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第四話 少年の決意

 アルファルドはリゲルの家に戻りました。

 そして報告を行います。

 ステラにはなかなか受け入れて貰えないことも含めて、悩みを相談しました。

 どうしたらもっとステラと仲良くなれるのか、リゲルに教えてもらいたかったのです。

「うーん。難しいとは思っていたけれど、やっぱり難攻不落だね、ステラは」

 困ったように頭を掻くリゲルは、落ち込んでいるアルファルドを慰めてくれました。

 白い髪をくしゃくしゃと撫でて、あまり気にするなと言ってくれます。

「それにしても『アルファルド』か。寂しい名前を付けられてしまったね」

「孤独、ですよね。僕にはそれがお似合いだと言われました」

「それは酷いな。君には俺が居るだろう? 孤独なんかじゃないのに」

「そうですね。マイスター・リゲルが居てくれるなら、僕は孤独ではありません」

「でも傷ついているね」

「……悲しいとは思います。でも、それでもステラを恨むことは出来ないんです」

 酷い名前を付けられました。

 酷いことも言われました。

 けれど、ステラはアルファルドに酷いことを言う度に、とても辛そうにしているのです。

 傷つける為の言葉なのに、同じぐらい、自分も傷ついているように見えてしまったのです。

 だからアルファルドはステラを恨むことが出来ませんでした。

 どうやったら笑ってくれるのか、それだけを考えているのです。

 ステラの病気についてはリゲルに聞いています。

 同じ病気で家族が死んでしまったことも知っています。

 けれど、ステラはまだ生きているのです。

 死が近付いていても、諦めなければきっと病気は治ると信じています。

 その為に何が出来るのか、アルファルドはずっと考えています。

「今すぐにどうこう出来る問題じゃないと思うよ。ゆっくりと、時間をかけてステラに受け入れてもらわないとね」

「時間をかけて、ですか」

「まあ、難しいだろうけど」

「難しい?」

「ステラにはもう、ほとんど時間が残されていないからね」

「……治らないんですか?」

「治せないんだよ。どうしても」

「マイスター・リゲルにも?」

「治してあげたいとは思うけどね。それは無理なんだ。ステラに残された時間は、恐らくあと一月ほどだろう」

「そんな……」

 治ると信じていた希望は、あっという間に壊れてしまいました。

「何か、方法はないんですか? ステラの病気を治す方法が」

「……残念ながら。それが出来れば俺がとっくにやっているよ」

「………………」

 病気を治せるのなら、とっくに治しています。

 それが出来ないからこそ、せめて最期の時間を孤独に過ごさせたくなくて、リゲルはアルファルドを創ったのです。

 今はステラに受け入れてもらえないアルファルドですが、それでも怒りをぶつける相手がいるだけ、まだ救われると信じています。

 怒りも、悲しみも、寂しさもぶつけられない、たった独りの時間を過ごさせるよりは、嫌いな相手でも、傍に居てくれるだけできっと何かが救われると信じているのです。

「アルファルド。君も辛いかもしれないけど、どうか最期まであの子の傍に居てあげてほしい」

「……はい」

 アルファルドにはそう答えることしか出来ませんでした。

 傍に居ること。

 それだけが、最期に残された希望ならば、アルファルドはそうしようと決めたのです。

 人形の心は、人間の心に寄り添います。

 最期の瞬間まで、寄り添うと決めました。


                ♪


 少年がまだ人形ではなかった頃、彼は世界そのものでした。

 世界に漂う意志の欠片。

 それが『心』と呼べるものになったのは、集まるべき目印があったからです。

 心を持つ人形になって欲しい、という人形師の願いを目印に、それは集まりました。

 欠片は粒になり、塊になり、そして心になりました。

 少年の人形というカタチを得て、アルファルドという名前を与えられました。


 アルファルドは考えます。

 自分は何の為に生まれてきたのだろう。

 マイスター・リゲルにとっては生涯における最高傑作として。

 そしてステラという少女にとっては、最期の時間を一緒に過ごす相手として。

 今の自分はステラの為に存在するのだと思っています。

 だから考えます。

 ステラの為に何が出来るのだろう。

 何をしてあげられるのだろう。

 けれどお世話をする事以外、何も出来ないと分かってしまいました。

 何故なら、ステラ自身がそれ以上を望んでいないからです。

 話し相手になってあげることも、寂しさを紛らわせてあげることも、頭を撫でてあげることも、抱き締めてあげることも出来ません。

 ステラに望まれない人形は、ただ傍に居ることしか出来ないのです。


 リゲルはそれだけでいい、と言ってくれます。

 望まれなくても、受け入れてもらえなくても、傍に居るだけできっと何かが救われるから。

 本当にそうなのだろうか、とアルファルドは考えます。

 それは、本当にステラにとっての救いとなってくれるのだろうか。

 自分には何か、他に出来ることがあるのではないだろうか、と考えてしまいます。

 他の誰でもない、アルファルドだからこそ出来ることがあるような気がするのです。

 それが何なのかはまだ分かりません。

 けれどもしもそれが分かった時は、アルファルドは迷わずステラの為に出来ることをしようと決めました。

 終わりを定められた少女の幸せを、始まったばかりの少年は祈りました。




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