会談2
「お前は一体何者なんだ?」
「いきなりね。一族が言うには私は守り神らしいわ。」
「守り神?」
「そう。赤い瞳を持つ娘が生まれたら一族の繁栄が約束されるらしいわ。
その代わりその娘が立ち去ったら没落するそうよ。
だから生まれた時に家族から引き離されてこんな生活をする羽目になるの。」
それで退屈が高じて殺人ゲームか。
しかも重犯罪人たちをこれだけの短時間で倒すなんて、こいつとんでもない化け物だ。
「なんか失礼なことを考えてそうだけどまあいいわ。次の質問は?」
少女はそう言ながら足を組み替えて身を乗り出してきた。
「なんでボスを殺した?」
「ボス?ああ、あの白髪ね。あいつ今度は私を殺しに来たんだもの。
あなたをここまで送り込んだらもう用済みだから殺される前に殺したの。」
「なぜそんな事がわかった?」
「一族にも色々いるのよ。
私の事は単なる迷信だから解放すべきだと主張する者。
過激なのになると理由は同じだけど殺してしまえと主張する者。
私の力を変わらず頼ろうとする者。」
「つまりお前を殺そうとする動きがある事を守ろうとする者が教えに来たわけだな?」
「まあね。それにいつも銃を持ってこない白髪が今回に限って持ってきてたから確信できたわけ。」
そこまで話すと少女はやれやれといった感じでため息をひとつついた。
そして両手を頭の上で組むと「うーん」と言いながら背伸びをした。
「ねえ。そんな事より今度私をお前と呼んだら何が起きるかわからないわよ。
私の慈悲深さにも限度があるんだから。」
と少女はこちらに向き直ると全身に殺気を漂わせながらそう言ってきた。
ここは従うべきだろう。
「悪かった。なら君でいいのか?」
「まあいいわ。」
少女は肘掛に置いた腕に軽く頬杖をつきながらそう言った。
「あの動物達はお友達って言ってたが大蛇や熊みたいな猛獣までそうなのか?」
「退屈しのぎに一族が与えてくれた子もいるし、家の周りでお友達になった子もいるわ。
総じて言えるのはどの子も人間よりはましって事。」
「人間ってあの1Fのゾンビみたいなやつか?」
「失礼ね。あれが本当のゾンビよ。本人の意思を消して使役してるんだから。
あなた何も知らないのね。」
「あいつらも俺達みたいに。」
「違うわ。あんな最悪なやつらを一族が連れてきたなら一族そのものを滅ぼすわ。」
とかなり不機嫌に言った。
こいつならそんな事あっさりやってのけるだろうな。
「ならあいつらが勝手にここに来たのか?」
「そうよ。あいつらが勝手に敷地に入り込んで勝手にここに入ってきたの。
最初は退屈しのぎに様子を見てたけど、一族のせいで貧しい者が多く死んでいくとか散々文句を言うし、
政治がどうだの訳のわからない演説を延々と繰り返すし、
勝手に家捜しもするし、挙句の果てには私を拘束して連れ去ろうとするわでもう最悪。」
確かにそれは最悪だ。
どこかのテロ組織が噂を聞きつけたか、一族の誰かがリークしてやってきたんだろう。
「だから全員の意思を奪って静かにさせたわ。
それから柵を作らせたり雑用を色々やらせてたわけ。結構便利だったわよ。」
「あのボスをはめた落とし穴もか?」
「そうよ。今まで作ったことがあるんでしょうね。あっという間にあんな仕掛けまで作っちゃったわ。」
穴の下の陰険な仕掛けはそういうことか。
「でもそのうち困った事が起きたの。」
と少女はかなり嫌そうな顔をして横を向いた。
「ただ事じゃなさそうだな。」
「ええ。みんなどんどん臭くなるの!信じられる?猫だって身繕い位はするし、
他の動物だって水浴びくらいはするわよ。」
「風呂に入れと命じればいいじゃないか。」
「冗談じゃないわよ。あんなやつらにうちの風呂を使わせろって言うの?
でもほっとくと臭すぎるから、普段は地下にいるようにさせたわ。」
あいつらの事は本当に毛嫌いしているようだった。
「最後に聞きたいんだが。」
「何?」
「最初の約束の報酬は・・。」
「それは期待していいわ。頑張っている人を応援する事も大きな目的の一つなんだし。」
それはありがたいがあまり素直には喜べない。
「でも素直に与えたんじゃ面白くないわね。
ねえ。賭けをしない?あなたが勝ったら報酬は更に三倍、負けたらわかってるわよねえ。フフフ。
あなたはここを出て待たせてあるトラックで帰るんでしょう?
そこまでの鬼ごっこはどうかしら?」
「鬼ごっこ?」
「今から一分以内にこの館の外に出なければゾンビ達があなたを襲うわ。
時間内に建物を出たならそこから5分追うのを待ってあげる。
私がお友達を全部使ったらこっちが圧勝しちゃうから、追うのは1人だけにしてあげる。」
「待ってくれ!それって・・」
「もう始まってるわよ。60,59,58」
少女は勝手にカウントダウンを始めた。
それに聞かれたことに答える気も無いようだ。
俺は踵を返して全速力で部屋を出た。
道中すれ違ったゾンビはすべて無反応。
俺は正面の扉まで難なく辿り着いてそのまま外へ走り出た。
一度だけ振り返ったら館の2Fの窓に少女らしきシルエットが見えた。
多分こちらを見ながら笑っているのだろう。
俺はトラックまでどこをどう通ったか覚えていない。
それだけ必死だった。
トラックの姿を見つけて飛び乗って、運転手に俺以外全員の死亡を告げると運転手は黙って車を出した。
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今回の遊びはまあまあね。
あの男は無事にトラックに乗ったみたいだし後は一族に約束を守らせるだけ。
ハンカチで鼻を塞ぐのが億劫だったけれど、私は穴に落ちた白髪をゾンビに命じて引き上げさせて持っている銃を確かめさせた。
銃は普通だったけど弾倉の弾丸は銀の弾だった。
私を吸血鬼か何かだと思ってるのかしら。
不老不死の件といいなかなか面白いやつね。
私に歯向かわなければ重用してやっても良かったけどやっちゃいけない事をやったからにはそれなりの報いを与えなきゃね。
私はゾンビ達に館に戻るように指示をして全員入った所で館に火をつけた。
長くいた場所だけど特に気に入ってたわけでもないし場所自体に思い入れも無い。
火はあっという間に回り館全体が燃え出した。
その火を眺めているとやがて迎えのヘリがやってきた。