番外 シギ
私は久し振りにこの村を訪れた。いや、村だったものか。今はもう一軒家がポツンと建っているだけだ。雪崩で全滅したのだ。
正直、もう来ないつもりだった。しかし、スイが私を呼んだのだ。
「ハルを助けてくれた礼がしたい。本当はこちらから伺いたいが、あいにく動けぬ身故。どうか」
まぁいいさ。私も実験がしたかった。いろいろあってスイの冬眠の謎も解明できていないのだ。
さて、私はまたこの村にやってきた。季節は夏。青々とした木々が山々を覆っている。やはりここは美しいな。雪崩の痕も特に目立たない。瓦礫も遺体も綺麗に片付けられている。何もなかったかのように。
しかし、あの体験は紛れもなく事実。夢ではない。ここで私は殺されそうになったのだ。
そして、シギから感謝の言葉をもらった。なんの感謝かはもうわからないが、しっかりと受け取ってある。
ここは…あの祠があったところか。シギ…
助けて貰った恩人に、私もまた、惜しみない感謝の言葉を贈った。
さぁ、あの一軒家へ向かおうか。三年も経ったんだ。どんな暮らしをしているか見てこようじゃないか。
一歩踏み出すと、静かに風が吹き抜けた。
サワサワサワ…
ザーザーザーザー…
ミーンミンミンミン…
カナカナカナカナ…
耳を澄ませば森の音。この地はまだ、力強く生きている。その地に根を張り暮らすもの全てを受け入れて。




