最終話 厳冬籠もり春を待つ
私は人見に連絡を入れ、泣きじゃくるハルを支えながら、山を下った。
「先生!お久しぶりです。そちらの方は?」
「冬眠男の奥さんだ。今雪崩にあってな。村全体が潰れた。」
と、小さな声で状況を伝えた。
とりあえずハルを後部座席に座らせ、私の研究所へつれて帰った。
数日後
ハルは少し元気を取り戻したように見える。そう見えるだけかもしれんが。ペンダントはまだしてある。気になったので聞いてみた。
「ハルさん?そのペンダント、スイさんから貰ったものですよね?憎んでいたなら、どうしてずっとしているのです?」
「…スイは、夫は、私に良くしてくれました。私の気持ちも汲み取って、私に触れることはありませんでした。私が拒絶していた訳ではありません。シギを助けるために何かできないかと言ってくれたこともあります。私に謝ってきたことだってあります。確かに恨んでいました。ですが、私は決してスイが嫌いだった訳ではありません。しかし今ではどうでも良いことになってしまいました。」
「ではなぜ、あのとき顔をしかめながらそれを語ったんです?」
「それはあなたが!…あなたが余りに無礼だったからです。今だってそうです。私に対して気遣いと言うものは無いんですか?」
ハッとして、自分の行動を思い返してみる。確かに無礼な奴だった。
「すみません。研究所に籠もりっきりな毎日だったもので」
「まあ良いですが、しばらく放っておいてください。」
そう言って、ハルはホテルの予約をとった。
「宿泊代、私無一文なんで、払ってくれますよね?」
「え?えぇまぁ、はい。」
どっちが無礼なんだか。それでも、少しでも彼女の心が癒えるなら、ホテル代くらい払っても良いかもしれない。
冬が終わり、春が訪れた。
バカにならないホテル代と、人見の結婚式のご祝儀で、私の懐は金庫ごと無くなってしまった。
「いずれ宿泊代はお返しします。必ず。」
ハルがそう言ってくれたにもかかわらず、カッコつけて拒否してしまった。今は人見夫妻の居候となってしまっている。
ハルから手紙がきた。それによると、スイは生きていたらしい。雪に埋もれながら、冬眠を終えたのだった。その手紙には、「またいつでもいらしてくださいね」と、ずいぶん乱暴な字で書かれていた。
それから三年が過ぎ、私はもう一度村へ向かった。
そこには一件の小さな家が建っていた。
「どうも。」
扉を開けると、そこには幸せそうに笑う、二人の男女が居た。その胸には小さな子どもを抱えている。




