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第六話 狼の牙と偽物の身体

「くっ! ううっ!」

 アルファルドは翡翠の欠片の群生地に向かっていました。

 その途中で、森に棲む狼と遭遇してしまいます。

 狼たちはアルファルドの姿を見るとすぐに襲いかかってきました。

 鋭い牙はアルファルドの身体に噛みついてしまいました。

 強靱な爪はアルファルドの身体を何度も引き裂きました。

 何匹もの狼に襲われながらも、アルファルドは前に進み続けます。

「う……うぅ……」

 痛みは感じません。

 けれど噛みつかれるのは怖いです。

 引き裂かれるのは恐ろしいのです。

 狼に飛びかかられると、身が竦んでしまいます。

 怖くて逃げ出したくなってしまいます。

 無機物の身体には罅が入って、割れているところもあります。

 けれど痛くはありません。

 ただ、身体が壊れていくだけです。

 動くことは出来ます。

 恐怖を心の底に追いやって、勇気を心の奥から手繰り寄せて、アルファルドは目的を果たす為に進みます。

 傷ついて、前に進んで、また傷つけられて。

 アルファルドに痛みはありませんが、それでも身体が壊れていくのはとても怖いと思いました。

 この身体が壊れれば、アルファルドは死んでしまいます。

 普通の人形ならば、身体が壊れても作り直せばいいだけです。

 けれどアルファルドはこの身体に心を宿しているのです。

 肉体の破壊は、心の死に繋がります。

 身体が破壊されるほどに、心が壊れていくのです。

 アルファルドは刻一刻と死に近付いています。

 けれどそれが何だというのでしょう。

 この恐怖を、ステラはずっと味わってきたのです。

 家族の死を経験して、そして自分の死を予感して、ステラは日々を生きています。

 一日ごとに近付く死を覚悟しながら、それでもステラは生きたいと願っているのです。

 だからこそ、アルファルドはステラに生きて欲しいと願いました。

 その為にこの身体を使い、この命を捧げようと決めたのです。

 ステラの為に生まれてきた自分は、きっと彼女を生かす為にここにいるのだと、自分でそう決めたのです。

 だからアルファルドは願います。

 たった一度だけでいいのです。

 心からの笑顔を見せて欲しい。

 ステラの幸せを見届けたい。

 それだけで、きっと自分は報われるから。

「ステラ……ステラ……笑ってください。そうすればきっと、幸せになれるから……」

 人間にとっての幸せがなんなのか、人形であるアルファルドには分かりません。

 けれど、笑顔になるのは幸せになる時だ、ということぐらいは分かります。

 だからこそ、彼女の笑顔を目指すのです。

 その為に、アルファルドは進みます。


 そして辿り着きました。

 翡翠の欠片の群生地に。

 身体はボロボロになってしまいましたが、まだ動くことは出来ます。

「綺麗だなぁ……」

 翡翠色の花が咲き誇る群生地は、まるで宝石が散りばめられたような美しさでした。

 太陽の光に反射して、キラキラと翠緑の輝きを見せてくれます。

 翠緑の花びらが咲き誇り、その中心に薄緑の珠があります。

 これが翡翠の欠片の胚珠です。

「これで、ステラの病気を治すことが出来ます」

 アルファルドは翡翠の欠片を一つ手にとって、大事に袋へと入れます。

「待っていてください、ステラ。すぐに持って帰ります」

 その袋を守りながら、アルファルドは再び狼の群れが潜む帰り道へと足を踏み出しました。



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