か倒れてる!」

「はあ!?」


 茶髪の男が慌てて近寄ると、それは茶色い髪に茶色い耳、スカートの中から茶色い尻尾をのぞかせた、幼い獣人(ビスタ)の少女だった。


 溺れたところをなんとか岸までたどり着きそこで力尽きたのか、川の水に半ばまで浸かっていたために体全体がぐっしょりと濡れて、さらに尖った岩にでもぶつけたのだろう、着ている(だいぶ黄ばんではいるが、まだ)白いワンピースには血が滲んでいたが、意外にも少女の呼吸は安定し顔だけ見ればすやすや眠っているだけのようにも見える。

 気を失っていても肩から下げている革鞄の紐をしっかりと握りしめているが、この鞄にはよほど大事なものがはいっているのだろうか――?


「やーばい、これはやばいって。え、これ、どうすんの。」


 とっさに少女を抱き上げた茶髪の男があからさまに狼狽(ろうばい)しながら黒髪の男を見上げてうめく。

 黒髪の男は「あー。」と腰に手を当ててそれを見下ろし、「拾って帰るしかない、だろ。」と答えた。


「だよなあ。」

「まあ、迷子だろうし感謝はされてもお叱りは受けないだろ。」

「だといいなあ。」

「見つけたもんはしゃーないって。」


 そんなことを言い合っていると、ふいに少女が身じろぎして「うう。」と呻く。


「お?起きたか?おい、大丈夫か!?」


 うっすらと目を開けた少女の顔を覗き込みながら、黒髪の男が心配そうに声をかけた。

 しかし獣人(ビスタ)の少女の口から漏れたのは、「あ……ごはん……。」という一言だけだった。

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