プロローグ
俺は兵員輸送用のトラックに乗っている。
周りには俺と同じ格好をした男達がいてこんな無駄話をしている。
「おい。メスガキ一人捕まえたら、結構な報酬もらえるなんていい商売だよな。」
とハゲ頭の下卑た男Aが言った。
「結構な前金ももらってるしな。しかもそのメスガキの血は今日に限れば不老不死の妙薬になるんだろ?たまんねえよな。」
と顔にタトゥーを彫っている男Dも同調した。
「おいおい。お前さんは不老不死になりてえのか?」
「金さえありゃこの世は天国だろ?金さえありゃな。」
「無けりゃ地獄だぜ?」
「そりゃそうさ。でも今回の報酬は破格だし、そのメスガキから死なない程度に血を抜きゃ天井知らずの値段でさばけるぜ。」
「売る当てはあるのか?」
「そこは蛇の道は蛇ってやつよ。」
会話がそこまで進んだ所で、1人の男が立ち上がった。
「さっきのブリーフィングでそれは許さんと言った筈だが?」
そう言って周りに睨みを利かせた。
それまで無駄話をしていた二人は顔色を変えてさっと下を向いた。
この男は雇い主側から派遣された指揮官だ。
白髪頭で中年後期といった風情だが全身から漂う殺気にはただならぬものがある。
その気になりゃこいつら二人くらいあっという間に始末してしまうだろう。
俺はさっきのブリーフィングの様子を思い出した。
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俺達は案内された部屋に入って適当に資料が置いてある席に座っていた。
入ってきた人数が10人になって満席になった所で、白髪頭の男がずかずか入って来てホワイトボードの前でこう言ったんだ。
「今からブリーフィングを始める。
私がお前達の指揮官だ。
まずお前達の呼称を決める。
私から見て左最前列のお前をA隣がB。そして次の列の最初がDその隣がEとさせてもらう。
残りはそのルールに従えば自分に与えられた呼称が何か分かるだろう。
その程度の事がわからないやつは選んでないつもりだ。」
つまり席は縦に4横に3の12席。
そのうち最後列の2席には資料が置かれていなかった。
だからAからJまで10人と言う事になる。
因みに俺は最後列の資料のあった席だからJと言う事だ。
「あのさ。せめてイニシャルで呼んでくれねえか?やりにくくて仕方ねえ。」
と俺の前の席のHが言った。
「この作戦は今日限りのものだ。だから今日限りの呼称で問題ない。
それにイニシャルだと誰かと被る恐れがあるだろう。
誰が本来のイニシャルを使って誰が譲るかなどと言う下らん議論につきあう気は無い!」
これは指揮官の言う通りだ。
実に効率的だし俺はこいつらの名前を知りたいとも思わないし何の問題も無い。
「わかったよ。」
Hは渋々納得したようだ。
「では説明を始める。
作戦開始は今から二時間後21:00だ。
作戦の内容は大まかに言えば森の中にいる少女の身柄の確保それだけだ。」
「おいおい、ちょっと待ってくれ。何か物騒な仕掛けとかあるんじゃねえか?
そうじゃなかったら一個中隊が護衛についてるとか。」
「発言するなら手を挙げてからにしろC。
そんな情報は無い。
普段なかなか所在が掴めない相手だから居所を掴んだ所で大勢で囲んで確実に確保したいわけだ。」
そこですっとBの手が挙がった。
「なんだ?B」
「あのよう。そうだとしてもたかが娘っ子捕まえるのに大の大人が10人。あんたもいれりゃ11人か?
いかにも大げさだよな?その娘っ子は何かやらかしたのか?」
「お前達には財団がそれなりの前金も払っているし理由は聞くなと言いたいが、そうもいかんだろうな。
但し聞く前に全員机の上の守秘義務規定にサインしろ。話はそれからだ。」
守秘義務規定の書類はさっきの資料の中にあった。
俺は一応文面に目を通してからサインした。
しゃべったら何が起きても保証しないから覚悟しろだと?
妹の手術代さえ確保できたらお安いもんだ。
他の資料は少女がいる館の見取り図とそこに対する侵攻計画が書かれた書面が一枚づつあった。
内容はこれから説明してくれるだろう。
「理由はその娘の血液にある。
その娘の血液は16歳の誕生日である今日に限って不老不死の妙薬となるからだ。」
そこまで指揮官が言った所で、この場は爆笑に包まれた。
「ハハハ・・ふ・不老不死だと?バカ言っちゃいけねえぜ。」
と耐えきれずCが言った。
「い・今頃そんないかがわしい話を信じるやつがいるのかよ。」
とEは息も絶え絶えにそう言った。
暫くこの場の笑いが止まりそうになかった。
すると一発の銃声が鳴り響いてその後は静寂が支配した。
銃を撃ったのは指揮官で銃口は天井を向いていた。
天井には大きな穴が開きそれが空砲ではない事を示していた。
「にわかには信じがたいだろうがお前達も言ってただろう?
たかが娘一人捕まえるのに大げさだとな。
破格の前金は何のためだ?
成功報酬は前金の三倍だぞ。欲しくは無いのか?
私の言う事を信じなくても素直に任務を完遂すれば手に入るんだぞ?」
そこまで聞くとさすがに全員黙るしかなかった。
当然だ。俺も含めてここにいるやつは全員金が欲しい。
多少の事は目を瞑ってもだ。
「全員異議は無いようだな。
では続けるぞ。任務遂行に当たって今から言う3つの事を守ってもらう。
1.少女は無傷で保護しろ
2.少女から勝手に血を抜くな
3.銃器の所持は禁止する」
「おいおい待てよ。
銃器の所持は禁止って何かあったらどうやって身を守りゃいいんだよ。」
「発言の前に手を挙げろと言った筈だぞ。C
まあいい答えてやる。
事故による誤射を防ぐためだ。
危険動物と間違えて少女を撃たれてはかなわんからな。
その代わりと言っては何だがナイフの所持は認める。」
そこまで聞いてCがすかさず手を挙げた。
「なんだ?」
「危険動物って何がいるんだ?」
「一般的なやつだ。こっちも班分けはするが単独行動はしない。
集団を襲ってくる動物はそうそういない。
適当に対処してくれ。」
「適当っておいおい。」
そんなCを無視して指揮官は続けた。
「まず少女の居場所だが森の中央の館に戻っている事を確認した。
動き出す前に捕獲するぞ。
では班分けとフォーメーションを確認する。
AとDとGで右翼から
BとEとHで左翼から
CとFとIとJと私は正面から突入する。
班の指揮は右翼はAが左翼はBが執れ。正面は私が指揮する。
以上だ。」
「待ってくれ。」
今度はHが声と同時に手を挙げた。
「何だ?」
「俺たちはあんたをなんて呼べばいいんだ?ボスとかでいいのか?」
「それでいい。」
これで指揮官の呼称が決まった。