3-2 仕事よりも気になること
「ロマリアは、魔素クリスタルを作る仕事をしていたのね。私、魔素クリスタルを生成しているところが見てみたいわ。」
斡旋所からの帰り道、うなだれたままのロマリアに、私は切り出した。
「魔素クリスタルって、魔法陣を発動させる時に使うあの半透明の石よね?あれは、魔素に適応がある人なら誰でも作れるわけではないの?」
そもそも、魔素クリスタルは鉱石の一種だと思っていた私は、魔素クリスタルは生成するもの、との言葉を聞いて驚いていた。
小さな魔法陣ですら魔素クリスタルを一つ消費するというのだから、需要は計り知れない。生成できる人が少ないということは、供給が追いついていないのではないだろうか。
魔法陣の技術が発展しているというのに、その一番肝心な材料ともいえる魔素クリスタルが不足しているというのは、ちょっと考えられない事ではあるのだが……。
真剣にロマリアを見つめる私に、ロマリアはなぜか半ば呆れたように私にチラリと視線を向けたが、小さくため息を吐いて空を仰ぎ口を開く。
「魔素の適応がある人でも、魔素クリスタルが作れる人は少ないみたい。国に認められた魔術師さまや占術師さまの中でも、生成出来る人は少ないって聞いたよ。」
「どうして?」
「分かんない。」
「うーん?」
「だから、一番小さい5級の魔素クリスタルは常に不足気味で、魔術師さまも困ってるって言ってた。まあ、城詰めの魔術師さまくらいになると小さな魔法陣なら魔素クリスタルは必要ないらしいけど、普通はそうじゃないしね。
あと、これも魔術師さまが言っていたんだけど、5級の魔素クリスタルが不足してるのは、王都の富裕層の間で、水とかお金の必要ないものも魔法陣に頼るってのが流行ってるからみたい。今、第二壁内では、井戸で水を汲むのは世間体?が悪いんだって。
孤児院でも灯りとか……特に薪は高いから、かまどの火とかにも魔法陣を使ってるけど、水とかを魔素クリスタルを買ってまで魔法に頼るのは、よくわからないよね~。」
なるほど。私はロマリアの言葉を聞きながら、内心で納得していた。
小さな魔素クリスタルがひとついくらになるかは分からないが、こまごましたことにも魔法陣を使うことが一種のステータスになっているのなら、5級の魔素クリスタルでもいい金額で売られているのだろう。
質の良い大きな魔素クリスタルはさらに高いわけで、そういった高額な魔素クリスタルは魔術師くらいしか手を出さないのかもしれない。
質の悪い5級の魔素クリスタルだけが不足しているのならば……まあ、研究者が泣くくらいか。
「そんなわけで、報酬がいいわりに、孤児院にいる私にも仕事が回ってくるんだ~。私の場合は、ちょっと特殊だったけど……。
でも、魔素クリスタルを作れても魔法陣の発動は苦手って人もいて、魔素クリスタルが生成できても、良い魔術師になれるってわけでもないんだよね。
ほら、意思疎通の魔法陣を扱える子がもう一人いるって言ってたでしょ?マティーナっていうんだけど、私より魔法陣の扱いが上手くて、孤児院を出たら魔術師さまの助手として働くことが決まってるんだけど、なんでか魔素クリスタルは作れないんだよね~。」
「ふうん……?」
私は顎に手をやって小さく唸った。
どういうことだろうか。
魔法陣は、発動は魔素クリスタルを使うのだし、発動後は大気の魔素を消費するのだから体内の魔素量は関係ないはずなので、魔法陣を発動するのも魔素クリスタルを作れるかどうかも、魔素の扱いの得手不得手だけのはずだ。
特に、国に認められるほどの魔術師は、魔素クリスタルがなくても魔法陣が発動できる、つまり体内の魔素をうまく魔法陣に込めることができるということなのではないだろうか?だというのに、魔素クリスタルは生成できないというのはちょっと考えられない。
実際、生成しているところを見てみなければ分からないが、魔素の扱いが得意なら、魔素クリスタルの生成も得意だと思うのだが……。
「まあ、リネッタが見たいなら見てもいいよ。」
「本当!?」
私が視線を向けると、ロマリアは苦笑いをしながら私を見た。
「仕事が見つからないってのに、もう。そんなキラキラした笑顔でこっちを見ないでよ。」




