八話 冬支度
山までの道はもう迷うことはなかった。山に入るとやはり一本道にしか見えなかった。行きでは見えない道があるのか。この間、帰り道が分からなくなったのはそのせいか。
山から赤色が少し抜けてきている。遠くでカケスのしゃがれた声が響く。冬が来る。もうすぐやってくる。山がそう言っていた。生き物にとっては過酷な環境となる。だからこそ備蓄や冬眠なんて知恵が生まれたのだ。生き残るために。人間だってそうだ。私だってそうだ。車に大量の食糧を詰め込み、重たくなった車体を引きずっていく。私は冬眠なぞできないが、生きるための知恵を蓄えてきた。これは人間の強みだ。
村に着いた。ガソリンはまだあと半分残っている。予備のタンクも3つある。一つ冬は越せるだろう。早速スイの家へ向かった。しかし家には人の気配が無かった。誰も居ないのか。寒い。車に戻ろう。
「先生じゃないですか。」
振り向くとハルが居た。私たちは軽い会釈を交わした。
「ところで御主人はいらっしゃいますか。」
「夫は先程離れに向かいましたよ。」
なんと、一刻も早く向かわねば。
「その離れには行ってもよろしいですかな?」
「いいですよ。案内しますね。」
ハルはなかなか気前が良い。
「ああそうだハルさん。私のことは佐伯で構いませんよ。」
ハルが微笑む。
「分かりました佐伯さん。では行きましょう。こっちですよ。」
そう言って離れに向かった。
離れにはスイが居た。横になっている。今まさに冬眠に入ろうとしていた。
8話でやっと主人公に名前つけた。特に考えてなかった。ちなみにまだ苗字だけ。